リベンジ! 魔王城
「何やってるの?」
「ちょっと挨拶をな」
魔王城外殻にある監視用ゴーレムに向かって中指立ててたら勇者が寄ってきた。
ヤツがゴーレム研究者だと分かって、そのつもりで魔王城を眺めてみると、あるわあるわ、ゴーレムと魔法陣が山のように仕掛けられている。
なんでこれに初見で気づかなかったのか。
あの時は野生の魔王城だと思い込んでたからなー。
ざっと見て監視用または戦闘用だろうと見当がつくゴーレムが少なくとも20台。
用途不明の謎ゴーレムがその倍以上。
魔法陣は数え切れない。
見える範囲だけで百基近くあるのではなかろうか。
見えない内部にはおそらくそれ以上、千を超えるかもしれない。
よく一人でこれだけ作ったな。
生きてるうちに作ったとしたら、そら死ぬわ、過労で。
※
嫌がらせ狭小ルームから自作の転移魔法陣で脱出した俺は、すぐさま師匠に詰め寄った。
学会員が魔王やってんじゃねーか、どうしてくれるんだ、と。
ぶっちゃけ学会を揺るがす大スキャンダルである。
ヒラ会員ならまだしも、ガンファンクルは導師級、弟子を取ってものを教えられる資格持ちで、研究者としても少しは知られた存在である。
それがダンジョンに住み着いたあげく、魔物化し、魔王化した。
人間の霊魂を魔石として回路に組み込んでいた件といい、余罪はたくさんありそうだ。
しかも師匠が知ってた『ガンファンクルがダンジョン引きこもりになったきっかけ』ってのが、これがもうあり得ない理由で!
魔女会が学会を叩くいいネタになっちゃうぜ。
この件に関して、俺はデネボラに積極的にネタをリークしていくつもりである。
学会の中でもド真っ黒なガンファンクルに目を向けさせれば魔女会はそっちを叩くので忙しくなる。
そのまま俺達のグレー疑惑を忘れてもらえれば好都合。
そうでなくても後回しにはなるから、こっちは一息つける。
どうせ学会なんて上の方は老害ばっかりなんだから、この機会に膿を出してしまえばいい。
頑張れ魔女会、老害共を叩き潰せ。
なんなら学会ごと潰して新しい団体を立ち上げるという手もある。
代表はうちの師匠でな!
師匠は嫌がるだろうけどな!
うちの師匠は鬼ではあるが、バカではない。
瞬時に情勢を見て取り、俺の要請に応じた。
探知魔道具で3人の居所を探り当て、転移魔法陣を提供し、転移で回収に行く俺に回復ポーション他、使えそうな多数の魔道具を持たせ、後始末は任せておけという頼もしさ。
ありがとう、師匠、持つべきものは太っ腹な師匠ですね。
感謝のしるしに、情報リークは今しばらく待ってあげよう。
政治的立ち回りはお早めにどうぞ。
俺がメンバー回収に飛び回っている間に、師匠は関係者各位に情報を回したらしい。
『臨界突破間近の魔王城に反社会的性格とみられるゴーレム使いが魔王として籠城中』という知らせは学会・神殿・王宮等を震撼させたのだろう。
なんか聖騎士が防衛出動したとか、国軍が王都防衛の準備してるとか、チラホラ聞こえてきたが詳しくは知らない。
俺には直接関係ない事だ。
俺は勇者パーティーの一員で、勇者パーティーは他とは連携しない独立した戦力だ。
連携したくても勇者がアレだから無理だしな。
俺達の仕事は最前線に飛び出して魔王及び魔王城を叩く事。
可能なら人里に被害が出る前に、魔王城を跡形もなくぶっ壊す事だ。
改めて国王の勅命をもぎ取ったから遠慮は要らない、やっちまえ。
つまり、新方式異世界召喚による魔王討伐は今やグレーではなく、真っ白!
魔女会も文句のつけようがない!
失敗したらグレーに戻されて、責任取らされるだろうけどな!
※
本日は晴天に恵まれ、絶好の討伐日和である。
勇者も何気に殺る気満々だ。
四人それぞれの転移先を情報共有してから妙に好戦的になっている。
「魔王は悪だ! 必ず倒すよ。僕を甘く見たこと後悔させてやる。あと、靴の裏洗いたい」
後半ちょっと意味不明だが、その意気だ。
南方大樹海でアースドラゴンやドラゴニュート相手に遊んでいた所を回収したが、遊び足りなかったのだろう。
その鬱憤は魔王に存分にぶつけろ。
シスター・フィリスも士気が高い。
「聖女様を海に落とすなど……悪魔許すまじ!」
ご自分も雪深い北方大森林に放り込まれて、猛吹雪の中で魔獣の群に囲まれてたのに、怒るのはそこですか?
まあいいか、頑張ってください。
あと悪魔ではなく魔王です。
聖女は今までで一番キリッとした顔をしている。
「魔王城は魔力の集合体なんでしょ? しかも魔力消費しても勝手に集まってきて補充される。それって魔法使いには無限のエネルギー源だよね。あのガンファンクルって人が魔力を良い事に使うとは思えないし。きっとたくさんの人が苦しめられるよ。私達がされたみたいに。そうなる前に止めよう。できれば一発殴ってやりたいけどね」
聖女が飛ばされたのは東方大海洋、陸地から離れた海中だ。
命の危険という意味では一番危なかった。
転移先が水中では呪文詠唱もできない。
並の魔法使いなら溺死待った無しだ。
イルカと一緒に悠々と泳いでいた聖女がおかしいのだ。
「聖女、お前よく生きてたな」
「聖杯に祈ったらイルカが助けに来てくれてね〜」
イルカって海の魔獣だぞ?
たまに漁船転覆させてるんだぞ?
「お前度胸あるな。見直したぞ」
「んふふ、それほどでも。サーモさんの方こそ大変だったでしょ? 魔法使えないのに」
「それがな」
魔法陣なら発動できるという新事実と、ナイフで魔法陣を描いて助かった事を伝える。
「え、ナイフで、って……まさか血で!」
「いや、地道に壁を削って線刻で描いた」
「なんだ、良かった〜。一瞬ゾッとしたよ。さすがに血染めの魔法陣は怖すぎるよね〜」
「そうか?」
血の魔法陣、やろうとはしてみたんだがな。
試しにちょっと線一本描いてみたら、液垂れしてまともに描けなかった。
下が石だからな、紙か布、せめて木の板だったら血で描けたかもしれないが、石だと吸い込まずに流れちゃうからな。
魔法陣は精密さが大事なので断念せざるを得なかった。
仕方がないのでナイフでせっせと壁を引っかいて線を刻んで描いたのだが、そのせいで変な所にマメができて痛い。
人差し指と親指の間とか皮が剥けてるし、これ後でポーション余ったら使っちゃおうかな。
監視用ゴーレムに向かって『挨拶』してから間もなく。
戦闘用ゴーレムがワラワラと動き出すのが見えた。
まあそう来るだろう。
侵入者に防衛戦力で対抗する、セオリー通りだ。
だがうちの勇者はセオリー通りには動かない。
せいぜい慌てろ、ガンファンクル。
「俺達は手筈通りにやる、勇者は好き勝手にやれ!」
「分かった!」
聖剣片手に飛び出していく勇者。
ザコには目もくれず、目標のいる深奥部目がけて突き進んで行く……地面を。
モグラか!
まあ相手は地下にいるんだし、斜め下に穴掘れば一直線かもしれんがな。
シュバババと土砂を撒き散らして地下へ潜っていく、その後ろ姿は間抜けだが、ほんのちょっぴり頼もしいような気がしなくもないような気が……錯覚だな。
聖女の呟きが聞こえる。
「リヒトくんは時々私の常識を超えていくよ」
俺の常識も超えられたよ。
さて、俺達はザコの掃討だ。
「対ゴーレム戦の要点は教えたな。やれるな?」
「任せて、掃除は得意だよ!」
「悪魔の手先を一掃してご覧に入れましょう」
この二人は本当に頼もしい。
襲いかかってくるゴーレムはガンファンクルが潤沢なダンジョン素材で作った魔石マシマシゴーレムである。
倒せば残るのは魔石の山。
師匠への手土産にちょうど良い。
聖女がゴーレムの動きを止め、シスター・フィリスが叩き壊し、残骸を俺がアイテムボックスに収納する。
このために借りてきた国宝級のアイテムボックスだ、いくらでも収納できる。
勇者が魔王城をぶっ壊したら、その破片も収納しよう。
大量の魔石で大儲けだ。
「サーモさん、ふざけた顔になってる」
「すまん。真面目にやる」
聖女に叱られた。
俺が魔石回収してるのは大儲けのためではなく、せっかく壊したゴーレムが魔王城に吸収されるのを防ぐためである。
ゴーレムも魔物だからな。
ほっといたら魔王城に吸収されて、資源として再利用されてしまうのだ。
それを妨害するのが重要なのである。
一見ただのゴミ拾いでもな!
そうやって三人の連携で着実にゴーレムの数を減らしていると。
シュポーンと何かが魔王の屋根を破って空に打ち出された。
剣を持った人だ。
勇者だ。
「排出された!?」
転移じゃなく物理で追い出されてる。
ガンファンクル実は強いのか?
地面が揺れた。
魔王城がグラグラ揺れながらその形を変えていく。
壁が無数のキューブ状に出たり引っ込んだり位置を変えたり…。
臨界突破か?
いや、あれは……。
声もなく見守る俺達の前で、魔王城は変形し、その全容を露わに立ち上がった。
歪な人形、馬上の騎士を戯画化したような形、天を突くような大きさのそれは。
下半身がムカデ型、上半身が人間型の超巨大ゴーレム。
ガンファンクルの野郎、魔王城をゴーレムにしやがった!