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壁の中の小さな何か

 僕の耳に届いたのは微かな泣き声だった。

 救いを求める、多分、子どもの声。


 他の人には聞こえないくらいの、小さな、ほんとに小さな声。

 でも空耳じゃないって直感で分かった。


 今すぐ助けに行かないと、あの声は多分もうすぐ消えてしまう。

 そんな感じがした。


 あきらめないで。

 僕がいるよ。

 すぐに行くから、そこで待ってて。


 声が聞こえる方にまっすぐ行く。

 壁があるけど、聖剣を振り下ろしたら簡単に割れた。

 カシャーンと軽い音を立てて砕ける壁の欠片は皮膚に刺さることもなく、粉雪のように消えていく。

 魔力を固めて作られた壁は結合力を失うと脆い。


 幾つもの壁を壊す。

 道を作りながら進んで行く。

 後ろの方で壁が再生してる気配がするけど、気にしない。

 戻りたければ戻れる。

 魔王城の壁なんかで僕を閉じ込める事はできない。


 ガラスの迷路みたいな魔王城の中を、壁を壊しながら駆け抜ける。

 小さな声の元へ。


 宝石みたいな光る石がたくさん埋め込まれた壁の一角に、その子はいた。


 来たよ。

 待たせてごめんね。


 壁に手を伸ばす。

 聖剣を使うと壊してしまうから、指先に魔力を込める。

 丁寧に、慎重に。

 デネブちゃんに教わったやり方で。


 その子はか細い声で必死に訴えかけてくる。

 お姉ちゃんと喧嘩したまま仲直りができてない事。

 このまま死ぬわけにいかないと、頑張って抵抗していた事。

 他にも取り込まれるのを嫌がって抵抗を続けている人がいる事。


 うん、うん、そっか。

 頑張ったんだね。

 えらいね。


 壁が片手で掴める範囲だけポロリと剥がれて、その子は僕の手のひらに落ちてきた。


 小さな霊魂。


 ほとんど魔石になりかけの、でもまだなりきってない『人間』のゴースト。

 澄み切った透明な部分が残ってる。

 お姉ちゃんと仲直りしたい気持ちを残してて、人間だった自分を覚えてて、まだ人間であろうとして、魔王の一部になる事を拒んでいる、小さな幽霊。


 魔王城に引っ張られて、閉じ込められてしまったんだね。

 大丈夫、自由になれるよ。

 お姉ちゃんと仲直りできるかは分からないけど、お空の神様の所には行けるようにするから。

 そういうの得意な人が僕と一緒に来てるから。

 ちょっと乱暴な人も1人いるけど、悪い人じゃないから。

 だから。


 僕と一緒に行こう。





「何をやっとるか、ボケ勇者!!」

 ドンガラガッシャーンと壁をぶち壊して乱入してきた人がいる。

「うるさいの来ちゃった」

「誰が『うるさいの』だ! 喧嘩売りたいのか、売るなら買うぞ!?」

 ちょっとしんみりしてたのに。

 雰囲気台無しだよ。

 この子も怖がってるし、さっさと逃げよう。

「ごめんね、僕まだちょっと行くとこあるから」

「この状況でその言い訳が通用すると思うか!」

「本当にやる事あるんだって」

 この子と同じ、頑張って抵抗中の人を全員回収しないとね。

 魔王城ごと吹き飛ばしたら、魂が壊れちゃうよ。

 そういう巻き添えは良くないよね。

「じゃ、ちょっと行ってくる」

 小さな魂をポケットに入れて、次の魂を回収しに行く。

 邪魔な壁を聖剣で壊しながら。

「待たんかボケー! せめて説明していけー!」

 乱暴な人がなんか言ってる。


 うん?

 なに?

 あの人、怖い?


 怖がらなくていいよ。

 サーモは言葉は乱暴だけど、君には酷い事しないよ。

 猫には優しいし。

 多分、君にもきっと…。

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