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サーモ・アリーナムの魔王城に関する一考察

 魔力は実体と非実体を繋ぐもの。

 そして術者の意思に従って、実体と非実体に影響を与えるもの。

 デネボラの座学でそこは教わったはずだ。

 あの時軽く触れる程度で、詳しく教えなかった事がある。

 それは…


●「魔力には互いに引き付け合う性質がある」


●「魔力には結晶化する性質がある」


 この2点だ。

 この二つの性質が魔物を生み、ダンジョンを生み、魔王と魔王城を生み出す。


「引き付け合う、っていうのは磁力みたいな? 体でそういうの感じた事ないけど」

 聖女が小首を傾げる。

「人の感覚で捉えるのは難しい。肉体に及ぼす影響はわずかなものだ。だが霊体になると覿面に感じ取れるぞ。引っ張られるからな。実例も見ただろう?」

 あ、と聖女が小さく叫ぶ。


 そう、ダンジョンのアンデッド老人。

 ゴーストの群がダンジョンに吸い込まれるのは、そこにダンジョンコアという大きな魔力の塊があるからだ。


 大気中や地中、水中、生き物の体内などに普遍的に存在する魔力。

 それらは循環している分には問題ないが、停滞するとふとした弾みにくっつき合って塊を作る。

 人体の中で魔力の塊が出来てしまう病気なんてのもあるが、それは今は関係ない。


 自然界で固まった魔力は結晶化する。

 小さな結晶は魔物になり、大きな結晶はダンジョンコアになる。

 ダンジョンコアは周囲の魔力を引き寄せ、取り込んで更に大きくなっていく。

 一定の大きさを超えると、引き寄せの力が格段に跳ね上がる。

 魔物を引き寄せ、結晶が結晶を取り込み、巨大化した結晶は加速度的に成長を続け…。


「最終的には全てを飲み込む魔王の出来上がりだ」

「魔力のブラックホール…」

 聖女が呟く。


 黒穴(ブラックホール)? 

 別に魔王城は黒くないんだが。

 無数に生えた水晶の柱のような構造物は強いて言うなら虹の七色だ。

 穴はあるかな、魔物が吸い込まれていく入り口が。


「この世界のあらゆる物が魔力を帯びている。魔力を帯びている以上、生物も無生物も魔王に引き寄せられ、最後には吸収同化されるんだが、順序があってな。引き寄せられやすいものから順に寄ってくる。動かしやすくて、吸引力に逆らわないヤツだな」

「それが魔物とかゴーストってことね。なるほどね。魔物は歩いたり飛んだりするし、ゴーストは軽いし。どっちも意志の力で抵抗したりしなさそうだもんね」

 理解が早いな。

「引き寄せられたものが全部すぐに魔王と合体するわけじゃない。ほとんどは外側で層を作って結晶化する。それが魔王城だ」


 例えて言うなら、真珠貝みたいなものだ。

 一番外側に硬い殻としての魔王城。

 中に入れば貝の身としての深奥部があり、最奥に真珠としての魔王がいる。

 それらが全部、魔力の塊で出来ている。

 最大級の魔力結晶を内側に抱えた、複層構造の魔力の結合体、それが魔王城だ。


「今、下に見えてるアレは魔王城の初期形態だ。ダンジョンから進化して、さほど時間が経ってない。この調子で魔物を吸収し続ければ、いずれ第二形態に進化する。その前に破壊せねばならん」

「第二形態になるとどうなるの?」

「より多くの魔力を求めて移動を始めるんだ」


 魔物は足があって歩いて来るから、待ってるだけで魔王城に飛び込んで来て吸収できるが、影響範囲内の魔物を全て食い尽くしたら、もう歩いて来る物がいなくなる。

 そうなると餌を探しに自ら動き出す。


「お城が動くの?」

「人間が勝手に魔王城と呼んでるだけで、実際には魔力の塊だからな。あれ自体が一個の魔物みたいなものだ。食欲みたいな本能があるらしくてな。餌を探しに動くぞ」

「餌って…」

「いるだろ、食われに来ない二本足の生き物が」


 第二形態が喰い漁るのは、人間だ。

 魔王城は『より多くの魔力が集まっている場所』に引き寄せられていく。

 すなわち人の住む町や村を目指す。

 過去の歴史において、幾つもの都市が魔王城に蹂躙された。

 悪夢の如き災害だ。

 何しろ奴には魔法攻撃がほとんど通用しない。

 魔力をぶつけても、吸収するんだからな。


 昔は対魔王戦と言えば人海戦術で、ひたすら武器で殴って壊すしかなかった。

 当然、被害も甚大で、十万の軍勢で挑んで生き残ったのはわずか数百とかいう壮絶な記録もある。


「動き出す前なら、倒せるの?」

「お前達ならな」


 対魔王戦の切り札、それが異世界からの召喚者だ。


「異世界の魔力はこの世界の魔力を打ち消し、同時に膨大なエネルギーを放出する。そういう性質を持ってるんだ」


 師匠はそれを対消滅と呼んでいる。

 二つの世界の異なる魔力が接触する時、大爆発が起こる。

 その現象は古くから知られていて、研究も進められていた。

 謎を解き明かしたのは師匠のそのまた師匠だ。

 正反対の性質を持つ二つの魔力は同時に同じ場所に存在できない。

 出会うと必ず消滅し、互いにその存在の全てを爆発的なエネルギーに変えるのだ。


「私達の世界に魔力は存在しないよ?」

「ごく微量にだが、存在してる。魂にな」


 あらゆる生命は誕生する時に魔力を使う。

 逆に言えば、魔力無しでは魂は生まれて来る事ができない。

 魔力がほとんどないという異世界でも、命が生まれるからには魂にだけは魔力がある筈だ。

 実際、異世界人の魔力を詳しく調べた結果、魂に異質な魔力を内包している事が判明している。


「異世界の魔力はこの世界の魔力と正反対の存在だ。二つが出会うと激しく反応し、両方が消滅する。その時放出されるエネルギーは一撃で魔王城を粉砕するに足る」

「そんな物騒な物が私の中に…? あ、でも、魂とか消滅したら死んじゃう!?」

「死なない。魂そのものを消費するわけじゃないんだ。魂が内包している魔力のほんの一部を使うだけでいい」

「ほんの一部ってどのくらい?」

 えーと計算式に当てはめると…。


「500000000000000000000000分の1ってとこかな」


 聖女が一瞬固まった。

「…翻訳魔法が機能しなかったみたいなんだけど」

「桁が大きすぎるからな」


 魂が生まれる時に内包している魔力を表す計算式がある。

 こっちの世界でもあっちの世界でも、その数値は同じと推定されている。

 魂の魔力は年齢と共に減少していくとされ、その計算式も一応あるにはある。

 あちらの世界では魔法を使わないらしいので、減少の計算式は必ずしも当てはまるとは言えないが。

 とりあえず計算式で出せるのがさっき言った数字だ。


「生まれた時に内包している魔力が6×10の23乗とされている」

「あ、なんだか聞き覚えのあるような数字…いや、そんな。でもまさか」

 聖女は理解が及ばないのか、頭を抱えて何やらブツブツ言っている。

「これは体の成長や魔法の使用などで少しずつ消費される。お前達は向こうの世界では魔法を使ったことがない。成長による消費しかしていないと考えると、8割以上は残っているだろう」

「あ、その辺はざっくりなんだ。でもこっち来てから魔法使ってるから、その分減ってるよね」

「そんなもん、誤差みたいなもんだ」


 勇者と聖女はこっちの人間とは魔法の使い方が違う。

 聖剣や聖杯が異世界人専用の特殊アイテムだからだ。

 聖剣や聖杯は使用者の魂とパスで繋がっている。

 魔法使用時にはそのパスを通じて魂から異世界の魔力を1だけ引き出す。

 引き出された魔力はこちらの魔力に反応して対消滅、膨大なエネルギーを発生させる。

 そのエネルギーに指向性を与え、余分なエネルギーは異空間に放出して無害化する。

 そんな特殊な処理を行っているのだ。


 ちなみにこちらの世界の人間が魔法を使う時は肉体や霊体に蓄えた魔力を使う。

 勇者みたいな爆発的威力を出そうと思ったら、全身全霊の魔力を絞り尽くして気絶するだろう。

 逆に言うと、普通の人間なら全身全霊を絞り尽くして気絶するような魔法を、500000000000000000000000分の1の消費で連発できる、それが異世界からの召喚勇者であり、聖女なのだ。

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