壁の中にいる
近くで見る魔王城は奇妙な美しさがあった。
水晶に似た六角柱を向きも大きさも色合いもバラバラにつなぎ合わせた、非対称の連続なのだが、どこか秩序を感じさせる。
無限に連なる幾何学図形を見るような…。
「魔物がいないね」
「吸い込まれたものはどこに行ったのでしょうか」
「推測だが、中心部までまっすぐ歩いて行ったのだろう」
俺たちが歩く魔王城メインロードは一本道だ。
魔力を吸収するための吸い込み口だからな。
分岐もない。
ただ広いトンネルが緩やかなカーブを描いておそらくは下方へと伸びているだけだ。
「私達、魔王のお腹の中に入っていく感じだよね。口から入ったとして、今は喉の奥くらい?」
「そんなもんだな」
「体内にしては明るいのが不思議です」
それだ。
俺も魔王城に入ったのはこれが初めてだが、意外に明るい。
真昼とまではいかないが、小さな文字でも読めそうな感じだ。
足元を見ると影がない。
壁や天井を見ても特に光を発している様子はない。
という事は。
「魔力光だな」
「魔力光?」
「ここにいるのは皆、魔力を感知できる人間だからな。普通なら集中して見ようと思わないと見えないもんだが、これだけ魔力に囲まれてりゃ意識しなくても可視化されるんだろう」
「私達、魔力が発する光を見てるの? え、それって放射線とは違うよね。体に悪くないかな?」
「何を心配してるのか分からんが、大量の魔力を浴び続けると体に変化は起きると思うぞ」
魔物になるとかな。
「ダメじゃん!」
「安心しろ。年単位で浴びればの話だ。1日や2日では何ともならん」
「本当に? 病気になったりしない?」
「しないしない」
魔王城に人間が入って出てきた例がないから、証明はできないけどな。
「それにしても勇者様が見当たりませんね。どこまで行かれたのでしょうか」
シスター・フィリスが左右を見回しながら言う。
分岐も小部屋もないからすれ違うはずはない。
この道(魔王の消化管)にいるはずなのだが…。
「全力疾走して、うーんと先の方に行っちゃったとか?」
「やりかねんな」
あいつ馬鹿だからな。
魔力吸収のせいで探査魔法が発動しない。
目視で探すしかないのだが…。
「…………見えた」
四方八方を埋め尽くす魔力光に紛れて、明らかに異質な魔力。
異世界の魂の放つ魔力光が見える。
壁の中に。
なんで壁の中にいるのか、謎だがな!