魔女っ子デネブちゃんの魔法実習
曲がりなりにも教育専門家。
デネボラの指導で勇者はメキメキと魔法の腕を上げていった。
思い出したくもない魔女っ子体操。
(「フワフワの泡のボールがお手々の間にあるよ〜伸ばして〜縮めて〜はいフワ〜フワ〜」「フ、フワ〜」「…フワ〜」「俺はやらんからな!」)
魔法の灯りを指先に灯したままで行う鬼ごっこ、ただし逃げながら算数の問題に答える。
答えを間違えたり、制限時間内に答えられなかったり、問題に気を取られて灯りが消えたら負け。
もちろん鬼に捕まっても負け。
(「ゾンビ3体スケルトン5体ゴースト2体現れた。脚の数は全部で幾つ?」「ゴーストって脚あったっけ?」「あったような気がする」「残念、ないんだよ〜」「あるやつもおるわ! いい加減な事言うな!」)
風魔法を使った風船運び競争。
風船を浮かせたまま先にゴールしたほうが勝ち。
ただし走らず、スキップで進まなくてはならない。
(「スキップなんて子どもの頃しかした事ない」「足がもつれる、膝が崩れる!」「霊体と肉体の連動を促すのに最適な運動なんだよ。ダンスでもいいけどね〜。やる? うさちゃんダンス」「俺は絶対にやらんからな!」)
…等々。
5歳児だったら喜んでやるかもな、というメニュー。
必死で喰らいつく二人、笑顔全開なデネボラ。
途中で逃げさせてもらったが、気持ち悪くて蕁麻疹出そうだったぜ。
十歳過ぎてからやるもんじゃねえ。
それでも何らかの効果はあったらしい。
3日間の集中トレーニングで、勇者と聖女は古代語魔法を強・中・弱の三段階で使い分けられるようになっていた。
「これならゴーストを破壊せずに天国に送ってあげられる?」
「うんうん、出来る出来る。勇者くん成長したね〜。頑張った子は偉いよ」
ヨシヨシと勇者の頭を撫でるデネボラ。
撫でられてる勇者は笑いつつも逃げ腰だ。
「魔女っ子デネブちゃんの出張講座はここまでだね。モモネちゃんも魔法上手くなったもんね。2人ともよく頑張った。偉い偉い」
「ありがとうございます、嬉しいです」
聖女は頭撫でられてもさほど嫌がっていない。
じゃあね〜、と手を振ってデネボラは去っていった…。
※
…かと思ったその日の夜。
「なんで俺の部屋にいるんですか」
夜這いだったらスッゲー嫌。
「聞く事聞いたらすぐ帰るわよ」
デネボラは数センチの距離にまで顔を近づけてきた。
そして低い声で、
「あの子おかしいわ。霊体と肉体のバランスが悪すぎる。普通に生きてたらあんな風にはならない。魔法のない世界から来たなら尚更よ。霊体神経は肉体制御に特化してなきゃおかしい。実際、体は普通に鍛えられて健やかな発達を遂げてるわ。なのに霊体の方は体との連携が著しく低い。まるでろくに走った事もないみたいに。ねえ、どういう事かしら」
魔女の目が怪しく光る。
「あの子の体、別人の物なんじゃないの?」