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彼には才能がありません

 親愛なる先生へ


 お元気ですか。

 私は似合わぬ職務に疲れていますが、なんとかやっています。

 課題の『寛容の精神』も修行の成果が見えてきました。

 先日のダンジョン攻略において、少々血を吐くような苦闘をしましたが、一度も勇者を罵倒することなく終えることができました。

 課題は達成されたのです。

 つきましては重なる疲労と体調不良のため、任務の途中ではありますが、療養休暇を申請したいと思います。

 どうかよろしくお願いします。


 貴方の弟子より



 書き上げた手紙に封をする。

 印章をペタと押す。

 今回は敢えて普段の自分とは似ても似つかぬ大人しい言葉遣いにしている。

 この天才サーモ・アリーナムが、こんなに控え目かつ謙虚な手紙を送ってくるとは、師匠も意外だろう。

 狙いは心神耗弱の疑いからの任務交替だ。

 これで交替させないようなら師匠は鬼だ。


 そう思って手紙を届けさせたのに。


『不可』


 と大書して送り返して来やがった!

 鬼か!

 鬼だったな、忘れてた!

 書き込まれたコメントを見ると、

『エビデンスが足りない。診断書無き体調不良による療養休暇は認められない』

 俺が仮病使ってるとでも言うのか!

 使おうとはしたけどな!

 ダメ元で訪れた治療院の診断書はもらえなかった。

 慢性的な倦怠感と肩こりと頭痛を訴えたのだが。

 豪快な院長に背中をどやされ『健康そのもの。ガンガン働け』と言われて、回復薬1個渡されて終わった。

 どんだけ働いても風邪一つ引かない丈夫な体が憎いぜ。

 


 あれから勇者は勇者なりに修行する気でいるようだ。

「僕、考えたんだよね。あの時どうしたら良かったのか。魂を壊さずに霊体を攻撃する手段があれば、僕も皆と一緒に闘えた」

 一理ある。

 でもお前そんな技持ってないだろう。

 『浄化』もそうだが、聖剣を用いた攻撃においても、勇者は常に大技ばかりだ。

 威力調節ができないのだ。

 多分、こいつの魔力調節の目盛はゼロと全力しかないのだろう。

「サーモ」

「なんだ」

「パワーの調節の仕方、教えて」

 そうきたか。

 一瞬『面倒くさい』と思ったが、考えるまでもなく魔法指導は世話役としての俺の仕事の範疇である。

 しゃーない、教えてやるか。



 勇者には全く才能が無かった。

 匙投げていいかな。



 忙しい職務の合間を縫って、魔法訓練のため、勇者をダンジョンに連れて行ったのだが。

 ダンジョンは中がだだっ広い荒野になっていて、大規模に魔法をぶちかましても外への影響はない所を選んだ。

 狂った精霊が無限に湧いて出る、対霊体戦闘訓練に最適な場所だ。

「まずは普通に攻撃してみろ」

「分かった」

 勇者が聖剣を構えた。

「『破邪一閃(ホーリースラッシュ)』」

 右上段から左下段への切り下ろし。

 極めて単純な基本攻撃だが、勇者の魔力が聖剣で増幅されて乗っている。

 大して気合も入れずに一薙ぎしたかと思うと、軌道上の狂った精霊達が次々に爆散していく。

 霊体は欠片も残らない。

 魔石すら残らない、完全なる破壊。

 ちょっと呆れて言葉が出ない。

 切っ先が届かない距離の精霊まで吹っ飛んでるよ。

 斬撃飛ばしてるわけでもないのに、余波か?

 基本攻撃の余波だけでこれか?

「…次は威力半分でやってみろ」

「分かった」

 まったく同じ結果になった。

 一振りで複数の精霊が爆発四散した。

 威力、下がってないように見えるが。

「ちゃんと半分に抑えたのか?」

「多分?」

「じゃあ次は四分の一で」

 まったく変わらなかった。

「威力下げろって言ってんだろうが!」

「やってるつもりなんだけど」

 色々試した結果、聖剣を振るうと、ただ振るっただけでオーバーキルになると分かった。

「聖剣を使わずに素手でやれ。基本攻撃魔法4種は旅立ち前に教わった筈だ」

「まあやってみるけど。『火焔(ファイア)』」

 火炎系攻撃魔法の基礎の基礎、魔法使い入門第一章で習う魔法が飛んだ。

 ロウソクの火みたいな小さい炎がポンと出てヒュンと飛んで狂った精霊にペシッと当たって…消えた…火が。

 精霊は『今何かした?』みたいな顔してそこにいる。

「…威力百倍でやれ」

「だからどうやるの? そこを教えてもらわないと!」

 勇者は威力調節のやり方が分からす、俺は教え方が分からなかった。

 風属性攻撃でも、水属性でも土属性でも、結果は同じ。

 普通に魔法を使わせると、弱い!

 物凄く弱い!

 魔法習い始めの一般人より確実に弱い。

 聖剣使えばオーバーキル、使わなければ威力ゼロ。

 どうしろってんだ。

「僕思ったんだけど」

 なんだよ。

「サーモって人にものを教える才能が無いよね」


 先生。

 生まれて初めて才能の限界を感じましたので、辞めさせて下さい。

 

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