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勇者が結界から出てきません

 俺の名前はサーモ・アリーナム。

 同世代の中では世界一と言っていい天才魔法使いだ。

 生まれてこの方挫折や躓きとは縁がなかったこの俺が、今、人生初の躓きを迎えようとしている。

 原因は俺のエリート街道に突如現れた一つの小石だ。

 それは痩せた小柄な青年の形をしている。

 小石のくせに退かせない、迂回もできない、背負って歩もうとするとだんだん重たくなって、放りだそうにも放り出せない、迷惑極まりない奴。


 そいつの名は勇者リヒト。

 異世界から召喚された男である。


 そもそも勇者とは何か。

 簡単に言えば魔王討伐に特化した戦士である。

 それを異世界から呼ぶには当然ながら理由がある。

 魔王を討伐するには聖剣などの神器を用いる必要があり、それらを用いるには適性のある人材が必要になる。

 その適性こそが勇者特性なのだが、これがこの世界では非常に見つかりにくく、逆に異世界からならとても見つけやすい。

 近年は研究が進んで、召喚にかかる魔力が従来の1万分の1以下で済むようになり、尚且つ、被召喚者を元の世界に時間と場所のズレなく送還できるようになった。

 召喚のハードルが思い切り下がったわけだ。

 社会への異議や当事者の心理的側面など、考察すればきりが無い。

 今重要なのは勇者リヒトが異世界から召喚された事、そして同行者兼世話役代表として俺が任命されたという事だ。


 謹んで拝命したあの日の俺に言いたい、想定が甘すぎたと。

 勇者、あれは人間の形をした小石だ、小石には人の話を聞く耳が無いんだ。


「いつまで寝腐っとるんだ!」

 何度ノックしても声をかけても一向に返事がない勇者に痺れを切らし、強引に押し入る事にした。

 幸い宿屋の個室は単純な内鍵なので、魔法で容易く解錠できる。

 チョチョイと開けて室内に入る。

 ベッドの上のこんもりと盛り上がった布団を容赦なくめくる。

「起きろ!」

「うう〜、何? 検温?」

「朝だ!」

「ご飯要らないから寝かせて〜」

「甘えるな!」

 布団をかけ直そうとする勇者、させまいとする俺。

 二人で布団の引っ張り合いになる。

 聖剣を持っていない状態の勇者の腕力は人並み程度だ。

 俺が勝った。

 だが布団を奪ったくらいでは勝利ではない。


結界(サンクチュアリ)

 勇者がボソッと呟くと、淡い燐光を放つ半球が出現した。

 勇者の固有魔法の一つ、『完全結界』だ。

 これはほぼ全ての魔法攻撃・物理攻撃を無効化する。

 おまけに内部の環境を最適化するときた。

 つまり布団がなくても寒くない。


「起きろー! 起きんかー!」

 俺の努力も虚しく勇者はそれから30分近く寝続けた。


 クソッ、『結界(サンクチュアリ)』め、いつか突破してやる。



 脳の半分で『結界(サンクチュアリ)』の攻略方法を模索しながら、並行作業で早寝早起きの重要性について勇者を諭す。

 勇者は遅い朝食を取りながら時折相槌を打つように頷いている。

「という事で早寝早起きを心がけるように。布団にしがみつくような真似はするな」

「うーん、ごめんね。自由な体勢で寝られるのが気持ち良くて、ついうっかり寝過ごしちゃった」

 ついうっかりで結界を張るな。

「自由な姿勢で眠るのなんぞ当たり前の事だろう」

「まあねー、普通はそうなんだけどね。あっちではここ2週間くらい仰向けにしか寝られない日が続いてて」

 なんだそれは。

 腰でも痛めたか?

「本当にうつ伏せに寝られるのって最高だよ! ちょっと斜め横向くくらいじゃ寝返り打った気がしなくてさ。こっちに召喚されて、自由に寝返り打てる体になって、本当に良かった!」

「そうか。お前も大変だったんだな」

 思えば師匠も『ぎっくり腰は辛い』と言ってたな。

「それはそれとして、明日からちゃんと起きるんだぞ?」

「わかった」



 そして翌朝。


「起きんかー!」

結界(サンクチュアリ)



 いつか突破してやる!


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