魔王城深奥部
魔石の声が聞こえる三人の証言と、俺の透視で得た情報を照らし合わせて、態度のデカいしゃべるヤツの居場所の見当がついた。
マジで魔王城深奥部、最下層のド真ん中だ。
シャレにならない。
「声の主は魔王だと思う人〜」
「「「……」」」
無反応。
なんでだよ。
絶対、魔王だよ!
「疑わしいとは思うんだけど、逆に魔王だったら話しかけてくる理由がわからないなーって」
聖女が腕組みして首をひねる。
まあ一理ある。
が、声の主がゴーストである場合、ゴーストなんて大概まともな思考力を持ってないので、ヤツらの行動原理なんて考えても仕方がない。
ゴーストでないなら魔王だが、これまた謎めいた存在だ。
その考えを推し量るのも不可能だろう。
「悪魔の類かとは思いますが、魔王と呼ぶには小物感があるので…」
シスター・フィリスはメイスを素振りしている。
悪魔なら倒す気満々だな。
頼もしいです。
頑張ってください。
「え、なんで皆そんなに疑うの? 体が動かなくて困ってる人でしょ? 早く助けてあげようよ」
勇者よ、お前は少しは人を疑え。
とにかく俺以外の三人が行く気なのだから、俺が妥協するしかない。
だが妥協しっぱなしではない。
譲歩した分、要求もする。
深奥部へのルートとしては順当に行くならメインストリート(魔王の消化管)を下って行くのだろうが、馬鹿正直に相手が用意したルートを通りたくはない。
行くなら相手の裏をかきたい。
「なので勇者よ、やれ!」
「まあいいけど」
勇者が聖剣を足元の床(全面魔石張り)に突き立てる。
そのままクルリと一回転すれば、あーら不思議、床が脆くも壊れ去って、下層へと繋がる縦穴が。
さすがに最下層まで一息にとはいかないが。
下の階層へ降りる度にこうして聖剣で床を突き破って行けば、罠の大半を回避しつつ、最短時間で深奥部に到達できるというわけだ。
「この調子で行こう、どんどんやれ!」
「まあいいけど」
※
着きました、最下層。
いや〜、早かったね。
つまらなさそうに聖剣を振るう勇者の有能っぷりと言ったら、召喚してから初めて役に立ったんじゃないか?
「よくやった、褒めてやる」
「初めてサーモに褒められたよ。一応、ありがとう。なんか素直に喜べないけど」
喜べばいいじゃん。
俺が振った役割『態度のデカいしゃべるヤツの裏をかく直通ルートを作る』に何か不満でも?
最下層中央…魔王城深奥部の景色は上層とは趣を異にしていた。
チラホラと結晶構造が見受けられはするが、それは柱の装飾程度でしかない。
磨き上げられた鏡面のような床。
垂直な壁。
壁面に備え付けの棚があり、物が置かれている。
置かれているのは…書物、筆記用具、コーヒーカップ、水筒、帽子、手袋…。
人間が使う物ばかりだ。
全体的に茶色っぽい。
帽子と手袋は多分、男物だろう。
総合すると男の書斎といった雰囲気なのだが…。
変な物もあるな。
魔物のホネとか。
巻貝とか。
毒々しい色合いのキノコとか。
干からびたイカとか。
上皿天秤とか、試験管とか、薬瓶とか。
「錬金術師の研究室って感じだね」
聖女がボソッと呟く。
あっちの世界にも錬金術あるのか。
「錬金術師とは失敬な。これでも私は導師号を持つ学会員だ。鉛を黄金に変えるとほざくような詐欺師とは格が違うのだよ!」
俺にも聞こえる声が轟いた。
見たくなかったけど、そっちを見た。
態度のデカいおっさんがデカい机の向こうで椅子に腰を下ろしてふんぞり返っていた。
「大体、天井を破って入ってくるとは何事だ! 目通りを願うなら、ドアから入れ、ドアから!」
青筋立てて怒鳴っている。
座っているから全体像は分からないが、ぱっと見、大柄ではない。
人間だとしたら中年男性、服装は上品だがやや古びた感ありか。
俺はおっさんを無視して仲間三人の方を向いた。
「一応確認するが、上で聞こえた声はあいつだな?」
三人、頷く。
よし、分かった。
魔王、威厳無し!