表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

僕らの女神がいた時間

 いつからだろうか。

 このひとの隣にいると、こんなにもそわそわと落ち着かない気持ちになったのは。

 このひとの隣にいると、なんだか口元がむずむずしてにんまりと弧を描きそうになってしまうようになったのは。


 いつからだろうか。

 このひとの本当の姿を見てみたいと、そんなことを思うようになったのは。

 どんな形でもいいから、そばにいたいと願うようになったのは。


 コンビニに行くという、日常のたった一コマが、こんなにもキラキラして映るのは、彼が一緒にいてくれるから。



「……どうして道の端っこを歩くんですか?」


 今夜も中島蓮さんは、舗装されていない、道路の端っこを歩いている。


「さあ、なんとなく」


 ざくざく、と霜柱が崩れる音がする。倣うように後ろに続けば、「なんで縦に歩いてんの」と彼は少し笑った。その笑った時の小さな口元のくぼみひとつで、わたしは泣きたくなるほどに鼻の奥が熱くなる。たったそれだけで、胸の奥は不思議な光で満たされるのだ。


「翔太くんも、いよいよ引っ越しですね……」

「ん」

「寂しくなりますね」

「まあ別に、会おうと思えばすぐ会える場所だし」


 あの旅行から一週間が経った。翔太くんは、マンションを出ることになったと笑顔で報告しに来てくれた。

 哲平さんがこのマンションを去り、翔太くんがそれに続く。それはつまり、ミッションクリアとなった人物は、この建物を出ていくということを意味しているのだと思う。


 次は、昴くんか、中島蓮さんの番だ。


 歩くたび、中島蓮さんの深い黒の襟足がひょこんと揺れる。手を伸ばせば触れられる距離。だけどきっとこの距離は、ずっと縮まることはない。


 ざくざくと小気味よい音をたてる足元を見ながら進んでいれば、いつの間にか立ち止まっていた彼に気づかず、わたしはその広い背中にとすんとぶつかった。

 ふわりと香る、中島蓮さんの香り。前におうちにお邪魔した時感じた、彼の家の匂いだ。


「ちゃんと前見ないと転ぶ」


 中島蓮さんはほんの少しだけ振り返ってそう言うと、自分は舗装された右側の道路へと一歩ずれた。その横顔に、きゅっと心臓が小さな悲鳴を上げるのを聞く。彼の視線がすっとわたしの右手に流れた瞬間、その悲鳴は声にならないほどの緊張を持った。


「冷えすぎ」


 中島蓮さんのその言葉と共に指先に感じる、ひんやりとした低体温。それはきゅ、と遠慮がちにわたしの人差し指と中指をきつく握った。

 彼の手が、わたしの指先を捉えたのだと視覚で認識した瞬間、わたしの心臓は今までに聞いたことのない音を立てて騒ぎ出す。ドコドコドコ揺れる心臓は、胃のあたりにあるようにも、耳のすぐそばにあるようにも感じるし、体中の血液がぐつぐつと煮立ちながら巡っているようにどこもかしこも熱い。


「──なんっ……」


 その瞬間、目の前に再びデジタル表示が現われたのだ。


『春山昴・中島蓮からの告白を引き出せ。好きになったらゲームオーバー』


 ──ああ。違った。違ったんだ。


 ミッションをクリアしながら、このゲームのヒロインである梅ちゃんと攻略キャラクターたちのキューピッドとなることが最終的なゲームクリアの条件。


 綺麗に完成していたはずのパズルは、わたしの思い込み。隅に小さなひずみが生じた瞬間、それらはバラバラっと全て落ちた。そこから、すごい速さであるべき場所へとパーツたちが自ら戻っていくのが見える。息をつく間もないほどのスピードで、わたしが瞬きをひとつ終えるうちに新たな絵は完成していた。


 これは恋愛ゲームで、ヒロインと攻略キャラクターたちは恋のシーソーゲームを繰り広げる。つまり、‶好きになった方が負け〟なのだ。


 なぜ今、中島蓮さんがわたしの手を握っているのか。

 なぜみんなが、美人な梅ちゃんではなくわたしと親しくしてくれるのか。


 ──それはわたしが、このゲームのヒロインで。彼らはそのヒロインを恋に堕とすためのキャラクターを《《演じている》》からなのだ。





「──どうした?」


 熱を持っていたはずの体は、いつの間にか全ての体温を失ったかのように硬く凍ってしまった。くいっと引かれた右手に意識を戻せば、耳を少し赤く染めながらも気遣うような表情を浮かべる中島蓮さんがいる。そんな彼から伸びている左手は、わたしの右手へとつながっている。


 ただの演技。

 ただのお遊び。

 ただのゲーム。


 なあんだ、やっぱりそうだよね。


 自嘲気味た笑いがこぼれてしまいそうになって、だけどそれと同時に涙も溢れてしまいそうになって、わたしはぎゅっと唇を噛んだ。



 勝手に勘違いして、勝手に思い込んで、勝手に張り切って、勝手に彼らは必死にここで生きているんだって考えて、ばかみたい。


 目の前のこの人をもしかしたらわたしは『好き』なのかもしれないと、そんなふうに胸を高鳴らせていたなんて。


 本当ならば、この手を振りほどいてしまいたい。どうせ演技しているんでしょ、と言ってしまいたい。なんなら嘘の告白を今すぐにして、ゲームオーバーで元の世界へと戻ってしまいたい。


 中島蓮さんなんていない世界に、行ってしまいたい。


「どっか痛い?」


 そんなふうに心配そうに眉を下げるとか、そんなふうに力強く指先を握るとか、こんなふうに距離を一歩縮めるとか。


 全部全部いらないって

 全部全部もうやめてって


 そう言えたならばどんなに楽なのだろうと自分でも思う。


「……なんでもないです……」


 それでもわたしは言えないのだ。例えこれが演技でも、嘘でも、ただのゲームでも、それでもわたしは彼の手を振りほどくことなんて出来ない。彼がいない世界になんて行きたくない。


 ひんやりとした彼の指先を、手放すことなんて出来ないのだ。




「サラちゃん、泣いた?」


 翌朝、打ち合わせをしに会社へ来ていた翔太くんが開口一番そう聞いた。

 昨晩中島蓮さんと別れたあと、わたしは泥のように眠った。多分、一種の現実逃避みたいなものだ。現実世界ではゲームをすることが現実逃避になっていたのに、こちらの世界に来てからはその唯一の逃げ道がなくなってしまった。

 いや、その逃避になるはずだったものが向き合わなければならない現実として存在しており、わたしは考えたくない時にはひたすら眠るという選択肢しかとることが出来なくなったのである。


「泣いてないんだけど、ちょっと寝すぎたかもしれない……」


 相当に浮腫んでいるのだろうか。今朝は少し寝坊してしまったから簡単にメイクを済ませただけで出てきてしまった。この間梅ちゃんと買い物に行った時に買ったオレンジ色のチークは、ポーチの中に入れて持ってきてはいるもののまだ頬の上に乗せていない。


 翔太くんは、そっかぁ、とぐーっと伸びをすると、まだわたしと彼しかいない会議室を見回してから身を乗り出した。


「最近、蓮とどう?」


 その名前だけで、どきりと心臓が飛び跳ねてしまう。これはもう条件反射みたいなものだ。きゅっと跳ね上がった瞬間、鉛のような重さを持ってずうんと心の奥底へと沈んでいく。


「別に、わたしと中島蓮さんはどうというわけでは……」

「でも好きでしょ?」


 翔太くんの言葉にばっと顔を上げると、彼は「しまった!」という表情を見せてから慌てて言葉を繋げる。


「ダメダメ! 今のナシ! 好きって言葉は絶対に言っちゃだめだからね!? 壁に耳あり障子に目あり!」


 彼はあたふたとした様子で周りをきょろきょろと見回した後、今度はわたしに立ち上がるように指示。その周りをぐるりと周ってから「セーフ……」と小さく胸を撫で下ろした。


「……ゲームオーバーになって、わたしが消えちゃうと思った?」

「そうそう。いや本当さ、なんでこんなに厄介なゲームドゥエェェ!?!?」


 ガタガタンッと大げさなほどの音を立てて椅子から転げ落ちる翔太くん。彼はまるでお化けでも目撃したかのような表情でこちらを見上げている。


「大丈夫?」

「サササ、サラちゃん……まさか……あのときの僕の言葉……」


 聞こえてたよと頷けば翔太くんはそのまま正座をし、床に額を合わせて文字通り頭を抱えた。まるで漫画のワンシーンのような姿に──しかも見た目はとてつもないイケメンのそんな姿に、鉛のように重くなっていた心の中にクスリと小さな笑顔の花が咲く音がする。

 やっぱり翔太くんは、こうやって光をこちらに当ててくれる存在なのだ。


 どうしたら、だとか、僕のばか、だとか、この自己中男め、などという独り言をひとしきり恨めしげに呟いた彼は、一段落ついたのか大きく深呼吸をするとゆっくりと立ち上がった。それからわたしに向かって深々と頭を下げる。


「ごめんなさいサラちゃん。あの時は、僕、本当に自分のことしか見えなくなっていまして……もうですね、アクター失格っていうか、いやまあ僕すでにやめた身なので責任を取るとかってことも出来ないんですけれども……」


 そう言いながら何度も頭を下げる翔太くんに、わたしは首を横に振った。


「ううん、なんていうか……知れてよかった」


 翔太くんの言葉がなければ、わたしはきっと勘違いをしたままだったのだろうと思う。恋愛感情のない梅ちゃんと彼らを無理やりに繋げようと躍起になって、そのことで一人で落ち込んだりやきもきしたり。それはまるで観客のいない舞台の上の道化師のようなものだ。

 その中でも唯一の救いだったのは、翔太くんは自分と光子ちゃんのためにアクターをやめられたという事実。


 翔太くんは「全てを話すわけにはいかないけれど」と少しだけアクターについて説明をしてくれた。


 アクターというのは、ゲームのキャラクターを演じる職業。ただ、名前や職業は実際のものをそのまま使っているということ。

 ドントラブミーではユーザーがキャラクターに対して好意をぶつけた時点で強制的に元の世界へ戻されてしまうということ。


「……梅ちゃんも、アクターだったりするの?」


 このゲームの仕組みに気付いてから、一番気になっていたのはそこだった。わたしにとって、人生で初めて出来た友達と呼べる存在が梅ちゃんだ。彼女もアクターとして、わたしの友人を演じているのだろうか。


「いや、ドントラブミーのアクターは俺たち四人だけ。梅ちゃんは一般人だよ」


 翔太くんはそう言うと、ガラスの仕切りの向こうへ目をやった。そこには、一心不乱にパソコンのキーボードを叩いている梅ちゃんの姿。彼女は今、新しいブランドの立ち上げチームのメンバーに抜擢されたため、忙しい毎日を送っている。


「……そっか、よかった……」


 わたしは心から安堵の息を吐き出した。恋愛面においては、まだ自分をうまく納得させることが出来る。だけど梅ちゃんの存在だけは、どうしても偽物だと思いたくなかったのだ。

 重要人物という表示が出たことを話せば「サラちゃんの内面に深く関わるっていう意味だったんだと思う」と翔太くんが話してくれた。


「サラちゃん、聞いてほしいことがひとつあるんだ」


 翔太くんは改まって椅子にゆっくりと腰を下ろすと、一文字一文字を正確に発するように言葉を紡いだ。


「てっちゃんも僕も、サラちゃんのおかげで本当の自分を取り戻すことが出来た」


 ここを去った哲平さんは、今どこにいるのだろうか。海外での落ち着き先が決まったら連絡をすると言ったきり、誰にも連絡は来ていない。


「僕たちアクターは、このゲームの最終ゴールを知らされていない」


 主要キャラクターを演じる役割を担う、要ともなる彼らですら知ることのない、このゲームのエンディング。


「これは僕のただの推測なんだけど──」


 仕切りの向こうから、サンタ課長と翔太くんのマネージャーが談笑しながらこちらへと向かってくる姿が見えた。翔太くんはちらりとそちらを確認すると、もう一度わたしを見てゆっくりと言葉を選ぶ。


「ドントラブミーの真の目的は、僕たちアクターの本当の姿を取り戻させることなのかもしれない」


 ──本当の姿?

 ──取り戻させる?


「そして多分、それが出来るのは」


 カチャンと外からドアノブがひねられる音が響いた。


「サラちゃん、きみだけだ」



 ◇



「翔太くんと何の話してたの?」


 打ち合わせを終え自分のデスクに戻ると、不満げな顔をした昴くんがそこに座っている。


「そこわたしの席」

「だから、翔太くんと何の話してたの?」


 むっとした顔を向ける彼は、最近では社会人らしい顔つきになってきたとは言え、未だこういうところにはわがまま坊ちゃんの表情が残る。


「何って、仕事の話ですー」

「なんで俺は入っちゃいけなかったわけ?」

「昴くんは在庫整理が残っていたでしょ」

「在庫整理なんてその辺の学生を日雇いで雇ってやらせりゃいいじゃん」


 わたしは彼の両手を引っ張って立ち上がらせると、経営者見習いとは思えないその発言を無視して空いた自分の椅子に腰を下ろした。


 このゲームは、本当によく分からない。表示されたミッションは『自分に恋をさせろ』というもので、だけど翔太くんは真の目的が他にあるらしいと言うのだ。

 さらにアクターたちの本当の姿を取り戻すことが出来るのはわたしだけ、とのこと。しかし、具体的にどうしたらいいのかなんてひとつも分からない。そもそも、昴くんの本当の姿というのは何なのだろうか。

 

 彼は株式会社ハルヤマの御曹司で、正式なこの会社の跡継ぎだ。彼を一人前の社会人として育て上げるのが、昴くんの本当の姿を取り戻させるということなのだろうか。


 ああでもない、こうでもない、と頭の中を様々な考えが行き来する。だめだ、こういう時には本人に聞くのが一番いいのかもしれない。もちろん、アクターなんでしょ? とは聞いたりしない。そこは最後まで知らないふりをした方がいいだろうというのが、翔太くんとわたしがあの後に話し合った結論だ。


「昴くんってさ」

「なに?」

「こう……、本当の自分って何なんだろうって思うこととかってある?」


 ちょっとストレートに聞きすぎただろうか。ちろりと様子を伺ってみれば、彼は珍しく真面目な顔をしながら瞳を右下に三秒、今度は左下に二秒やってから視線を戻した。


「こんなところで終わるような男じゃないってことは、分かる」

「……ん?」


 彼はおもむろに眉を寄せてから、深く息を吐いて両手を体の前で組む。それから重々しく口を開いた。


「本当の俺は、天下無情、なり


 嗚呼無情。


 きっと彼が言いたいのは、天下無敵といったところか。



 昴くんの本当の姿とは、このどこか抜けていて憎めない姿そのものなのではないだろうか。わたしは小さくため息を吐き出して、メモの上に天下無敵と赤ペンで書き記した。



「なんか今日の先輩、変」


 想像以上に近い距離からそんな声が聞こえて、わたしは慌てて体を引いた。その瞬間、ガツンと棚に頭をぶつけてしまう。


「いててて……」


 いつの間にかコピーは全て終わっていたらしい。いつまで経っても席へと戻ってこないわたしを心配し様子を見に来た昴くんが目撃したのは、放心状態のモブ女が立ち尽くしている姿だったというわけだ。


 昴くんは、あーあ何やってんの、と言いながらわたしの頭頂部を覗き見る。背の高い彼にとって小さなわたしのつむじを見ることは簡単なことだろう。それでも正直、そんな場所を見られるのはなんだか気恥ずかしいものだ。


「いたいのいたいのとんでけ」


 昴くんはそう言いながら、指先でわたしがぶつけた箇所をさすさすと撫でて天井へと痛みを飛ばす。少しの沈黙の後、わたしは思わず笑ってしまった。だってそんなのはすごく、昴くんらしかったから。

 彼はぱっと顔を赤く染めたあと、「おまじないだろ、よくあるじゃん」と手を離した。


 こういう小さな気遣いも、全部わたしがドントラブミーのユーザーだからなのだろうか。赤く染まるその顔も、ちょっといらずらげなその瞳も、いつしかわたしに話してくれた本音も、全ては演技なのだろうか。


 そんなことが頭をよぎり、自然と顔から笑みは消える。昴くんはそんなわたしを見ると、ちょっと来てとわたしの手首をぐいっと掴んだ。まだお昼休憩の時間ではない。今日はそこまで業務が立て込んではいないけれど、自由に動き回っていいわけではないのだ。


「ちょっと、昴くん! 仕事中!」

「いいから。社長命令」

「次期、でしょ」

「いーから黙ってついてこい」


 ぐんぐんと廊下を進む昴くんに引きずられるようについていくわたし。すれ違う人々が何事かと振り返っていたけれど、彼のスピードが緩むことはなかった。





「へ……なにここ……」


 力強く腕を引かれて到着した先は、このビルの地下三階の一番角に位置する小さな部屋の前。古めかしい鉄製のドアには、これまた年季の入った木製の小さな看板が斜めにぶら下がっている。


「……お直し、本舗……?」


 ここはストックフロアと呼ばれており、各部屋には数々のサンプルや素材などが乱雑に置かれている。こんな部屋があったなんて初耳だ。


「じーちゃん、入るよ」


 しかし昴くんは、わたしの戸惑いなどお構いなしにぎぃっとそのドアノブを回す。そこに広がっていたのは、小さい頃、ピノキオの映画で見たような工房。壁一面には木製の棚が組まれ、裁縫道具や巻かれたリボン、ボタンのパーツなどが所狭しと並べられている。複数あるトルソーには、レトロなレースのワンピースやシフォンのスカートが着せられていた。

 中央には一枚板の大きなテーブル。その上にはミシンが二台並び、奥には昔ながらのコード付きアイロン。裁ちばさみや板に巻かれた生地などが段々と積み重ねられている。


「坊、まだ昼休み前だのに」


 ひょこ、と荷物の合間から顔を出したのは、白い髪の毛をふわふわとさせたひとりの老人だ。ずいぶんと厚みのあるメガネをしており、手には高級そうなルーペ、大工さんのように耳の後ろに鉛筆──ではなく、チャコペンを差している。


「ちょっと、一人連れてきた」


 昴くんはそう言うと、わたしを振り向き小さく手を招く。それにつられるように、わたしはおずおずとその空間に足を踏み入れた。

 一歩そこへ入ってしまえば、入口からは見えなかった新たなものがたくさん見えて、わたしの心は大きく弾む。

 色とりどりのリボンに様々なパターンの生地たち。レースひとつとっても、そこには数十種類というものが並べられているのだ。


「じいちゃん、この人が俺の先輩」


 昴くんの声ではっと我に返り、わたしは慌てて頭を下げた。


「咲村サラと申します! どうぞよろしくお願いいたします!」


 昴くんが、きちんと人と人を引き合わせることが出来たということに、わたしは小さく感動していた。以前ならば、このような状況になっても彼は無言で突っ立っているだけだったのが、今日は「俺の先輩」と挨拶するきっかけを作ってくれたのだ。やはり昴くんは、日々成長している。


 おじいさん──田村さんと名乗ったそのひとは、この会社に古くから務める職人さんだと昴くんは言った。それこそ、ハルヤマの創業時から働いていたのがこの田村さん。一線を退いてからも、社長の強い要望でこちらで働いているのだそうだ。


「なに、こんな老いぼれのデザインやら縫製は何の役にも立たないって言うのにねえ。それでも自分にとって出来ることはこれしかないもんだから。ハルヤマの亡霊みたいなもんだと思ってくんしゃいな」


 亡霊なんて縁起でもないこと言うなよ、と昴くんは田村さんの後ろに回ると慣れた手付きでその肩を揉む。その自然な流れに、わたしは昴くんがどれほどに田村さんを慕っているのか、どれほどの時間をここで過ごしてきたのかを感じた。

 もしかしたら家族との繋がりが薄いと感じていた昴くんにとって、田村さんは小さい頃から見守ってくれている、一番近い存在なのかもしれない。


「それで、こんな早い時間にどうしてんでせ?」


 気持ち良さそうに目を細めたまま、田村さんは背中側の昴くんに声をかける。


「まあ……ちょっと……見せたいっていうか……」


 歯切れ悪くもぞもぞと答える昴くん。田村さんは、ああ、と目をぱちりと開くと後ろを振り返った。その視線の先を辿れば、綺麗な桜色のワンピースがトルソーに着せられている。


「……綺麗な色……」


 まさにこれは、桜と同じ。ふと毎年ひとりで見に行く桜並木を思い出した。駅から少し遠いことと、住宅地からも離れていることで桜を独り占めできてしまう、わたしの秘密の場所。出来ることならば、みんなとあの場所で桜を見たかったなとそんなことを考えてしまう。この白い息が軽やかなものに変わり、凍てつくような指先がやわらかな木々の芽をなぞる頃、わたしはもう、この世界にはいないのだろう。


 ゆっくりとトルソーの前へと足を進める。キシッと床が小さく鳴いた。


 優しく柔らかな桜色のワンピース。丁寧に施された縫製、背中部分にはアンティークのものであろうデザイン違いのボタンがセンスよく組み合わされて並んでいる。体のラインが綺麗に見えるようなデザインに、腰の部分にさり気なくあしらわれた繊細なレース。それは本当に、世界に一つしかないような美しいデザインだった。


「坊が初めて完成させた、ドレスでね」


 優しい田村さんの声に、わたしは思わず隣に立つ彼を見上げる。彼は口を真一文字に結んで、頬を赤くさせながらもまっすぐにそのワンピースを見つめている。


「……すごい……昴くん……すごいよ……!」


 会社に対して何の興味も示さなかった昴くん。仕事にもファッションにも、何の熱意も持っていなかった昴くん。その彼が、自身で服を作るまでになっていただなんて。

 その事実は、わたしの心をひどく震わせた。昴くんの正体がアクターであること、演技としてわたしと仲良くしてくれていること、本当の彼の姿が何なのかということ。そういったことが全て吹き飛んでしまうくらいのパワーが、彼のワンピースにはあったのだ。


「まあ、じいちゃんがかなり手伝ってくれたし……まだまだ実際に着てもらうにはだめなところもいっぱいあるし……」


 と言ったところで、昴くんが片手をジャケットのポケットに入れる。どうやら着信が入ったようだ。彼はスマホを取り出すと「げっ」と思い切り嫌そうな顔をした。


「なんでばれたんだろ……ちょっと行ってくるわ」

「へ? どこに?」

「社長のとこ」


 そう言うやいなや、ドアを開ける昴くん。彼はぴた、と足を止めて振り返ると、わたしに向かって口を尖らせた。


「なに悩んでんのか知らないけど、俺が頑張ってんだから先輩も先輩らしくいて」


 じゃなきゃ調子狂うだろ。そう続けた昴くんは、あっという間にドアの向こうへと消えてしまう。


 田村さんの工房に取り残されたわたしは、彼の後を追うべきか、しかしもう少しだけこのワンピースを眺めていたいという思いの間で動けずにいた。ふ、とその空間を和らげたのは、田村さんの小さな笑い声。ファッファッという田村さんの笑い声はわたしのおじいちゃんのそれととてもよく似ていて、懐かしい気持ちになる。


「坊が突然、服飾に興味を持ち出したから何事かと思ったら、咲村さんのおかげでしたか」


 田村さんはよいせっと椅子から立ち上がると、わたしの隣へと並びワンピースを見つめながら白いあごひげを触る。


「仕事前と昼休み、それから仕事が終わった後にね、ここに来てひたすらに打ち込んでるんですわ。最初は社長に認められたいという一心からやっているんだと思ったんですけどねえ、どうやら違うらしいと気付いたのは坊が桜色の生地を選んだ時ですわ。坊の心の中に、この色をイメージした人が浮かんどるんがなぁて」


 その言葉に、ちくりと痛みを感じる。


「……それは多分、違います」


 わたしの言葉に、田村さんはほう、ともう一度あごひげを触る。


「……わたしが昴くんの考え方に影響を与えるなんて、そんなことはありえません。わたしたちの関係は……《《本物》》ではないんですから」


 確かに昴くんが服飾に興味を持ったのは事実なのだろう。そしてそれは、ハルヤマの次期社長としてはとても大切で喜ばしいことだ。だけど、そのきっかけがわたしだなんて、そんなことはあるわけがない。彼にとってわたしは、違う世界から来た、ただの攻略対象なのだから。


「咲村さんは、もう少し自分の目を信じてもいいんじゃなかろうかと」


 田村さんはそう言いながら、そっとトルソーに手を伸ばした。シワがたくさん刻まれた職人の手は、壊れ物を扱うように後ろ側のくるみボタンをひとつ外す。


「世の中には、確かに嘘や偽りも多いことでしょう。世知辛い世の中です。騙した騙されたなんてことも珍しいことではないかもしりゃあせん。それでもね、人の心っちゅうのは、そんなに簡単なもんでもないんじゃにゃあかとこの老いぼれは思うわけですわ。坊のことは、わっしがよく知ってます。あの子はね、自分の心に素直な子なんですわな」


 桜色のなめらかな布地の裏には、肌触りの良さそうな裏地が丁寧に縫い付けられている。その一番上、ちょうど背中のボタンを外した裏側に、へたくそな刺繍が施されたタグが現れた。



『SARA』



「人生初のブランドは、この名前、一択だって。坊はそう言ってね、そりゃぁ嬉しそうに笑ったんですわ」



 冬は雪が降る。

 そんな当たり前のことなのに、何年経っても少し特別に思えてしまう。


「さむ……」


 はあ、と指先に息を吹きかけたとき、少し先のバス停のベンチに見慣れた姿を見つけた。

 こんな寒いのに、雪が舞っているのに、彼は傘ひとつささず俯いている。わたしが知っている彼は、いつも凛としていて、前を向いていて、きちんと自分を持っていて──。


「中島蓮さん……? 何してるんですか?」


 ピンクの傘を、彼の頭上へと傾ける。そっと顔を上げた中島蓮さんの表情があまりに儚くて、わたしは息を呑んでしまう。


 ──なんでそんな、泣きそうな顔をしてるの?


「……そっちこそ、こんな時間に何してんの……」

「決算の準備があって。残業してたらこんな時間になっちゃったんです」


 だけどきっと、わたしも同じような顔をしているのかもしれない。


 アクターだって分かっても、演技だって分かっても、結ばれるはずはないって分かっても。それでもやっぱり、彼に会えるとすごく嬉しい。

 それがとても、苦しくて痛い。


「……ここのとこ、朝から晩までずっと昴と一緒だったんだろ?」

「昴くんなら、毎日定時で上がってますよ」


 本当のことを伝えると、「あいつ……」と中島蓮さんはくしゃりと前髪を一度撫ぜた。

 ミッションから察するに、昴くんと中島蓮さんには『咲村サラと三角関係になって恋に落とせ』などというシナリオが渡されているのかもしれない。負けず嫌いで子供っぽいところがある昴くんのことだから、あることないことで彼を挑発したのかもしれない。


 はあ、と彼は深い安堵の息を吐く。それはわたしの心をきゅっと強く握りしめる。


「中島蓮さん、大丈夫で──」


 大丈夫ですか、と上体を傾けたわたしの腕を強く引いて、彼はそのまま腰にぎゅっと腕を回す。

 一瞬何が起きたか分からなかったわたしは、そのまま数秒呼吸を忘れてしまった。

 

 その時に、気が付いたのだ。彼の手が、小さく震えていることに。


「なあ、消えたりすんなよ……」



 彼は確かにアクターなのだろう。彼がわたしを気遣ってくれるのも、小さく微笑みかけてくれるのも、もしかしたらこの触れ合う時間だって、演技で出来ているのかもしれない。それでも、多分、全てが全て偽りなどではないのだろう。どこかにほんの少し、例えば砂糖ひとつまみ分だけでも、真実が混ざっている。

 それならば、もういいじゃないかとわたしは思ってしまうのだ。


 彼はアクターで、わたしはこのゲームのヒロインで。わたしたちは別の世界の住人で、例えばこの想いが叶うことはないとしても。


 それでもわたしは、やっぱりこの人のことを特別だと、愛おしいと、幸せでいてほしいと思ってしまうのだ。


 ◇


 ピンポーン。


「餃子作ったから持ってきた」

「え、いいんですか?」

「これまであいつらの分も作ってきたから、つい作りすぎて」

「おいしそう! ありがとうございます!」


 ピンポーン。


「コンビニ行くけど、一緒に行く?」

「行きます! ちょうど肉まん食べたいと思ってたんですよ!」

「特製ふかひれ肉まん出たらしい」

「えー! 絶対食べたい!」


 ピンポーン。


「……」

「今日はどうしたんですか?」

「……いや、なんか……元気かと思って」

「昨日も会ったじゃないですか」


 ピンポーン。


「前に見たがってた映画のDVD、掃除してたら出てきた」

「わあ、本当ですか!? これずっと見たかったんですよね」

「……今から一緒に見る?」

「はい!」


 あの夜から、中島蓮さんは頻繁にうちを訪ねてくるようになった。それは別に、毎回部屋の中へ入るとかそういうことではない。ご近所づきあいの親密版とでも言えばいいのだろうか。ほぼ毎日のように、彼は何らかの用事を持って我が家のインターフォンを鳴らした。


 期待したい想いが半分。

 だけどこれも演技なのだという諦めが半分。


 その相反するふたつの気持ちは、時にわたしを苦しめて、それでも彼の顔を見てしまえば、そんなことは全て吹き飛んでしまう。


 これがゲームの中だけだとしても、ただの作り物だとしても、この時間を心と記憶に刻みつけたい。わたしはそう思うようになっていた。



「なんか先輩、最近浮かれてんね」

「えっそそっそそそうかなああ!?」

「分かりやす……」


 会社の給湯室で紅茶を淹れていれば、後ろからやってきた昴くんがコーヒーマシーンにカチリと豆のパックをセットした。


 昴くんとは、あのブランドタグの話は一度もしていない。

 あれもシナリオの一部なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。だけど少なからず、彼なりの将来への思いなどが込められていると感じたから。


「蓮くんと、いい感じなわけ?」


 カップから取り出そうとしていた紅茶のティーパックがちゃぽんとまた海へと落ちる。その様子を横目で見た彼は、馬鹿正直、と呆れたようにため息をついた。


「まあ、いいんじゃん? 蓮くんも先輩のことかわいいって言ってたし」

「えええっ! なかっ中島蓮さんがわたしのことっ……かかかかわっ!?」

「スタイルもいいし美人だし、生命の奇跡だって言ってたよ」

「ききききっ、きせ……」


 そこまで聞いて、わたしは我に返る。あの中島蓮さんが、わたしのことを、いや、誰かのことをそこまで褒めるわけがない。大体、生命の奇跡だなんてそんな壮大なことを言うようなタイプではないじゃないか。


 赤くなった頬を両手で包んで熱を逃す。そのままじと、と隣を見れば、昴くんがいじわるそうな笑顔のままコーヒーをすすっていた。と、ぱっと嬉しそうな笑顔をこちらに向ける。楽しいことを思い付いた時の子供のような表情だ。


「ね、先輩。遊園地行こうよ!」

「ゆ……遊園地?」


 何を藪から棒に、と目をぱちくりさせていれば、彼はポケットからスマホを取り出して誰かにメッセージを打ち始めた。


「俺の父親、パウダーパークの株主だからさ。チケットもらえるんだよね」


 パウダーパークというのは、都内で一番大きな遊園地だ。古い歴史を持っているが、つい2年ほど前に大規模なリニューアルを終え、全国から数々のお客さんが遊びに来ている人気スポット。デートでここを訪れることに憧れている女子もとても多い。


「で、でも遊園地なんて……」

「蓮くんも誘うから」


 にやりとこちらを見る昴くんに、思わずごくんと空気を呑みこむ。中島蓮さんと、遊園地?


「先輩のこと応援するって、俺。絶対に特別な一日になる。俺が約束する」


 昴くんはいつものように自信満々に胸を反らせると、ドラマで偉い人がよくやるように、コーヒーをごくんと飲んでから腕を組んでみせた。



 こうして恋愛未経験の上、乙女ゲームに夢中になり恋心を拗らせたモブ女、はじめてのお出かけ~遊園地編~は今週の日曜日に開催されることが決定した。

 奇数はよくない! と主張する昴くんの提案により、梅ちゃんにも声をかけたところ二つ返事で快諾。それならばと翔太くん、光子ちゃんにも連絡してみたものの、その日はふたりで水族館に出かける予定だということだ。

 あのふたりは、ゆっくりと時間をかけながら、順調に関係を育んでいるようだ。早く付き合ってしまえばいいのにと外野としては思うけれど、ふたりにはふたりが過ごしてきた期間があって、ふたりだけの方法があるのだろう。


 電話をした時に翔太くんからも「がんばれ!」なんて言われたけれど、一体何を頑張ればいいのかは分からない。いや、頑張りすぎて暴走して万が一にでも「すき」だなんて口走ったらわたしは消えてしまうのだから、そうならないための「がんばれ!」なのかもしれない。


 どちらにしても中島蓮さんと出かける遊園地という特別な場所は、初めてそこを訪れる子供にとってのそれのように、わくわくとキラキラでいっぱいに見えていたのだ。



 空は高く、青く青く晴れ渡っている。


 待ちに待った日曜日がやって来た。今週に入ってからずっと曇りが続いていたのに、今日はすっきりと晴れている。俺は晴れ男だ、なんて昴くんが言っていたけれど、あながち嘘ではなかったようだ。


 今日は少しだけ頑張って、黒のニットにくすんだ淡いピンクのスカートをあわせてみた。ベロア素材なので、ピンクでもそこまでかわいらしい雰囲気にはならない。黒や茶色ばかりだったわたしのクローゼットは、ここ最近、少しずつ控えめながらも色味を持つようになっていた。


 多分これはきっと、わたしの中で色々なことが変化している証拠。

 そしてそれには多分、中島蓮さんの存在が大きく関わっている。


「そのスカートすごくかわいい」


 遊園地のゲート前で合流したわたしたち。こういう時、真っ先に褒めてくれるのは梅ちゃんだ。彼女はわたしのスカートと似たような色合いの毛足の長いふわふわとしたニットに、スキニーのデニムを合わせている。上に羽織っているウールのコートは明るいベージュで、とてもかわいらしい。


「へへ、ありがとう……」


 梅ちゃんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しい。ちらりと中島蓮さんを見れば、寝不足なのかあくびをしていた。


 おしゃれをする。メイクをする。少しでもかわいい自分でいたいと願って、色やアイテムをチョイスする。

 それは決して、相手に必ずしも認めてもらわなくてもいい。彼の前で、少しでも自分のことを好きな自分でいたい。そのために自分をコーディネイトしていくのはとても楽しいことだと、わたしはつい最近まで知らなかった。

 ずっとずっと、自分には無関係のことだと、自分にはそんな価値がないのだと思い込んできた。だけどそれは、わたしが勝手に決めつけていただけの、施錠なんてされていない囲いのようなものだったのだ。





 日曜日ということで遊園地はそこそこの賑わいを見せている。真冬の寒い季節でも、真夏の暑い季節でも、人間は楽しさを追求するものなのかもしれない。

 密かに憧れていた大切な人たちとのパウダーパーク。それは想像以上に楽しくて、想像以上にドキドキとする時間だった。


 四人で一列に並べるアトラクションでは近い距離にドキドキしたり、並んでスリルを味わうジェットコースターでは思い切り叫んでみたり、ひとつの大きなキャラメルポップコーンバケットをみんなでつまんだりキャラクターと写真を撮ったり。

 楽しい場所、夢のような場所。それでもきっと、一緒にいる人たちが大切な人だから余計にキラキラと輝くのだ。


 昴くんは応援するという宣言通り、二人乗りのアトラクションがあればわたしと中島蓮さんが乗れるようにしてくれた。他にも、さりげなくツーショットの写真を撮ってくれたりとナイスアシストの連続だ。


 昴くんの「応援」は、わたしが残された時間を楽しく過ごせるようにするためのものなのかもしれない。わたしは彼の好意に甘え、存分に今日という一日を楽しんだのだ。



「最後はやっぱ観覧車でしょ!」


 日はとっぷりと落ち、パーク内は綺麗にライトアップされている。

 楽しいと、一日はあっという間に過ぎてしまう。二十四回まわるはずの心の中の時計の針は、楽しんだことへの代償として半分の十二時間を神様に返してしまっているのだろうか。


 昼には楽しくカラフルな色を持っていたパーク内。夜には暗闇の黒とほのかに照らされるオレンジの灯りがきらきらと瞬いている。


 もう今日が終わってしまう。小さく感じる寂しさを、わたしはダウンのポケットの中にしまった。


「俺、ウメさんと乗りたい。蓮くんとサラちゃんはふたりで乗ってよ」


 当然のことのようにそう言う昴くん。今日一日、彼はこうやってわたしたちが二人になれるようにお膳立てをし続けてくれたのだ。


 楽しかった一日の最後の時間。わたしが再び彼らと遊園地に来ることは、きっとない。


 ──と、梅ちゃんが申し訳なさそうに小さく手を上げた。


「ごめん! わたし高いところ苦手だから、観覧車はパスしていい?」


 ぴくんと隣の中島蓮さんの肩が揺れる。


「一瞬で終わるような絶叫系は大丈夫なんだけど、ゆっくり上がるのが怖くて。みんなは気にしないで乗ってきて! わたしここで待ってるから」


 両手を胸の前で合わせる梅ちゃん。


「じゃあ観覧車は乗らなくていいよ。もう十分遊んだし」


 そう言えば、梅ちゃんはダメダメ! とわたしを観覧車の入り口方面へと向かせる。


「サラ、今しか見られない景色は今見なくちゃ。また今度、なんて思ってたらずっと叶わなくなっちゃうよ!」

「梅ちゃん……」


 首だけ振り向けば、梅ちゃんは「いいから!」と笑った。わたしのせいでみんなが観覧車に乗れない方がつらい、などと言われたら乗らないという選択肢を選びづらくなってしまう。


 でも……、いいから! と押し問答をしていればパンパンっと昴くんが手を叩いた。


「じゃあ、俺たち三人で観覧車乗ってこよ。ウメさんはここで待ってる。そのあとみんなで軽く飯食う。アーユーアンダースタァンッド?」


 得意げにやたらと舌を巻いてその場を仕切る昴くん。惜しい、そこはアーユーではなく、ドゥーユーが正解だ。


 はいっじゃあ決定ー! と言う梅ちゃんは、わたしたち三人を観覧車の乗り場まで見送ると、自分は列から抜けてこちらにニコニコと手を振った。


「三名さまこちらへ」


 ごうんと緩やかに動く観覧車。淡いピンクのゴンドラの扉が開かれる。昴くんに促され、わたしはゆっくりとそこに足を踏み入れる。体が浮くような感覚に一瞬だけ足がすくんだ。


「ごめんね先輩。最後ふたりにできなくて」


 後ろに続く昴くんが、わたしにだけ聞こえるような声でそう告げた。


「ううん、楽しかったよ、ありがとうね」


 ぎぃっとゴンドラが少しだけ傾いて、それに抗うように反対側のベンチに腰を下ろす。昴くんは、わたしの向かいだ。


「蓮くん、はやく乗りなよ」


 中島蓮さんは、まだゴンドラに足をかけていない。開きっぱなしの扉の前で、じっと動かずにいる。


「……俺、やっぱ乗らない」


 ギシッと軋んだのは、この鉄製の乗り篭か、それともわたしの心だったか。


 中島蓮さんは踵を返すと列を抜け、梅ちゃんの方へと駆けていく。


「じゃあ閉めますね。よい空の旅を」


 スタッフのお兄さんがにこやかに微笑んで扉を閉める。


 カシャン。


 やたらと大きく響いたその音の向こう、中島蓮さんの姿を認めた梅ちゃんの表情が、涙でくしゃくしゃになるのをわたしの瞳は捉えたのだった。



 ぐぐぐ、と小さな音を立てゴンドラが乗り場を離れるのが分かった。わたしはぐっと顎を上げ、昴くんの頭の上あたりをきゅっと見つめる。彼の後ろの方では、ライトアップされたメリーゴーランドが綺麗な光の弧を描いている。


「──あ! そういや蓮くんも高所恐怖症だったわ!」

「……」

「俺すっかり忘れてた。そうじゃん蓮くんは乗れないんじゃん」

「大丈夫だよ、昴くん」


 ゆっくりと、だけど確実に空へと上る観覧車。視界に小さくなる中島蓮さんと梅ちゃんの姿が映りそうになり、わたしは慌てて反対側を向いた。

 中島蓮さんは高所恐怖症なとではない。バンジージャンプのVRをみんなでやった時だって、彼は一人だけ全く動じなかったと翔太くんから聞いたことがあるし、苦手なアトラクションはないと本人が今朝言っていた。


 それに中島蓮さんは、こう言ったじゃないか。


『俺、乗《《ら》》ない』


 彼は観覧車に乗れないのではない。彼自身の意思で、乗らないことを選んだ──いや、梅ちゃんのそばにいることを選んだのだ。


 鼻の奥がつんとして、わたしは大きく深呼吸をした。気持ちの切り替えなら得意じゃないか。それに、元々中島蓮さんは梅ちゃんのパートナーの一人であるとわたしは思い込んできたのだ。その時のことを思い出せば、こんなのはなんてことない。当然の流れだと思えるはずだ。


 正面に座る昴くんは、諦めたようにベンチに背を預ける。その振動で、少しだけゴンドラが揺れた。


「……なんだろね、あの二人」


 時計に例えれば九時の位置までわたしたちのゴンドラは上っていた。昴くんは両手をポケットに突っ込んだまま窓の外──下を見る。その視線の先には、きっとあのふたりの姿があるのだろう。


 観覧車が苦手だとそう言った梅ちゃん。しかし本当は、それも本当ではないとわたしは感じていた。彼女のデスクにあるカレンダーは観覧車があしらわれたデザインで、彼女が印をつける際に使っている付箋メモも観覧車の形のもの。

 観覧車には何かしらの思い入れがあるのだろうと、先程梅ちゃんが乗ることを拒んだときには思っただけだった。もしかしたら、そこには中島蓮さんの存在が絡んでいるのかもしれない。


 中島蓮さんがゴンドラに乗らずに梅ちゃんの元へと駆け寄った時、梅ちゃんは確かに涙を流していた。目を大きく見開いて、まっすぐに中島蓮さんを見つめていた。


「あのふたり、付き合うのかな」


 昴くんの声が先程と違うことに気づく。


「まあさ、お似合いだよね美男美女カップルって感じでさ」


 吐き捨てるようなそのセリフは、確実にわたしの心を抉っていく。


「応援するって言ってみたけどさ、先輩と蓮くんじゃやっぱ合わないよね。今日見てて感じた」


 ざく、ざく。昴くんのナイフのような鋭い言葉のスコップは、心の深いところまでも抉りながら掘り下げる。


「蓮くんは先輩に恋をしたりしない」


 ガツンッと一番深いところにスコップがぶつかる音がする。それは例えば小さな頃、公園の砂場を一番下まで掘れば地球の裏側につながっているんじゃないかと信じて掘り続け、だけどその先にあったのは地球の裏側ではなくただのコンクリートの底だったと気づいた時の絶望感によく似ていた。


「……応援するって言ったり、合わないって言ったり……。なんでそんな無茶苦茶なこと言うの……」


 分かってる。

 わたしと中島蓮さんでは見た目も中身も釣り合わないことは分かってる。

 梅ちゃんと中島蓮さんの間には何か特別なことがあるのだろうということも、ずっと感じてきたことだ。

 中島蓮さんがわたしを本当に好きになることなんてないことも、分かってる。

 全てはただのゲームであって、まぼろしだって──わたしは全部分かってる。


 それでも少しだけでも夢を見たいって

 この世界の普通の女の子みたいに、 みんなと一緒に過ごしたいって


 昴くんの『応援』は、わたしのそんな想いを汲み取ってくれたからだと嬉しかったのに。


「なんで、って……。分かんないよ俺にも……」


 しかし、昴くんは腰を前方にずらしてずるりと上体を落とすと、不貞腐れた少年のようにそっぽを向いた。

 ふと、この表情を一度だけ見たことがあることに気がつく。それは翔太くんの事務所に彼を置き去りにしたあと、公園のベンチにぽつんと座っていたときのものと同じだ。


 ハルヤマの御曹司としてしか見られていないことに強い孤独感を抱いていた昴くん。自分の無力さや無能さを感じながらもどうしたら良いのか分からず途方に暮れていた昴くん。


 彼は少しずつその孤独と向き合い、周りとの関わりを築きながら、ひとりの『春山昴』としての姿を明確にしてきたのだ。


 それでも目の前にいる彼は、また迷子になった子供のように空を見つめている。その原因を作ってしまったのが自分だと気付いたわたしは、思わず口をつぐんだ。


 こんなのは、ただの八つ当たりだ。昴くんは確かにわたしが中島蓮さんとの時間を持てるように、今日だけに限らず協力してくれていた。

 彼としてもせっかく協力した相手であるわたしがこんなに不甲斐なければ投げ出したくなるのも当然なのかもしれない。


「……ごめん、昴くん」


 気付けば高度は上がっていて、眼下にはチカチカときらめくパークが広がる。暗い時間にここまで来れば、もうあの二人がどこにいるのかを確認することも出来ない。


「……なんで先輩が謝んの」

「せっかく応援してくれたのに、わたしがこんなだから……」

「違う!」


 ばっと顔を上げた昴くんは声を荒げた。突然の鋭い声にビクッと肩が揺れてしまう。昴くんはわたしのそんな様子を見ると眉を下げ、ごめん、と小さく謝罪をした。


 ごうん。ゆっくりと廻る観覧車。一周を十五分かけて回るのだとパークマップには書いてあった。その半分、頂上まであと少し。


「──先輩」

「うん……」

「蓮くんじゃなきゃだめなの?」

「え……」


 観覧車の頂上で結ばれたふたりはずっと幸せになれるというジンクスは、多分どこの世界にもあるのだろう。わたしだって本当は、そんな夢のようなことを、今日の観覧車にひっそりと託していたのだ。


「俺なら先輩を、大事にするよ」


 切なげな昴くんの瞳が、揺らめきながらわたしを捉えた。




「……あれ、梅ちゃんは?」


 十五分という空中散歩を終えたわたしたちがゴンドラから降りると、そこには一瞬驚いたようにわたしを見つめる中島蓮さんが立っていた。


「蓮くん、そんな顔してどしたの? 先輩が消えたんじゃないかって思った?」


 そんな挑発するような昴くんの言葉にも、中島蓮さんは何も返さない。

 ぶるるとダウンのポケットが震えてスマホを取り出せば、梅ちゃんからのメッセージが表示されている。


『サラごめん! 急用思い出したから先に帰るね。また明日会社でね』


 にこにこマークの絵文字、そして二人で今日撮った写真が送られてきた。


 梅ちゃんは確かに泣いていた。その後、中島蓮さんと梅ちゃんがどんなやりとりをしたのかなんて分からない。それでも、今梅ちゃんが、この絵文字と同じようににこにことしているとはどうしても思えなかった。


 中島蓮さんの様子を見ても、何もなかったわけではないことくらいは分かる。彼は今までに見たことがないほどに、‶無〟の表情をしているのだから。


 昴くんは「ウメさん帰ったのかぁ」などと、両手を頭の後ろで組んでのんびりとした声を出した。

 何食って帰る? おなかぺこぺこ。と自分の胃のあたりをさする昴くんに対して、やはり中島蓮さんは何の反応も示さない。


「……なんで、なんで梅ちゃんをひとりで帰したんですか?」


 声を発して自分でも驚いた。その声が、いつもよりずっと低く、そして震えていたからだ。

 中島蓮さんはゆらりと視線をわたしへと向けると、ふい、と背ける。何の動きもみられないその表情。何を考えているのか、もしかしたら何も考えていないのかもしれない。


「あっ、先輩!?」


 昴くんの声を背中に聞いたまま、わたしは駆けだした。観覧車に乗っていた時間は十五分。ここから最寄りの駅までは歩いても二十分ほどかかる上、シャトルバスは三十分に一本だけ。まだ梅ちゃんはこの近くにいるはずだ。


 楽しかった時間が終わる。

 夢のようだった時間が終わる。

 並んだ四人の笑顔が過去へと飲み込まれる。

 夜風を切って走れば、アトラクションのライトたちが後ろへと流れていった。わたしたちの今日の時間が流れていくのと同じように。


 梅ちゃんの番号を呼び出してみるも、それはなかなか繋がらない。きゅうと脇腹が痛くなっても、わたしの足が止まることはなかった。


 昴くんと連絡が取れなくなった時、わたしは走った。

 哲平さんのお母様に二度目に会いに行く時、わたしは走った。

 翔太くんと光子ちゃんに手を繋いでほしくて、わたしは走った。


 そして今、梅ちゃんを抱きしめたくてわたしは走っている。



 現実世界では走ることが大嫌いだった。運動神経が悪いわたしにとって体育は苦痛でしかなかったし、中でもマラソンなんて拷問に近かった。そのうちに走る機会なんてどんどんと減っていった。走ってまで守りたいものなんてなかったから。


 だけどここでわたしは、どんなに体が苦しくても守りたい人たちを見つけたのだ。


「……もしもし」

「梅ちゃんっ!!」


 何十回目かの着信を、やっと彼女は受け取った。


「サラごめんね、ちょっと急用が……」

「どこにっ、いるのっ!?」


 いつも通りの様子を演じようとしている梅ちゃん。それでも鼻声までは隠せない。息継ぎを挟まないとそんな一言も言えない状態のわたしの声を聞くと、受話器の向こうからはしゃくりあげる声が聞こえた。


「梅ちゃんっ! いまっ……、今行くからっ!」


 哲平さんは、わたしのことを一番最初に認めてくれた大切なひと。

 翔太くんは、わたしのことを見つけてくれた大切なひと。

 昴くんは、わたしを一緒に成長させてくれた大切なひと。


 そして梅ちゃんは、わたしの初めての大事な大事な友達だ。


 ◇


「サラ……」

「梅ちゃんっ!!」


 パウダーパークからほど近い小さな公園のベンチに座っていた梅ちゃんを見つけたわたしは、思い切り彼女を抱きしめた。

 ふわりと香る、梅ちゃんのいい香り。柔らかなウールのコートに、くるんと巻かれた綺麗な髪の毛。


 なぜだか涙がぼろぼろと零れてしまう。走ってきたため息をするのもつらいのに、泣いてしまったのではさらに苦しくなってしまう。それでもわたしは、声を詰まらせながらしっかりと梅ちゃんの華奢な体を抱きしめた。


「サラぁ……」


 ぎゅ、と背中に感じる彼女の手。それは小さな子供が母親にすがるように、わたしのダウンを強く掴んだ。


「ごめんっ……ごめんね……っ……ふたりのことっ……応援するって決めてたのにっ……」


 梅ちゃんは泣きながら、わたしの右肩に頭を乗せて震える。その時にやっとわたしは、梅ちゃんの気持ちに気付いたのだ。

 ずっと、梅ちゃんと中島蓮さんの間には何か事情があるのだとは思ってきた。ただの友達、と呼ぶには表現しがたい空気感がいつもふたりの間にはあったから。だけどわたしはずっと、それを見えないふりをしてきた。それは紛れもなく、中島蓮さんへの特別な気持ちが生まれてしまったからだ。


「……違う、違うよ梅ちゃん……」


 ずっと梅ちゃんは、苦しんできたのだろうか。中島蓮さんへの想いを秘めたまま、友達の仮面を被ってみんなでの時間を過ごしてきてくれた。その中で、中島蓮さんとわたしが接することを「応援する」と自分で決めて見守ってきてくれたというのだろうか。

 それはどれほどに辛くて、切なくて、苦しくて、痛かったのだろう。


 それを思えば胸の奥底が、ぎゅうっときつく締め付けられる。大事な友達がこんなにも苦しんでいたのに、わたしは気付いてあげることが出来なかった。大事な友達がこんなにもつらい思いをしていた原因が、自分だった。


 わたしは彼女を抱きしめたまま、真っ黒な夜空を見上げた。つい1時間前までは、この暗がりがライトアップを美しく引き立ててくれていたのに。今はもう、何も見えない。雲もない、星もない、月もない。ただただ真っ暗な、天に広がる闇だ。


「わたしね、蓮にずいぶん救われてた時期があったの」


 少し呼吸を整えた後、梅ちゃんは過去のふたりについて教えてくれた。

 以前、彼と出会った日に分かれた恋人のことを梅ちゃんは笑って話していた。だけど実際は、ずいぶんと大きな傷となっていたらしい。当時の彼女は精神的にも本当に不安定になり、自暴自棄な日々を過ごしていた。


「お酒に溺れて、知らない男に連れてかれそうになったり。眠れなくて朝までずっとクラブに入り浸ってたり、かと思えばずっと泣いて家に引きこもってたり……」


 そんな中、彼女のそばにいたのは中島蓮さんだった。


「わたしはそんな蓮の優しさに、つけこんでたの。甘えるだけ甘えて、でもその想いに応える勇気が出なかった」


 当時の梅ちゃんにとって中島蓮さんは、眩しい光で、眩しすぎたのかもしれない。


「そんな時にね、蓮が観覧車に乗ろうって言ったの。いつも飲みに行ったり、そういうのばっかだったから。改まって出かけるのなんて初めてでね。わたしもちゃんと、連と向き合おうって決意して」


 ──だけど、蓮は来なかった。


 梅ちゃんはそう言って、また瞳を潤ませた。「こんな話、サラにしてごめん」と再び涙をこぼした。


「そんなことない。話してくれて、嬉しいんだよ本当だよ」


 わたしはそう言って、彼女の肩を強く抱く。

 本心だった。それを聞いて、複雑な思いがないわけではない。それでも、梅ちゃんがわたしに過去の本当の出来事を、気持ちを、ありのままに話してくれることが嬉しかった。


 どうして彼が、梅ちゃんとの待ち合わせに現れなかったのか。それはわたしには分からない。

 だけど何か特別な事情があったことだけは分かる。

 だって彼は、本当に優しい人だから。


 中島蓮さんがわたしに優しくしてくれるのは、彼に与えられた《《役割》》のせい。

 中島蓮さんがわたしに微笑みかけるのは、わたしをゲームオーバーへと導くため。

 中島蓮さんの本当の気持ちはきっと──。



 はー、とわたしはゆっくりと息を吐き出してから彼女の肩を優しく押し返した。離れる体温にこちらを見た梅ちゃんの顔は、涙でぐしゃぐしゃに濡れている。


「梅ちゃん」


 ああ、きっとこれが真実なのだ。


「あのね」


 今までずっと、見えないふりを続けてきた。


「梅ちゃんは梅ちゃんのいいと思ったことをして」


 ここはゲームの世界だけど、みんなにとっては現実世界で。


「梅ちゃんのしあわせを、ちゃんと掴んでいいんだよ」


 アクターである彼らだって、本当はそんな役割から解き放たれていいはずなのだ。


「梅ちゃんと友達になれて、本当によかった」


 好きだと思う人を好きになって

 愛する人に愛してると言葉で伝えて


「大丈夫。絡まった糸は、ちゃんとほどけるようにできているから」


 わたしは小さく微笑むと、梅ちゃんの手を離して立ち上がった。カサリと後ろで、音がする。

 ほらね、絶対に来ると思っていたの。あなたは本当に、優しい人だから。大事な人を、放っておいたりしない人だから。


 何かを言おうと口を開きかけた中島蓮さんの横をすり抜けて、わたしはその場を後にした。



「サーラっ! おーはよ!」


 後ろから両肩をとんっと掴まれてわたしはヒャッと小さな悲鳴を上げた。時刻は七時ちょっと過ぎ。オフィスにはわたし以外誰もいないと思っていたのに。


 振り返れば、髪の毛をゆるやかに巻いた梅ちゃんがにししと笑っていた。


「サラっていつもこんなに早く会社に来てるの?」

「まあ、大体このくらいの時間かなぁ」

「課のみんなが、どんなに早く来ても咲村さんがいるって言ってたからわたしなりに相当頑張ってみたんだよ。それでも先に来てるんだもんなぁ」


 彼女は自分の席まで行くと鞄の中から荷物を取り出した。

 綺麗にお化粧をしているものの、目の赤みばかりは隠せない。昨日あれだけ泣いたのだから当然だろう。一方のわたしも、へたくそなりにメイクで繕ったものの、それでもやはり梅ちゃんと同じように目が赤く、さらには昴くん流に言わせれば明太子のように腫れぼったい。

 みんなが出勤する頃には少しでも引けばいいのだけど。


 よいしょ、とコピー用紙の段ボールを持ち上げて端に寄せる。サイズごとにまとめて、拳ひとつ入る分隙間をあげて隣にまた積み上げる。こうすれば、一目で使いたいサイズのものが分かるし、取り出しやすくなるだろう。


「なーにしてんのー?」


 髪の毛をひとつにゆるく括りながら梅ちゃんはこちらへとやって来る。


「コピー用紙の整理してたの。誰が見ても分かりやすくしておこうと思って」

「サラってほんとマメだよね」


 梅ちゃんはそう言うと、本当見やすい、とわたしの成果を見て頷いた。


 綺麗な梅ちゃん。かわいい梅ちゃん。優しくて誰よりも思いやりのある梅ちゃん。わたしのために、自分の気持ちを抑えようとしていた梅ちゃん。


「昨日、ありがとう」


 くしゃくしゃに丸まったコピー用紙がいくつも放り込まれたゴミ箱の袋の口を結びながら、照れくさそうに梅ちゃんはそう言った。


「サラが言う通り、絡まった糸はちゃんとほどけたよ」


 そう言った梅ちゃんの言葉に、わたしはごくりと息の塊を飲み込む。そんなわたしの表情を見て、梅ちゃんは小さく笑った。


「わたしね、蓮とはもう会わないことにしたんだ」

「え……?」


 思ってもみなかった言葉に、わたしは思わず眉を寄せる。しかし梅ちゃんは、すっきりした表情で窓の外を見ていた。


「蓮とはちゃんと話が出来ないまま、三年という時間だけが経っちゃってた。だからずーっと、なんかすっきりしないまま残ってたんだよね。だけど蓮は蓮なりに、色々なことを、わたしのことも含めて、守ろうとしてくれてたんだなって分かったんだ」


 それが具体的に何を表わすのかは分からない。だけどもしかしたら、とわたしの中ではひとつの考えた浮かんだ。

 翔太くんは、自分がアクターになって中島蓮さんたちと出会ったのは三年前だと言っていた。それは、梅ちゃんと中島蓮さんの関係が途切れてしまった時間と一致する。


 シナリオ通りに、こちらの世界に来たプレイヤーに甘い言葉を囁くアクター。彼女たちと、恋愛ごっこをするのが仕事であるアクター。


 翔太くんが光子ちゃんのためにアクターを辞めたように、当時の中島蓮さんはアクターの道を選ばざるをえない状況で、そのせいで梅ちゃんを手放したのかもしれない。彼女を傷つけたくない一心で。


「わたしね、蓮と一緒にいる時の自分が嫌いなの」


 そんな言葉を放つときでさえ、梅ちゃんは美しい。凛としていて、芯があって。


「甘えて、ずるくて、あざとくて、自分勝手な嫌なヤツ。だから蓮とは一緒にいられないって、本当はあの日にも伝えようと思ってたんだ。三年越しでやっと、本人に伝えられた」


 前に梅ちゃんが言っていた言葉を思い出す。「自分が好きな自分でいたい」と、梅ちゃんはそう言っていた。


「サラ。過去は過去だよ。わたしも蓮も、あの頃とはもう違う。環境も、気持ちも、大事にしたいものも。だから、サラも自分の気持ちを大事にして。サラがいいと思ったことを、信じて」


 それからこうも、続けたのだ。


「自分のことを、信じて」


 ──と。





「先輩、昼飯行こ」


 お昼休みに入ると、珍しく昴くんからランチのお誘い。彼はいつも昼休みになると地下三階へと消えてしまうため、今日まで一緒に昼ごはんを食べる機会なんてなかったのだ。

 しかし昨日の出来事があっての今日。まだあれから二十四時間も経っていない。正直、そんな状態で彼の誘いを受けても良いのかわたしには分からなかった。しかし──


「馬鹿真面目」


 どきっとして顔をあげれば「ってまた蓮くんに言われるよ?」と昴くんは意地悪く笑う。


「昨日のこと気にしてんの? あんなのただの冗談じゃん。いつも通りにしててよ」


 そう言ってくるりと背を向ける昴くん。たまには社食でもいっかなーなどと珍しいことを言っている。


 平常運転の昴くん。昨日の彼の瞳は、ふざけているようには見えなかった。だけど本人が冗談だと言うのならばそうなのだろう。それがわたしへの気遣いだとするのならば尚更、わたしはその言葉を信じなければいけない。


「社食上級者のわたしのおすすめは、油淋鶏ユーリンチーだよ」

「ユーチーリンってあの中国の女優? 社食の広告でもやってんの?」


 こんな昴くんに、わたしは何度救われただろう。次期社長として、わがまま坊ちゃんとして、周りからはまだ少し距離を置かれている昴くん。だけどきっと、この先彼は大丈夫だろう。


「ねえ昴くん。課のみんなも誘っていい?」

「……別にいいけど」


 彼の心にほんの少しでも触れたのならば、きっとみんな、昴くんをすきになる。彼の経営者となるための成長を、支えてくれる仲間たちになるだろう。


「みなさーん! 今日のランチは社食に行きませんかー! わたしと昴くんの奢りでーす!」


 両手を口に添えてそう言えば、みんなが喜んで立ち上がる。


「は、はあ!?」


 素っ頓狂な声を上げる昴くん。


「次期社長、ごちになります!」


 そう言って手を合わせれば、他の同僚たちも同じように手を合わせ「ごちになりまーす!」と声を合わせて笑った。

 昴くんはぶつぶつと文句を言っていたけれど、どこか少し嬉しそうだった。






 こうしてあのパウダーパークから一週間が経っていった。いつも通りに仕事をして、梅ちゃんとご飯に行ったり、昴くんの手伝いを田村さんの工房でしたり、家の片付けをしたり、光子ちゃんと翔太くんと三人で映画も見に行った。


 中島蓮さんとは、一度も顔を合わせていない。


 実の所、毎晩彼はわたしの家を訪ねている。わたしがいるであろう時間にインターフォンを鳴らすのだ。

 最初は何度か押されていたインターフォン。しかしわたしが故意に出ないのであろうことを感じた彼は、一度鳴らしては応答がないことを確認すると部屋へと戻っていくようになった。


 わたしには、どうしても時間が必要だったのだ。

 自分の気持ちを納得させ、きちんと理解して、それを飲み込むために。

 きちんと準備をするために。



 きゅきゅっと窓ガラスをきれいに拭き終えた時、ピンポーンと音が鳴った。本当は明るいうちに窓拭きを終わらせたかったけれど、やることが山積みでこの時間になってしまったのだ。だけどこのインターフォンが鳴るまでに拭き終えたのだからセーフということにしておこう。きっとドアの向こうにいるのは、隣の部屋の彼だから。


「……がんばれ、わたし」


 顔を合わせても合わせなくても、ちょっとした足音や窓の開く音で存在を感じられた。初めての一人暮らしでも不安がなく過ごせたのは、間違いなく彼が隣にいてくれたから。


 大きく深呼吸をすると、リビングへと続くドアを閉めて玄関に向かう。鉄の扉の向こう。ここを開いた時に、わたしと彼は出会ったのだ。


 ひんやりと冷えたドアノブ。わたしはゆっくりとそれをひねり、ドアを押し開けた。


「……開いた……」


 扉の前に立つ中島蓮さんは、わたしが扉を開けたことが余程に意外だったのかそんなことを言った。


「……そりゃあ、ドアですから」


 そう返せば、ぱちりとわたしたちの視線が絡む。そのヘンテコなやりとりに、わたしたちは同時に吹き出した。

 どんな顔をして会おうかとか、どんなふうに話をしようとか、いろいろ考えていたけれどそんなものは杞憂だったようだ。一度笑い合えればそこから空気はふわっと緩んで、わたしたちは再び自然に視線を合わせた。


「肉まん、買いに行きませんか?」

「俺も、言おうと思ってた」


 優しく微笑む彼の姿を見たわたしは、その笑顔を心の中にくっきりと焼き付ける。


 この笑顔が守られるようにと祈りながら。





「おいひい〜!」

「本当にうまそうに食うよな」

「だって美味しいんですもん」

「……まあな」


 いつものコンビニからの帰り道。わたしたちは並んで半分こにした肉まんを食べながら歩いていた。

 今夜は寒さも少し和らいでいる。ぐるぐるに巻いたマフラーが少し熱く感じるくらい。この間までは、何を着たって体の芯から冷えていたのに。

 きっと多分、もうすぐ冬は終わるのだ。


 久しぶりに食べた肉まんは、やっぱりしあわせの味がする。きっとこれからもわたしは、肉まんを見る度にこうやって彼と並んで歩いた時間を思い出す。現実世界に行ったって、肉まんは絶対においしい。だけどわたしは、彼と半分こする肉まんを心から恋しいと思うのだろう。


 今夜も中島蓮さんは、相変わらずザクザクと道路の端の部分を歩いている。茶色く土で汚れてしまう彼のスニーカー。そんなことに構わず、彼はゆっくりと歩みを進める。


 わたしは中島蓮さんの右腕を両手で掴むと、ぎゅっと自分の方へと引き寄せた。


「そんな端っこじゃなくて、歩道の真ん中を歩いてください」


 コンクリートの上に置かれた彼のスニーカー。中島蓮さんはわたしのことをまじまじと見ると、それから自分の靴先を見つめた。

 オレンジ色の街頭が、彼の涙袋に長いまつ毛の影を作る。この人は確かに生きていて、ここに存在しているのだと、その影は物語っているようだ。


「真ん中を歩けるような人間じゃないんだよ、俺。ほのかだけじゃない。たくさんの人たちを、騙してきた」


 ゆっくりと、歩みを進める中島蓮さん。彼の中には、たくさんの後悔や葛藤があったのかもしれない。

 梅ちゃんを傷つけてしまったこととか。置いてきぼりにしてしまったこととか。もしかしたらアクターとして、たくさんの女の子たちを‶プレイヤー〟としてしか見てこなかったことなんかも、色々と考えるところはあったのかもしれない。


「なのにさ、なんでお前は、まっすぐに‶俺〟のことを見てくんの?」


 切なげに歪められた表情で見つめられれば、わたしまで胸の奥が苦しくなってしまう。中島蓮さんの気持ちが、そのまま伝染してしまったように。

 だからわたしは、両手でもう一度彼の手を握ったのだ。そんな風に思わないでほしい。そんな風に苦しまないでほしい。


「中島蓮さんは、わたしに‶幸せ〟を教えてくれたじゃないですか」


 わたしがずっと、知ることのなかったもの。


 誰かと一緒に歩くと体感温度が三度くらい上がることとか

 誰かと一緒に映画を見ると、隣が気になって映画に集中出来ないこととか

 誰かの顔を見ただけで、街のネオンが豪華なイルミネーションに見えちゃうこととか

 誰かの香りに関してだけ、センサーがとてつもなく研ぎ澄まされてしまうこととか

 誰かの声を聞くだけで、泣きたくなってしまうこととか

 誰かと一緒に食べる肉まんが、世界で一番のごちそうになってしまうこととか

 誰かの幸せを、心の底から──本当に心の底から、願えることとか


 こんな想いがあるなんて、知らなかった。こんな形の、たくさんの‶幸せ〟があることを、ずっとわたしは知らなかった。


 わたしにとってのその誰かは、いつだって中島蓮さんで。


「わたしね、ずっと考えていたんです」


 そう、彼の正体がアクターだと知ってから、わたしはずっと考えていたのだ。一体何がこのゲームの目的なのか。どうしたらゲームクリアとなれるのか。

 哲平さんが去り、翔太くんがアクターを辞めた。昴くんはハルヤマの坊ちゃんではなくひとりの人間としての可能性を自ら見つけ、中島蓮さんは梅ちゃんと再会することでゲーム抜きの感情を思い出すことが出来た。


 この先の彼らの人生はもう、‶ドントラブミー〟の延長ではない。


 きっともう、既に目的は達成されている。アクターであった彼らは全員、本来の姿を取り戻しているのだから。


 それでもなぜ、わたしがここにまだいるのか。

 なぜ、中島蓮さんがわたしのそばにいてくれるのか。


 それは、わたしがまだこの世界に、彼の存在に、頑なにしがみついているからだ。


「中島蓮さんは、自由になっていいはずなのにって」


 このゲームのルールはたったひとつ。誰かを好きになってはいけない。


「自分のことを、もっと大事にしていいのにって」


 このゲームを終わらせる方法は、たったひとつ。


「アクターなんて、やめちゃっていいんです」


 一瞬にして、彼の目の色が変わるのが分かる。


「中島蓮さんは、中島蓮さんのいいと思ったことをしてください」


 わたしだって、わたしが正しいと思うことをしたい。


 幸せになってほしい。

 いつも笑っていてほしい。

 自由になって、自分を大事にしてほしい。


 あなたのせいじゃない。あなたが悪いんじゃない。


 ずっと縛り付けていたのは、わたしだったのかもしれない。自分の思いに気付いていたのに、そばを離れるのが怖くて思いを告げられずにいた。もう少しもう少しと言い訳を並べるうちに、いつの間にかこんなところまで来てしまったのだ。


「わたし、中島蓮さんのことが好──」


 ぐいっと力強く腕を引かれたわたしの言葉は、柔らかな体温によって遮られる。


 一瞬、何が起きたのかわからなかった。ゆっくりとまばたきをすれば、自分のまつ毛が中島蓮さんの頬に擦れるのを感じ、彼の唇がわたしの言葉を封じたのだと理解した。その瞬間、涙が溢れた。


 一秒、二秒、三秒。目を閉じれば、彼の様々な思いが心の中に流れ込んでくるよう。きっと彼はずっと、悩んでいたのかもしれない。苦しんでいたのかもしれない。アクターとして演じることに、複雑な思いを抱いていたのかもしれない。


 ゆっくりと離れる口元の温度にまぶたを開ければ、濡れた瞳がせつなげにわたしの瞳を捉える。つい今まで触れていた唇は、震えながら薄く開く。


「……言うなよ……勝手に、終わりにすんな……」


 泣かないで愛しいひと。

 苦しまないで愛しいひと。

 わたしが手放してあげなくちゃ。

 わたしが自由にしてあげなくちゃ。


 しっかりと彼の目を見つめながら、わたしは精一杯に微笑んだ。



「世界で一番、あなたが好きです」



 目の前がどんどんと白く輝いて、繋いだ手と手はゆっくりと離される。眩しさに目を細めれば、涙で頬を濡らす中島蓮さんがぼんやりと見えた。


 ねえきっと、全部が全部、演技なんかじゃなかったよね?

 あのキスと、最後の言葉は、きっと嘘じゃなかったよね?


 確かめる術は、もうわたしにはないからさ。都合のいいように解釈させてもらいます。

 任せてね、妄想は得意なの。


 わたしは、乙女ゲームの猛者なのだから。





「ちわーっす! 咲村さくら様宛にお届けものです。品名はえっと……クッションっすね」


 目の前にはよく見知った宅配便のお兄さん。わたしの左手は実家の玄関の扉を押し開けており、右手には認印が握られている。

 そのお兄さんはわたしの顔を見ると、ぎょっとした表情をした。


「あ……れ……」


 ぱた、とお兄さんの荷物の上にわたしの瞳から落ちた涙が弾ける。


「と、とりあえずここにハンコを! っはいっあざっしたー!」


 大きなダンボールを手渡すと、お兄さんはぴゅーっと走って家の前に停車していたトラックへと乗り込む。それをぼーっと見届けたわたしは、ぱたんと玄関の扉を閉めた。


 手元へと視線を落とせば、荷物には送り状が張り付いている。宛先は、咲村さくら様──本当のわたしの名前だ。差出人は、㈱ドリームメイカーとなっている。ハッとしたわたしは、その場でビリビリとクラフトテープを破り捨てダンボールの箱を開けた。


 もしかしたら、中島蓮さんに関する何かとか──。


 バリバリっと力づくで開封した箱から出てきたのは、片柳さまがプリントされた手触りのよいクッション。


「──うっ……」


 ぺたりと座り込めば、お母さんのガーデンサンダルにお父さんのくたびれた革靴、弟のスニーカーが視界に入った。リビングの向こうからは、お父さんと弟がゲームを楽しむ声。それから「さくらー?」とわたしを呼ぶお母さんの声が響いた。


 ──帰ってこられた。

 ──帰ってきてしまった。


 ホッとした気持ちと、もうあの人に会えないのだという現実がぐちゃぐちゃと混じり合い、大きくなった涙の粒はぼたぼたとクッションの上へと流れ落ちる。


 これでいい。これでいいんだよね?


 わたしはわたしが正しいと思うことをした。

 これで彼は、みんなは、幸せになれる。


 それなのに、どうしてこんなに胸が苦しくて痛いのだろう。



 わんわんと、わたしは声をあげて泣いた。家族が驚いて駆けつけてくれる中、さらに声をあげてわたしは泣き続けたのだった。




 これがわたしの初恋の物語。夢物語だって笑われるかもしれないし、ゲーマーが拗らせた妄想だって馬鹿にされるかもしれない。


 きっと誰もがこう言うだろう。

 それはただのまぼろしだ、って。


 それでもわたしは構わない。何も手元に残らなくても、二度とみんなに会えなくても、確かにわたしはあそこにいて、確かにみんなと共に生きて、下手くそなりに一生懸命恋をしたのだ。



 中島蓮さん、お元気ですか?


 あなたは今でもわたしにとって、まぼろしなんかじゃないんだよ。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ