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勇者がご飯を食べません

「コメという穀物をさがしているのですが、ご存知ないでしょうか?」

 そう問いかけて来たのはシスター・フィリスという女性神官だ。

 俺と同じく異世界からの召喚者を世話している。

 俺が勇者担当なのに対して、彼女の担当は聖女モモネだ。


 聖女は勇者の女性版といった存在だが、聖剣でなく聖杯を使う事、治癒・浄化に特化している事など、多少の違いがある。


「コメ。聞き覚えがないが。どういう物なんだ?」

 この俺にも知らない事はある。


「聖女様の故郷の食べ物らしいのです。なんでも殻のついた小さな草の実のような種のような物で、殻を外して煮て食べるのだとか」

「麦とは違うのだな?」

「似て非なるものだそうです。こちらの料理はあちらとはかなり異なるようで、聖女様のお口に合わず、難渋しておられます。コメがあれば耐えられるとのご要望ですので、なんとか入手できないものかと…」

 シスター・フィリスの表情も暗い。

 心当たりを探してみると約束し、その場を離れる。


 食べ物が口に合わないとは難儀な事だ。

 そういえば勇者は朝寝はするが、食事に文句をつけたことはない。


 ふむ、一応、聞いてみるとするか。


「あ〜、よくいるよね、コメの飯を食べないと元気が出ないっていう人。パンでも麺でも美味しければいいと思うけど、コメ好きはこだわるよね」

「お前は大丈夫なのか? こちらの食事で」

「僕はおコメ教の信者じゃないからね。塩味の効いた焼き肉とポテトがあればそれでいいかな」

 おコメ教。

 信仰対象か。

 なるほど、それなら可能な限り対応せねばなるまい。

 教義により食べ物が制限される例はこちらの世界にもある。


 勇者からコメなる物の特徴を詳しく聴き取り、改めて料理人にも聴き取り調査した上で、植物図鑑を検索し、使い魔経由で師匠に問い合わせた結果などを総合して、俺は市場へと出向いた。

 輸入食材を扱う露店の片隅に似た物があった。



 そして後日。

「ありがとうございます、アリーナム様」

「大した事ではない。気にするな」

 それらしい物を一袋買ってきただけだからな。

 ハズレならハズレで仕方がないとも思っていたし。

「聖女殿のご様子は?」

「大層お喜びです。『長粒種っぽい。でも嬉しい』と御自ら調理なさいまして、水気がなくなるまで煮込んだそれを『美味しい、美味しい』と泣きながら召し上がりました」

「それは何よりだ」

「アリーナム様には聖女様より心からの感謝をお伝え申し上げます」

「ご丁寧に。こちらこそお役に立てて良かった」

 互いに礼をして別れる。

 職務外だが、シスター・フィリスはまともな人だし、困っているなら力を貸すのもやぶさかではない。


 それにしても、今回はたまたまうまくいったが、あちらとこちらでは植生が違う。

 世界が異なれば生物の進化も異なるのだ。

 似た物を常に見つけられるという保証はない。


「突然だが、何か今夜食べたい物はあるか?」

「あ、僕要らない。さっきモモネさんに誘われたんだ。『おコメが手に入ったからライスパーティーしよう』って。パエリヤとか作るって言うからさ」

 どうでも良いが、お前、おコメ教の信者じゃないとか言ってなかったか?

「久々に故郷の味を楽しんでくるよ」

「そうか。よかったな」



 更に後日。

「聖女殿から食事の誘いが来ているが」

「いないって言って」

 いるじゃないか、そこに、珍しく。

「あの人しつこいんだよ。『おコメを食べないと力が出ない、成長期の若者にはおコメが必要』とか言って。こっちの材料で作れるメニューは限られるから、おんなじ料理の繰り返しだし。もうやだ。焼き肉の方がいい」

結界(サンクチュアリ)

 勇者は結界に閉じこもってしまった。


 さてどうしたものか。

 聖女殿を傷つけないように断る上手い方法を思いつくことができれば…。


 無理だな、うん。


 俺はシスター・フィリスに『勇者が布教お断りだって言ってます』と伝えに行った。

 その後彼女が聖女にどのように伝えたか、それは俺も知らない。

作中に登場する「おコメ教」はフィクションであり、実在の人物・団体・宗教とは一切関係ありません。

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