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銀のワイバーンの背に乗って

「あっちの世界でも飛行機で飛んだ事はあるけど、こっちの世界だと一層雄大って言うか、自分が風になったみたいだねぇ」

 聖女が感嘆の声を挙げる。

 そうだろ、そうだろ、格別だろ?

 俺の使い魔は優秀だからな。

 でっかいワイバーンの背に乗って空の旅、最高だよな。

「ワイバーンって爬虫類っぽい皮膚じゃないんだね。銀色の毛皮いいなあ。モフモフぬくぬく〜。あ、もしかしてノミいる?」

「おらんわ! 洗おうとするなよ、絶対にするなよ!」

 勇者よ、この場でのお前の『浄化(クリーン)』使用を禁ずる!


 俺達4人と使い魔はワイバーンの背に乗って悠々と高い空を飛んでいる。

 俺のワイバーンは同種の中でも大型で、人間4人乗せてもまだ余裕がある。

 俺一人が魔法で飛ぶより若干遅いが、馬車よりは断然速い。

 本来ワイバーンに乗る予定は無かったが、事情が変わったから仕方がない。

 呑気に歩いてたら魔女会から特別監査員(スペシャルエージェント)が来る。

 実際、来ていた。

 物騒な雰囲気の魔女が俺達と入れ違いに町に入った事を確認している。

 下手に接触したら奴らに断罪の口実を与えてしまうので、ひたすら距離を取り逃げに徹する。

 やつら口実があればとことん残忍になるからな。


「サーモの使い魔って猫とカラスだと思ってた。こんな強そうなのもいたんだね」

 勇者がワイバーンの背中に寝そべりながら、毛皮越しに筋肉を撫でて確かめている。

「空中戦には強いが、地上や閉鎖空間では大して動けん。だから普段は呼び出さなかった」

 大食いだしな。

 街なかで食事させると餌代が馬鹿にならないので、基本、野山で放牧だ。

「それにしても快適過ぎる〜。高い所飛んでるのに寒くないし、揺れも少ないし、音も静かだし。寝たまま目的地に着けそう」

 聖女も寛いでいる。

 シスター・フィリスは礼節を守るつもりなのか真っ直ぐな姿勢で座っているが、そもそも椅子もない平面で姿勢よくするのは無理がある。

「シスター、貴方も楽な姿勢で休めるうちに休んで下さい」

「いえ、私は」

「どうせ地上に降りたら休む暇もなくなります」

「…それもそうなのですが、私は、その…こ、怖くて」

 は?

「足の下に地面が無いと思うと、体が震えて動けないので」

「「あ」」

 勇者と聖女が同時に声を上げた。

「「高所恐怖症!」」

 シスター・フィリスは空を飛ぶ事に免疫の無い人だった。

 生まれて初めての恐怖で腰を抜かしたまま硬直していたらしい。

 …悪い事したかな。


 

「大丈夫だからねー、私が手握ってるから、落ちないからねー。下見ないようにしようねー。目閉じとく? あ、余計怖い? じゃ空見ようか、空。上見てれば船に乗ってるのと一緒だよ、多分」

「は、はい。離さないで下さいね。揺らさないで下さいね。傾けないで下さいね」

 シスター・フィリスが脂汗を流し、それを聖女が必死に支えるという緊迫した場面を乗り越え、俺達は魔王城が見える所までやって来た。


「あー、もう始まってんな」

 見渡す限り魔物の群で足の踏み場もない。

 高い所から見下ろせばまるで絨毯、いや、大河の濁流だな、これは。

 数え切れないほどの魔物が全て一方向へ流れている。

 魔王城に吸い込まれているのだ。

「あれ何? スタンピード?」

「それはダンジョンから溢れ出てくることでしょ。逆に吸い込まれてるのはなんて言うの?」

 正式な名称は無いが、魔王討伐に同行した魔法使い達が記録に遺している。

悪夢(ナイトメア)渦潮(カリブディス)。魔王城臨界突破のカウントダウンが始まってるって事だ」

 詳しい事は後で解説することにして、とりあえず勇者よ、その聖剣であれらを殲滅しろ。

 まずは素振り千回。

「素振り千回って…」

 嫌そうに立ち上がる勇者。

 ワイバーンの背中を踏みしめ、安定した姿勢で聖剣を構える。

「魔王城上空を広く旋回させるから、好きなだけ撃ちまくれ。巻き込んで困る物など何もない。気楽にやっていいぞ」

「やるけどさ。確かに魔王城以外なんにもないけど。なんだろう、盛り上がりも無いんだよね。敵の幹部が立ちはだかるでもないし、苦しんでる人って現在進行形でシスター・フィリスだけだし」

「私の事はお気になさらず、どうぞ全力で、ああ、でもなるべく揺らさないで、傾けないで、ああ…」

「大丈夫だから、聖杯でシートベルト作るから! 絶対に落ちないからね?」

 シスター・フィリスには気の毒だが、旋回する必要上、傾けないわけにはいかない。

 聖女が器用に聖杯から光の帯を出し、シスターの体をワイバーンの胴体に括り付けている。

 いいな、あれ。

 今度真似してみよう。

「苦しんでいる人を助けるのは勇者の役目。たとえ格好悪くても…。やりまーす。いっか〜い」

 勇者が軽く聖剣を振ると、その軌跡の先で魔物の群が轟音を立てて派手に吹き飛ぶ。

「にか〜い」

 ウサギ程度の小型の物から象程度の大型の物まで、各種入り乱れた魔物の列が連鎖的に消滅していく。

 勇者の放つ圧倒的な神聖魔法は大量の魔物を瞬時に蒸発させ、魔石を残す事さえ許さない。

「さんか〜い」

 一振りでおよそ広場一つ分くらいの範囲で魔物が消える。

 本当に桁外れだな、こいつの聖剣の威力は。

 魔物の濁流を勇者の攻撃が断ち切り、魔王城前に一瞬の空白を生むのだが、次々流れてくる魔物ですぐ埋まる。

「よんか〜い」

 勇者が頑張って…あまり頑張ってる感じはないが多分頑張っているはず…いるうちに現状についての説明を進めておこう。

「今起きている全ての事は『魔力とは何か』という問題に起因する」

 デネボラの座学より少し込み入った話をするぞ。

 居眠りせずに聞けよ?

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