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魔女デネボラ〜彼女は獣と男に厳しいです〜

 別人の物なんじゃないの。

 そう言われた瞬間、俺は窓から飛び出していた。

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!

 絶対に吐かされる。

 普段は幼児向けにおちゃらけた人格を見せているデネボラだが、それは一面にすぎない。

 幼児教育に身を投じる前はバリバリの武闘派だったのだ、あの人は。

「『爆裂疾風(ブラストウィンド)』!」

 最速の飛行魔法でかっ飛ばす。

 ぶっちゃけ使い魔たちが追いつけないが、仕方がない。

 デネボラを振り切って安全確保してから合流…。

「『瞬間移動(テレポーテーション)』」

「どわっ!」

 突然、正面に出現したデネボラに激突…寸前で回避!

「甘い」

「ぐふっ」

 腹に食い込む重たい衝撃。

 方向転換した先に何故かまたいるデネボラ。

 回避不能、膝蹴りをモロに食らった。

 加速が付いてる分、シャレにならない。

 内臓出そうなんだが?

 逆にあれだけの激突だ、デネボラの膝は皿が割れたりしてないか?

 集中が切れて墜落していく俺。

 空中では魔女が痛そうに膝をさすっているのが見えた。

 ほらな、やっぱりな、あっちも痛いよな!

「ハッ、ハハハハ、ザマァ…」

 嘲笑いながら俺は地面に激突した。



 屋根より高い空中から落下しても、軽い打撲で済む丈夫な肉体。

 これも日頃の鍛錬の賜物か。

 咄嗟に無詠唱の風魔法で身を守った俺、偉い。

「さあ天才くん。キリキリ白状してもらうわよ」

 デネボラから逃げ切れなかった俺、ちょっと、いや、大分情けない。

 実力の差?

 経験の差か?

 いや、逃げに回ったせいだ。

 攻めに回ってれば今頃は…。

「殺して良ければ俺が勝ってた!」

「同門の殺し合いは厳禁だもんねぇ。だけどそんなの言い訳になんない」

 確かに。

 墜落で動きが止まった俺はあっさり捕縛されていた。

 対魔法使い用のミスリルチェーンで後ろ手に縛られている。

 対魔法性能がやたら高いので、千切れないし焼き切れない。

 こういうヤバい道具をアクセサリーに見せかけて複数身につけているのだ、この魔女は。

「聞かせてもらうわよ負け犬くん。あの勇者は何なの? あんたとお師匠様、何やってんの?」

「部外秘だ」

「私達、同門よね?」

「機密事項だ」

「素直に喋らないと痛い目見るわよ?」

「脅しても無駄だ」

「そ〜お」

 デネボラは鼻で笑った。

「じゃ、この子に酷い事しちゃおーっと」

 そう言って魔女がどこからともなく取り出したのは…。

「パースリー!?」

 俺の猫!!

「私、子どもには優しいけど、獣と男には厳しいの。君が喋る気にならないなら、この子をこうやって…」

「やめろ!」

「もっと残酷な遊び方もあるのよ? しっぽを紐で結んでね…」

「鬼! 悪魔! 人でなし!」

「あ〜ら素敵な褒め言葉ね」

 邪悪に笑うデネボラ。

 微かに鳴いてもがくが魔の手から逃れようがない猫。

 無情にも魔女が強すぎる。

「見捨てても良いのよ? 使い魔なんてただの道具よね? こーんな事されたって痛くも痒くも」

「やめろー!」

「ほんと、甘ちゃんね」

 魔女の眼差しは氷のようだった。

「使い魔なんて消耗品よ。いちいち感情移入してたらキリがないわ」

 やかましい、ほっとけ、俺の猫を俺が案じて何が悪い。

「それで、喋る気になった?」

 ニャオーン、ニャ〜オ~ン…。

 う〜りう〜りとこね回される猫の悲痛な声を聞かされて、俺の心は折れた。



 トボトボと歩いて宿屋に戻る。

 腕の中には俺の猫。

 乱闘の後なので、衣服が砂にまみれている。

「何があったの?」

 勇者に奇異の目で見られたが、心が折られているので気にならない。

 もう何も考えたくない。

 この先デネボラがどう動くか、それによってどんな影響が出るか。

 考えるまでもなく答えは出るが、考えたくない。

「…寝る」

 俺は自分に割り当てられた部屋に閉じこもった。

 開けっ放しだった窓を閉め直す。

「パースリー」

 猫はまだ怯えているのか、背中の毛が持ち上がってる。

 その背中を撫でてやる。

「怖い目にあったな。もう大丈夫。大丈夫だからな」

 猫の喉からゴロゴロと低音が聞こえ始めた頃、俺は眠りに落ちた。



「起きろ!」

「んー、今何時? 早くない?」

「やかましい! サッサと身支度を整えろ! 急いでこの町を出るぞ!」

「えー、何、緊急事態?」

 おう、緊急も緊急、一晩中眠ってしまった自分を殴りたいくらいだぜ!

 考えるまでもなく成り行きは見えてたってのに!

 デネボラは魔女会に通報したに決まってる。

 魔女会から監査が入るのは時間の問題だ。

 一刻も早く魔王城に到着しないと、途中で捕まったら、最悪俺たち皆殺しだぜ!

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