潜入! 魔王城
地面に降り立った俺たち一行。
ちょっとシスター・フィリスがよろけているが、まあ乗り物酔いみたいなもんだろ。
ワイバーンは上空に飛ばしておく。
何かあったらまた呼べばいい。
「勇者に近接攻撃を試してもらうが、その前に」
魔王城が反撃してくるかもしれないし、戦闘の余波も馬鹿にできない。
勇者本人に結界張らせるのは当然として、聖女にも防御に回ってもらわねばならない。
あらかじめ全員をカバーする防御結界を…。
…と指示しようとした矢先に。
「誰か困ってる人がいる。ちょっと助けに行ってくる」
勇者が魔王城の正面玄関(魔物吸い込み口)にヒョイッと入っていった。
それっきり姿が見えなくなり、気配もしなくなった。
「…」
誰もが無言だ。
何か言わねばと思うが、言葉が出てこない。
勇者よ、何故今そこに入ろうと思った?
魔王城にいる困っている人ってなんだ?
魔王か?
魔王が困っているのか?
助けに行っちゃダメだろう!
戻ってこい!
一分くらい経っただろうか。
勇者が出てくる様子はない。
「帰ってこないね」
「止めるべきだったでしょうか」
「あれは誰にも止められん」
どーすんだよ、土壇場で勇者が消えちまったじゃねえかよ。
魔王城の中に踏み込むなと正気の沙汰ではないのだが、攻撃の要である勇者がいなくては話にならん。
「しょうがない、連れ戻しに行く。二人はここで待機を」
「え、やだ、一緒行くよ」
「バラバラになるのはよろしくないかと」
ピュアな二対の眼差しが尊い…。
「それに、ぶっちゃけサーモさん一人じゃ闘えないでしょ?」
「魔力が吸収されてしまう環境で、魔法使いは無力化されたも同然かと」
あー、あー、そのとおりだよ!
悪かったな、無力な魔法使いで!
「わかった、全員で行こう」
聖女の結界とバフは普通に発動した。
驚いた事に、シスター・フィリスのバフも発動した。
俺の魔法はかけようとする側から霧散して吸収された。
ケッ!
ともあれ準備は出来た。
勇者はバフも何も無しに突入しやがったが、あいつの事だからほっといても平気だろう。
「じゃあ行くか」
「うん、行こう!」
「参りましょう」
魔王城に潜入だぜ!
なし崩し的に、勇者不在でな!