第十八話 乳首よ私を地球に連れてって
シートベルトは私の下腹部にぴとりと張り付いて冷たい感触を与えている。
太ももと太ももの間には、ほっそりとした空色の下着が挟まれていた。
私はその上にスカートをふぁさっとかけて、窓の外を見た。
遠くまで真っ黒な空が地面が空中が、広がっていて、とにかく黒く、ところどころ、ぽつぽつと星の光が見えた。
私が乗る戦闘機は宇宙をまっしぐらに突き進んでいた。
地球から連れ去られて、巨大な宇宙船の中での乱闘を切り抜けて、そしてこの戦闘機(のような小型宇宙船?)に乗って脱出するまで、大体20分かそこらの時間しか経ってないはずだ。
地球からどのくらい離れた場所まで来てしまったのだろうか。
外を見ても太陽らしきものは見当たらない。
私は腕を組んで考える。
とりあえず、今は地球に帰還したい。
現在位置が分からない。
地図のようなものは無いだろうか、と思って
前の座席の方を覗いた。
この戦闘機のコックピットだ。
宇宙人が静かに座っている。
ロボットを操縦するようなレバーが二本あったが、宇宙人はそれを使っていなかった。
真っ黒な瞳に小さな星の光を映して前を見据えている。
この小型宇宙船は自動運転のようだ。
コックピットのデザインは凄くシンプルだった。
一面に広いモニターが張られていて、端にいくつかスイッチがあるくらいだった。
モニターには何やら表示されている。
よく見ると、それが惑星軌道を表していることが分かった。
(あれが太陽で、……水金地火木だから……)
なるほど、今いるのは火星と木星の間、かなり火星よりの方だ。
ここからなら地球まで帰れるかもしれない。
私はシートベルトを外して前の座席に近づき、シートの背面から顔を出した。
宇宙人がこちらを見た。
私はコックピットのモニターの方を見て、そこに表示されたいくつかの光点のうち、地球を表しているであろうものを指差した。
何度も指を指して、ここに行きたいという意志を伝える。
すると、宇宙人は「んー、いやそこはさすがに……」といわんばかりに眉間に皺を寄せた。
私はずいっと身を乗り出した。
宇宙人の真っ黒な目にはあられもない格好をした私の上半身が映っていた。
私は自分の身を見下ろす。
破れたセーラー服が乳房の上に暖簾のようにして垂れている。
頂点は隠れていた。
上から被さった服の生地の一部がぷくりと膨らんでいる。
私はその小粒のような膨らみの上に乗るセーラー服の切れ端を指でつまみ、
ばっ!とそれをめくった。
宇宙人の真っ黒で大きな瞳が眼窩から零れ落ちそうなほど見開かれた。
しかしそこに映っていたのは胸の膨らみを押さえつける私の姿だった。
指先は沈みこみ、柔らかい感触が伝わってくる。
手のひらの一部にぽつりとした固い突起が優しく触れていた。
「見たければ、私を地球へ連れていってください」
私は目線でそう訴えた。
もう一度、モニターに表示された地球を表す光点を指差し、
「ここへ行きたい」
と意志を伝える。
宇宙人は前を向いた。
そして、モニターをタッチした。
それは地球だった。
戦闘機型宇宙船が旋回して、強く推進し始めた。
その時宇宙人が何かを呟いた。
その言葉はおそらく彼らの言語で、何と言っているか分からなかったが、
「君をここまで連れていく」
と、確かにそう聞こえた気がした。
私は胸を隠しながら座席に座り、シートベルトを締めたのだった。