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霊魂魔石

 結論から言おう。

 勇者は捕獲された。

 俺が目星を付けた『霊波を出す石』の前で。

 待ち構えていた聖女とシスター・フィリスに左右から腕を取られ、戸惑っている。

「何? どうして二人とも腕組んでくるの?」

「「逃走防止です」」

 ちなみに俺は『姿が見えると警戒されるから』と離れた所で待機を命じられた。

 面白くない気分である。

 


「一応聞いといてやるが、この石集めてたのはどういうわけだ?」


 魔王城は魔力の固まりで出来ている。

 固まり具合は均一ではなく、純度の高い結晶もあれば、さっきまで魔物でしたという見た目のヌメッとした石もある。

 勇者が集めていると思われる『微弱な霊波を出す魔石』は結晶にはなっていないが、純度の高そうな透明感のある丸い石だった。

 とは言え、魔力が詰まっていそうな魔石など、この魔王城にはそこら中にある。

 霊波が出ている事以外は単なる魔石としか思えないのだが。


「え、分からない?」


 左右から聖女とシスター・フィリスにガッチリと捕まえられた勇者が小首を傾げる。


「その声を聴けば分かるよね?」

「誰の声をだよ。石がしゃべるわけないだろ」

「ちゃんと聴けば分かるって。耳を澄ませて、純粋な心で聴いてみてよ」


 純粋な心ときたか。

 生憎その手の物は持ち合わせがなくてなー。


 おざなりに石を耳に近づけてみる。

「なんにも聞こえん」

 貝殻から潮騒の音が聞こえるとかいう迷信があるが、あれは貝殻の内側に自分の血流の音などが反射してそれっぽく聞こえてくるだけだ。

 石には貝殻のような空洞もなく、耳に当てても声などするわけがない。


 ところが。

「あの〜、私、人が喋ってるのが聞こえた気がするんですけど」

 と聖女が言い出し、

「実は私も複数の人の会話のようなものが…」

 シスター・フィリスまで。

「ね? 聞こえるよね?」

 勢いづく勇者。


 三人の視線が俺に向く。


 何だよ。

 俺か、俺が悪いのか?

 石から声がすると主張する方がおかしいと思うんだが、違うのか?

 

 違ってるらしかった。





「…要するに、これらの石は人間の霊魂であると。魔石になりかけているが、自我を保っていて、会話ができると?」

 勇者はブンブンと頷いた。

 既に女性陣による両腕の拘束は解かれている。


 勇者がポケットに入れていた石は6個。

 新たに壁から取り出したのと合わせて7個。

 七人分の霊魂が目の前にいる事になる。

 俺には声など聞こえないのだが、他の三人は聞こえると主張している。

 だったらそうなんだろう。

 俺だけ聞こえんというのはちょっと悔しいが、霊魂との親和性の問題だからな。

 神聖魔法の使い手の方が感度が高いんだろう。


 それにしても霊魂がこのように物質化するとは。

 ダンジョン内でゴーストが可視化されるのは知ってたが、魔王城内では丸い石になるんだなぁ。

 これ学会に提出したらセンセーションを巻き起こすんじゃないかな?

 一つくらい持って帰って研究しても…。


「今、何か悪い事考えてるように見えるんだけど」

 勇者がじっとりとした視線を向けてきた。

「気の毒な人達を研究材料にしようとか思ってないよね?」

「勿論、ソンナ事思ッテナイサ」

「喋り方がぎこちないんだけど」

「ソンナ事ハナイサ」

「やっぱり怪しい」

 勇者はわざわざ俺を回避する形で、霊魂魔石をシスター・フィリスに手渡した。

「預かってくれる? サーモに持たせると何するか分からないから」

「分かりました。お預かりしましょう」

「それと、今すぐじゃなくていいから、この人達を解放してあげたいんだ。できるかな?」

「このような状態の霊魂は初めて見ましたので、絶対にとは言えませんが、神殿に戻ればなんとかなるかと」

 シスター・フィリスは霊魂魔石を両手に乗せて、少し驚いた顔をした。

「動く…のですね」

「うん、なんだか引っ張られるみたいなんだよね。ほっとくと転がって行きそうだから、気をつけて」

「マジックバッグに入れる方が良いですね」

 シスター・フィリスは首に下げたロザリオに霊魂魔石を近づけた。

 ヒュンと吸い込まれていく霊魂魔石。

 あのロザリオ、アイテム収納になってんだ、へー。

 旅の神官が荷物少ない訳が分かったかもしれん。


 一つ、また一つと霊魂魔石がロザリオに収納されていく。

 最後の一つを勇者が名残り惜しげに見つめる。

「この子が最初に話しかけてきたんだ。他にも頑張ってる人がいるって教えてくれたのもこの子だし。いい子なんだよ」

 いい子はゴーストにならないと思うが。

 アレだろ、現世に恨みとか執着とかがあるんだろ?

 大体はろくなもんじゃないよな。

「また人の悪そうな顔になってる。ほら、純粋な心の目で見て。絶対気に入るよ。可愛いよ?」

 石に可愛いも何も。

 だが聖女が覗き込んで、

「あ、本当だ。この子本当に可愛いよ。見て見て〜」

 俺に見せつけてきた、その石には二つの小さな突起があった。

 ほぼ三角形で、やや先端が丸く、表面中央に窪みのある一対の突起。

 それが想起させるものは…。


「猫耳!」


 猫耳魔石。

 …ちょっと可愛いかもしれない。

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