魔(デーモンズ)王(キング)ジョー
「何あれ、ずるくない? 斬っても元に戻るとか! そんなの勝てっこないじゃん!」
聖女、再び絶叫。
それに対してシスター・フィリスが冷静に応じる。
「勇者様にも回復魔法を掛ければ傷は癒せますから、負けはしません」
いや、それは違うだろ。
ゴーレムは痛覚無いけど、人間にはあるだろ。
ゴーレムは心折れないけど、勇者は痛いと心折れるだろ。
なんなら気絶や即死も有り得る分、勇者が不利だ。
ガンファンクルがゴーレム使いである以上、ある程度デカいのが出てくる予想はしてたが、さすがに魔王城丸ごと一体のゴーレムにしてくるとは思わなかった。
持参したアイテム、通用するかな……。
甲冑騎士ムカデ合成型ゴーレムから不快な大音響が聞こえてきた。
『フハハハ、どうだね、我がデーモンズ・キング・ジョーの威容は!』
拡声魔道具を使用しているのだろう、若干割れたその声は魔王ガンファンクル。
「確かに異様です。特に脚のあたりが嫌悪感を催します」
シスター・フィリス、多分その感想は求められたものからズレている。
同感ではあるが。
キモいよな、ムカデ。
「デーモンズ・キング・ジョー? デーモンズキングは『魔王』だとして、ジョーはどこから?」
聖女よ、魔法使いのネーミングセンスに理由を求めるな。
あれは気分で付けてるだけだ。
それよりガンファンクルにダメージが無さそうなのが残念だ。
勇者に斬られた正中線上にはいなかったわけか。
そこにいれば一発だったのにな。
騎士部分の左右どっちかに寄った所に隠れてるのか、ムカデ部分に潜んでいるのか……。
これだけ原型留めない変形されると、どこに居るのか分からんな。
不快な大音響で尚も演説するガンファンクル。
『デーモンズ・キング・ジョーの大きさは体高およそ30メートル、全長およそ60メートル! 重量こそ計測していないが、全体的にドラゴンと比べても引けを取らぬどころか上回っている! まさに世界最大の魔物なのだよ!』
「およそおよそ、って適当に目分量で言ってるだけじゃねえか」
実測してから自慢しろ。
『この巨体をもってすれば、あらゆる魔物、あらゆる軍隊を一蹴できる! まさに最強!』
「うーん、確かにあれに踏まれたら一溜まりもないとは思うんだけど、すんなり最強とは認められない気がするのは何でだろう?」
聖女が首をかしげている。
それはだな、もっと最強っぽいヤツを知ってるからだよ。
ぽつねんと立ち尽くしていた勇者が、おもむろに言葉を発した。
「難しい話、終わった?」
体高30メートル(およそ)の騎士と、身長1.7メートル(およそ)の勇者の視線がかち合った。
第2ラウンドの始まりだな。