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サーモ・アリーナム

 なんか変な夢を見ていた。


 学校の教室で何かの筆記試験を受けさせられているんだが、問題を読んで解答を書こうとすると、途中で問題文が書き換えられていく。

 読んでる最中にすら文字が変化していくんだから、正答の出し様がない。

 嫌がらせか?

 不正出題じゃねえか。

「こんな不当な試験に解答する義理はない!」

 机叩いて立ち上がる俺。

 呆然とする試験官。

 そもそも一級術師取得済みの俺がなんで今更、学生と一緒に試験なんぞ受けにゃならんのだ。

 そこからして既に矛盾であり、侮辱である。

 教室から出ようとする俺、出すまいとする試験官。

 は?

 態度が悪い?

 試験放棄するなど学生失格?

 おう、なんとでも言え。

 俺より頭の悪いやつに何か言われて傷つくような俺ではない。




 ……といった夢から覚めて、変だなぁと思った。


 試験なんかサラッと解いてサラッと見直して、半分以上時間が余って、時間がもったいないからサクッと提出して、教室出て図書館にでも行く、それがスタンダードじゃなかったか?

 答えが書けないとか、教室から出ちゃいけないとか、そんな経験一度もない。

 当然だが試験の夢にうなされた事もない。

 他の奴らが『試験の悪夢を見た』とか話してるのをたまに聞くが、俺は共感できなかった。


『試験って授業より楽で楽しくてすぐ終わる、お得な日だろ?

 それがなんで悪夢になるんだ?』


 そう口に出したらめちゃくちゃ嫌な顔されたがな。

 まあ若気の至りというやつだ。

 今では俺も大人になったから、世の中には試験で苦しむ者もいるのだと理解している。

 それはさて置き、この俺が試験で正答を出せない夢など、見る道理が無いのだが。


 怪しい。

 と思ってその辺の床を調べてみたら。


「…あった! やっぱり精神操作の魔法陣が!」


 俺が今いる場所は魔王城のどこか、例によって淡く光る魔石や魔力結晶に覆われた狭い部屋である。

 家具も何も無い、天井の低い四角い空間。

 立ち上がったら頭をぶつけそうだ。

 ガンファンクルが牢屋として作ったものだろう。

 そんな小部屋の床に目立たぬ形でひっそりと刻まれた魔法陣が。


 強制転移先として前々から用意されていたのか、あの場で即席に作ったのかは知らないが、悪夢を見せる魔法陣を仕込んでおくとは、なかなか手の込んだ嫌がらせである。

 クローゼットくらいのスペースしかない嫌がらせ部屋で、俺は現状を整理すべく、魔法陣を避けて座り直した。


 俺達がバラバラに転移させられた事は疑う余地がない。

 各自、死ぬ確率の高い場所、二度と帰れそうにない場所に送り込まれた事だろう。

 勇者はどこでも平気だろうが、メンタル弱そうな聖女と、一介の聖職者にすぎないシスター・フィリスは心配だ。

 一刻も早く救出しに行くべきだが、困った事に魔王城の中では俺の古代語魔法が発動しない…。


 ん?

 古代語魔法が発動しない?


 おかしい、矛盾する。


 ガンファンクルは学会に所属する魔法使いだ。

 ヤツが使うのは古代語魔法だ、それ以外あり得ない。

 だが事実として、古代語魔法は魔王城ではほぼ発動しない。

 神聖魔法なら魔王城でも発動すると確かめられたが、神聖さの欠片もないヤツが神聖魔法を使えたとも思えない。

 性悪アンデッド魔王が使う神聖魔法って何だ。

 どんな神がそんなヤツの祈りに応えるんだ。

 俺が神ならヤツの祈りになど応えない。

 むしろ天罰当ててやるわ!


 宗教的懐疑はさて置き、結果が転移である事から見ても、ヤツが使ったのは空間魔法であり、古代語魔法の一分野に相違ない。

 つまり、魔力を片っ端から吸収しまくる魔王城内部において、古代語魔法を発動させる方法が存在するという事になる。

 だがどうやって?

 視力強化などの体の中で完結するものはともかく、外に出した瞬間、魔力が吸われてしまうのに…。


 ハッと足元を見た。

 魔法陣がある。

 俺に相応しくない、クソくだらない夢を見せたお粗末な魔法陣が。


 これか?

 これが答えか?

 魔法陣に魔力込めれば霧散せずに発動するのか?


 そう考えると思い当たる節がある。

 魔王城の外観を見た時、なんか不自然な規則性があるなと感じた。

 壁に幾何学図形が隠れてるような印象を受けた。

 あれが魔法陣だったとすれば。


「外から見て分かる所に思いっきり魔法陣刻んでたんじゃねえか! 最初に気づいていれば!」


 悔しい、悔しすぎる!

 なんだその『答えは目の前にぶら下がっていたのだよ』みたいなノリは!

 ムカつく、ムカつく、ムカつく!!

 明白な手がかりに気づかない自分にも腹が立つが、これ見よがしにチラつかせてくるガンファンクルにも腹が立つ。

 おまけにこの牢屋にも魔法陣。

 嫌がらせか?

 嫌がらせなんだな?

 性格悪すぎるぜ、魔王ガンファンクル!


 体が動かないとか言ってたが、それが事実だとしても、ゴーレム研究者なのだから、ゴーレムを使えば好きな場所に魔法陣を設置できる。

 ラボで魔法陣を石板に刻んで、それをゴーレムに運ばせればいいんだからな。

 そうやって外壁に空間魔法を仕込んだり、ラボの床に転移魔法を仕込んだり、牢屋の床に精神操作魔法を仕込んだりしたわけだ。

 やってくれたなガンファンクル、脳ミソ死んでるくせに!


 ともあれ脱出の手がかりは手に入れた。

 俺が魔法使いである以上、外に放り出すより魔王城に閉じ込めとく方が確実に殺せると踏んだのだろうが、そうはいくか。

 俺だって魔法陣は描ける。

 汎用性の高い魔法陣は暗記してるし、転移魔法もその一つだ。

 描こうと思えばいつでも描ける。


 ただし、ここにはペンもインクも無いけどな!!


 師匠、ここに今すぐ画材セット届けて下さい!

 まあ無理だろうなとは思いますけど!


「インク、絵の具、木炭でもなんでもいいんだ、線が描けるもの…」


 自分の持ち物をひっくり返して探す。

 なんかないか、なんか。

 ふと手を止めた俺の目の前にはナイフが一本あった。

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