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幕間 株式会社ドリームメイカー


「全員揃ってるな? 定例会議を始めようか」


 金曜日、午後八時。オンライン上のパソコン画面に映るのは、我が社期待の社員が四人。

 

 やなぎ良治りょうじ、五十歳。株式会社ドリームメイカーの運営企画部長をしている俺は、おもむろに咳払いをした。


 美容師をしている中島蓮。モデルの今野翔太に、会社御曹司の春山昴。中央に座るのは、会社員をしている伊藤哲平だ。


「さて──。咲村サラとのシナリオは、うまくいっているかな?」


 にやりと俺は、口の両端を上げて尋ねた。



 この世には、数々のゲームがある。アクションゲームに格闘ゲーム、RPGに育成ゲーム。他にも多くのジャンルがあるが、その中でも女性に人気なのが‶乙女ゲーム〟と呼ばれるものだ。キラキラとした恋心、きゅんとする甘いセリフ、夢のようなシチュエーションを味わいながら恋愛成就を目指す。


 株式会社ドリームメイカーは、そんな乙女ゲームを数多く制作・運営・配信している大手ゲーム会社である。


 ゲームにはいつも、大まかなシナリオが用意されている。その流れに沿って進むように、演技をしながらユーザーを楽しませるのが‶アクター〟の仕事だ。


「お前たちがアクターであることは、咲村サラには気付かれていないか?」

「はい、大丈夫です」


 ここは、ゲームの世界。誰もがそのことを認識して生活している。しかし、ゲームの世界だからといって何も特別なことはない。普通に仕事をして、普通に人間関係を築いて、普通に生活をしている。

 現実世界と違う点を挙げるとするならば、こちらでの仕事はゲームそのものに関わる職業があるということ──もちろん格闘ゲームやRPGのキャラクターを演じるアクターたちもいる──と、‶異世界〟と‶現代〟という場所が国分けのように存在しているということくらいだろう。


「咲村サラは、ドントラブミーにおいて十人目のユーザーとなるが、今のところだいぶ粘っているみたいだな」


 俺はそう言うと、手元の資料に目をやった。今回のプレイヤー、咲村サラの情報が記載されているものだ。


 本来、ゲーム(こちら)の世界と現実あちらの世界は画面を通してのみ接触することを許されており、直接交じり合うことはない。さらにアクターの言動は全て二次元化して配信されるようになっている。

 しかし、ドントラブミーではプレイヤーが実際にこちらの世界にトリップするという、非常に稀な仕組みを取り入れている。だがこの事実は、未だ試作段階であり、一部の人間にしか知らされていない。


 ちなみに、今までのプレイヤーたちも皆、真面目女同様ハルヤマに勤務。周りの社員たちの記憶は、新しいユーザーが来る度にその部分のみリセットされるように出来ている。


「現時点では、誰が一番近い形だ?」


 そう問いかけると、いつものように翔太と昴が勢いよく手を挙げる。ふたりはお互いにそれに気づくと、いや僕だろいやいや俺だと競い合って手をさらに高く掲げた。

 そんなふたりを横目に、哲平が口を開いた。


「蓮だと思います」

 

 弾かれたように顔を上げる蓮。しかし哲平は素知らぬふりを通す。


「なんで俺……」


 蓮は納得がいかないように呟いたものの、そこで口をつぐむ。あながち間違いでもないのだろう。

 

「前回のユーザーは開始三日目で翔太に告白をしてゲームオーバー。その前のユーザーは十日目にして昴を押し倒してゲームオーバーだったな」


 このゲームでは‶ユーザーはゲームの中の人物を好きになってはいけない〟。告白をしたり、それに相当する行動を起こした時点でゲームオーバーとなり強制的に元の世界へと戻ることになっている。


「クリア出来なかったユーザーたちはこの世界に戻ってこようと、必死に我が社のゲームをまた一からプレイし出しているから、いい傾向ではある」


 そう言うなり俺は、右肩上がりのグラフを俺たちに見えるよう画面へと近づけた。

 かつての人気を失い、新作に押され気味になってしまった過去の良作をもう一度プレイしてもらうためにドントラブミーは開発されたのだと、彼らにはそう説明していた。


「蓮、どうだ? 落とせそうか?」

「……まだ、なんとも」


 アクターの役割はユーザーを楽しませること。しかし、彼らの使命は、ユーザーを惚れさせることなのだ。彼らは、誰にもこのゲームをクリアさせてはいけない。永遠に、クリアされることのないゲーム。

 それが、ドントラブミーなのだ。


「焦る必要はない。惚れさせた奴にはボーナスが出るから頑張れよ」


 いつも放つ一言に、翔太と昴が色めき立つ。誰だって、ボーナスは嬉しいものだ。


「…………」


 しかし、今回は何かが違うようだ。

 蓮は横を向き、小さく息を吐き出した。

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