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元の世界へ……聖女モモネ送還

 澄み切った青空。

 雷雲も磁気嵐も砂嵐もない、極めて安定した天気の日。

 絶好の送還日和である。


 事後処理でなんやかんやあって、十日ほど過ぎた。

 そして今日、送還実行の日を迎えた。

 失敗は許されないので、例によって私塾一門総掛かりの特製魔法陣を用いる。


 召喚した時は大分安上がり且つ手作り感溢れる魔法陣でやったんだったな。

 どうせ失敗するという目で見られてたのが、一発で成功、老害どもが泡食ってたのが痛快だったぜ。


 ……と少し前の思い出を懐かしんでいると、聖女が寄ってきた。


「サーモさん」

「おう、どうした。なんか用事か」

「もうすぐお別れだから挨拶みたいな?」

「そうか。向こうに戻っても元気でやれよ」

「うん、ありがとう。それでね、一つだけお願いがあるんだ。不躾なお願いかもしれないし、気を悪くされるかもしれないけど」

「言ってみろ」


 聖女は一つ深呼吸して、真剣な表情で言った。

「ガンファンクルみたいにならないで」


 一瞬、返事に困った。


 魔王にはならんと思うが、引きこもるなとか、研究バカになるなという意味だと……ダンジョン内にラボを構えるって発想、ちょっといいなと思った自分がいるので。


「……それは具体的にどういう点だ?」

「人との関係を断ち切らないで。周りの人ほとんど皆がバカに見えるんだろうけど、それでも対話を諦めないで。一人でどこか行っちゃわないで。他人の迷惑顧みず、自分の都合だけで何でも決める勝手な人にはならないで」


 ……聖女、お前そういう事ずっと考えてたのか。


「俺とガンファンクルは似てたか?」

「うん、割と共通点あると思う。自己評価高いとことか、その分他人を見下しがちなとことか」

 そうか。

「昔、デネボラに言われた事があってな」

「デネブちゃんに?」

「『天才は凡人に出来ない事が出来るけど、凡人が簡単に出来る事が天才には出来ない。凡人が当たり前に理解してる事を理解出来ない存在、それが天才』だってさ」


 聖女は暫し絶句した。


「……デネブちゃん、サーモさんの事『天才くん』って呼んでたよね? あれってそういう……?」

 俺は頷く。

「特別な事が出来るけど、普通の事が出来ないダメなヤツって意味さ」


 本当にデネボラは男に厳しい。

 姉弟子からの愛のムチって、勘弁してほしいよな。


「師匠からも度々課題出されててな。主に対人能力育成で。寛容さを身に着けろとか、勇者の面倒見ろとか」

 聖女はクスッと笑った。

「いいお師匠さんだね」

「ああ、そうだな」


 今なら分かる、俺は色んな人に心配されてた。

 まあ聖女にまで心配されるとは思わなかったが。


「約束する。俺はガンファンクルのようにはならない」

「絶対だよ」

「絶対に」


 指切りとかいう誓いの儀式みたいなのをやらされた。

 こんなもん魔術的にはなんの効力もないんだが。

 聖女は満足そうだった。


「お説教じみた事言ってゴメンね。サーモさんは割といい人だと思うよ。時々言葉がキツくなるけど話せば分かるし、荒っぽいけど根は真面目そうだし、最初はとっつきにくいと思ったけどしゃべってみるとそんなに怖くなかったし」

 これは一応、褒められてるのか?

 ……褒め返しておくか。

「お前もいい女だよ」

「えー、サーモさんでもお世辞とか言えるんだ〜。でも嬉しいな、ありがとね」

「お世辞じゃないぞ」

「あ、じゃあ今のこの顔? 美少女だもんね」

「いや、顔とかじゃなくて」


 聖女は何を言ってるんだ。

 お前の褒めるところなど一つしかないに決まってるだろうが。


「魂がすごく綺麗だぞ」

「えっ」


 聖女は虚を突かれた顔になった。


「聖杯に選ばれただろ? 神聖武器に選ばれる人間ってのは一定の条件があってな。カミサマの作った武器だから、カミサマの好みのタイプじゃないと選ばれないんだ。で、カミサマの好みというのが……」

「こ、好みというのが?」

「ピュアな魂、素直な性格、世俗の欲にまみれていない純真無垢な心」

「え」

「こっちはそういう条件に当てはまる魂を選び抜いて呼んでんだ。お前の魂、透き通っててめちゃくちゃ綺麗だぞ」

「え〜〜〜っ!」


 聖女の目が丸くなった。


「どどど、どうしよう、どうしたらいいのか分からないよ、褒められ慣れてないから!」

「落ち着け」

「だって『綺麗だ』とか! 生まれて初めて言われたし! これで動転するなという方が無理!」


 両手で顔を押さえて上半身をブンブン振ってキャーキャー言ってる。

 これは……喜んでいるのだろうか?

 突然の発狂に見えなくもない。

 そんなに狂喜乱舞する程の褒め言葉か?

 あの勇者にも当てはまるんだぞ?

 ピュアな(単純な)魂、素直な(単純な)性格、世俗の欲にまみれていない純真無垢な(単純な)心。


「あー、そろそろ時間なんだが」

「はっ、そうだった。もうすぐ本番なんだ。コンセントレーション、集中」


 聖女は頬を軽く叩いてキリッと表情を整えた。

 送還魔法陣へと歩いていく。


「リヒトくん、向こうで会おうね。シスター・フィリス、本当にありがとう。貴方と一緒に食べたご飯、今までで一番美味しかった。お世話になった神殿の皆にありがとうって伝えて。サーモさん、色々ありがとね! いいよ、やって!」


 そして聖女モモネはいなくなった。

 魔法陣の上に残されたのは、聖女の依代として使われた、どこかぼんやりした様子の少女が一人。


「シスター・フィリス、たった今、聖女様があちらにお帰りになりました…」

「エステル、貴女なのですね?」

「はい、私です、シスター・フィリス」

「具合の悪い所はありませんか?」

「いえ、どこも悪くありません」

「これまでの事を覚えていますか?」

「はい、何もかも夢のようですが」

「貴方が無事で良かった……主よ、感謝します」


 異世界人の魂が抜けて元の人格に戻った少女は、聖女とは似ても似つかない別人に見えた。

 顔の造作は変化してないはずなのに、人間の認識って不思議なもんだな。


 送還術をじっと見ていた勇者がボソッと呟いた。


「ふーん、あんな感じでやるんだね。大体分かった」


 何を分かったのか知らんが、次はお前だ、問題児。

 やっとここまで来ました。

 後少し、リヒトくんを送り返せば完結です。

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