外殻硬めの魔王城
「難しい話、終わった?」
勇者が聖剣を肩に担いでこっちを見ていた。
お前、素振りして魔物を吹っ飛ばしてたんじゃなかったか?
見ると、地上を埋め尽くしていた筈の魔物の群は影も形もない。
目に映る範囲全ての物を消し飛ばしたらしい。
土煙が立ち昇る大地に、地平線まで無数のクレーターが散らばっている。
あれ全部、勇者が素振りした跡か。
凄えな。
火力では勝てる気がせんわ。
「お疲れ〜。帰ったらお握りあげるね」
「疲れてないし、お握り要らない。あ、具が焼肉か唐揚げなら貰う。漬物入ってるのは要らない」
「好き嫌いすると大きくなれないよ? 男の子はおコメを食べないと」
「モモネさんはおコメの力を信じすぎだと思うよ」
何やらほのぼのとした宗教談義を交わす勇者と聖女。
「健やかな肉体を作るには、早寝早起きと脂身の少ない鶏肉が良いと、聖騎士様より伺った事があります」
シスター・フィリスまで加わった。
聖騎士の肉体鍛錬法ってそうなのか。
しかし、下を見ない為にか、空を見上げて目をかっ開いたままなのがちょっと怖い。
そんな事はどうでもいい。
「雑魚は片付いたようだな。さっきの話はちゃんと聞いていたか?」
「ん、まあ、大体は」
素振りしながらだから、どの程度頭に入ったか怪しいが。
一応、聞いていたという事なら。
「じゃあ次だ。魔王城をここから攻撃してみろ」
一撃粉砕、…とはならなかった。
「当たってはいるようなんだがな」
「削れてる感じがしないよね」
聖剣の斬撃が命中しても魔王城はその姿を大きく変える様子がない。
一瞬、表面が削れても、すぐに結晶が伸びてきて何事も無かったかのように復元されてしまう。
削れ方も思ったほど大きくない。
何かに妨害されているようだ。
「おそらく空間魔法だな。外殻の内側に亜空間の層を作って、攻撃の威力を別の空間に逃がしてるんだ」
聖剣や聖杯がやってるような特殊処理を魔王城もやってやがる。
元は野生のくせに味な真似を。
吸い込まれたゴーストの中に空間魔法使いでもいたのかもしれん。
吸収同化する時に知識を取り込んでる可能性が浮上してきた。
チッ、面倒な。
「どうしようか? このままチマチマ削る?」
「時間かければ削りきれるだろうが、その間に魔女共が追いついて来るかもしれんし、魔王城が暴れ出すかもしれん」
そもそも魔王にどの程度の知性があるのか不明だが、攻撃されてる事に気付かずボーっとしててくれるとは思えん。
虫を払うように追い払おうとされるだけでも、こっちの危険度が急上昇する。
少々危険だが、地上に下りて、近接で攻撃をぶち込んで、奴の外殻を引っ剥がすべきだろう。
「ローズマリー、降下だ。着陸するぞ」
ワイバーンが旋回の角度を変えた。
シスター・フィリスが小さく息を呑み、胸の前でロザリオを掴んで聖句を唱え始める。
「主よ、お守りください。憐れな仔羊を災いからお救いください…」
すみません、すぐに終わらせるので、気絶しないように持ちこたえててください。
「ローズマリーって誰?」
「ワイバーンの名前だと思うよ。ついでに黒猫の名前はパースリーだよ。いつも『俺の猫』って言ってるけど、たまに猫に向かって名前呼んでるの聞いた事あるんだ」
「へ〜、意外と可愛い名前だね。カラスは? カラスはなんて名前なの?」
「聞いた事ない」
「可愛い系の名前がいいな〜。マカロンとか」
そんな名前ではない!
俺のカラスの名前はセージだ。
なんだ、マカロンって。
意味分からん。