騎士型ゴーレム魔王城
いきなり下半身ムカデ上半身甲冑騎士の巨大ゴーレムに変形した魔王城。
その屋根から空高く打ち上げられた勇者。
「とりあえず勇者拾っとくか。ローズマリー、頼む」
俺の使い魔、ワイバーンのローズマリーを救出に差し向ける。
ちょうど近くを飛んでたから間に合うだろう、うん、間に合った。
優秀な使い魔が空中キャッチに成功、勇者はワイバーンの背に降り立った。
と思ったら。
「何やってんのリヒトくんはー!」
聖女、絶叫。
勇者がワイバーンから飛び降りやがった。
その落ちていく軌跡の先には騎士型ゴーレム魔王城。
あのバカ、ゴーレム魔王城を真上から斬るつもりか。
聖剣なら斬れることは斬れるだろうが、落下の衝撃は勇者にとってもシャレにならんと思うが?
『結界』って落下の衝撃にも耐えられるんだろうか。
脳内を検索してもその手の実験結果は見たことがない。
普通『結界』は地面に足つけて魔法や武器攻撃を防ぐのに使うものだ。
落下に対する効果は未知数。
てか多分死ぬ?
三人同じ事を思ったに違いない。
同時に勇者に向けて魔法を放った。
「『爆裂疾風』!」
「聖杯、お願い!」
「『防護』」
俺が放った風の魔法はほとんど散らされて魔王城に吸収された。
ケッ、そうなるだろうと思ってたよ!
吹いた風は落下速度を緩めるに至らない。
聖女が掲げた聖杯は空中に光の網を生み出した。
勇者を受け止める算段だったはずだが、勇者に触れる前に聖剣に突き破られた。
聖剣を下に向けて落ちてくる勇者が悪い!
聖剣と聖杯は互角なはずだが、勢いの乗った聖剣本体と聖杯が生み出した光の網とでは、聖剣の方が上だったようだ。
シスター・フィリスが掛けた『防護』は淡い光で勇者を包みこんだが……この状況で物理防御を上げて問題解決になるのか?
……なるかもしれんな。
傷一つない勇者が地面に深くめり込む様子が頭に浮かぶ。
我々の援護を大部分無にしつつ、勇者は落下の勢いそのままに、ゴーレム魔王城の脳天に聖剣を突き立てた。
騎士甲冑を模した兜の額に聖剣が突き刺さる。
根本まで突き通り、それでも勢いが止まることなく、兜の前面を上から下へ切り裂き、尚も止まらず、耳障りな音を立て、鎧の胸、腹、と切り裂きながら落ちてくる。
最後はムカデの腹まで切り裂き通し、勇者は地面に着地した。
足元にどデカいクレーターをこしらえて。
……生きてる?
着地の姿勢でしゃがんだまま微動だにしない勇者。
……死んでる?
正中線で真っ二つにされた騎士型ゴーレム魔王城。
巨体の上半身が切り口からゆっくりと左右に開いていく。
ゴーレム魔王城の足元でうずくまっていた勇者が動いた。
「ふうー」
深く息を吐き、立ち上がる。
生きてるじゃん!
「んもおー、危ない事するんじゃなあーい! さすがに怒るよ、温厚な私でも!」
聖女がキレてる。
危ない事をするのが勇者であり、討伐なんだが。
でもまあ言いたい事は分かる。
無茶するにも程があるよな。
勇者が生きてた安心感で、フッと緊張が緩んだ、その時。
真っ二つになったゴーレム魔王城の左右に開いて倒れかけていた上半身が、止まった。
斜めに静止している。
嫌〜な予感。
そこで止まるなよ。
倒れろよ。
念じるも虚しく。
ゴーレム魔王城は倒れなかった。
ゴーレムの両腕が己の肩を抱くように掴み、開いた切り口を閉じるように胴体を左右から中心へと引き戻す。
繋ぎ合わされた切れ目に魔法の光が走る。
見る見るうちに切り口がくっつき、塞がっていく。
やがてゴーレムの両腕が胴体を抱え込むのをやめて、脇へと下ろされた。
そこには修復を終えた完全無傷の甲冑騎士ムカデミックス型ゴーレム魔王城がいた。
……再生速いな!
無駄に高性能なゴーレム魔王城を前に、冷や汗が流れるのを感じる俺だった。
なんとなく毎日更新してますが、今週ちょっと用事があるので間が空くかもしれません。
エンディングはもうすぐそこって感じです。
リヒトくんも私もアクションが得意ではないので、クライマックスもこれが精一杯でしょう。
多分この先のストーリーは駆け足で終わります。
頑張ってリヒトくんとモモネちゃんをお家に帰そう。
お家に帰るまでが冒険ですから。