第十四話 破廉恥熱光線
大広間の中心にいる私に向かって、数多の熱光線が放たれた。
数十の宇宙人の指先から放たれた閃光は私をめがけて突き進んでくる。
私は右半身を後ろにすっと引いて、ぐっっと屈んで、ぴょんっと跳んで、着地した瞬間に後ろへ跳びずさった。
ババババババババと私を追うように数々の光線が地面に着弾し、細い煙が何本もあがる。
ふぅと息を吐いた。
一瞬気を抜いた瞬間、肩を射抜かれた。
ちり、と肩が痛んだ。首元のあたりから焦げ臭い匂いが漂ってきた。
背後をばっと振り返ると、沢山の光が私を狙っていた。
ババババババと光の線が向かってくる。
腰を盛大にねじり、脊髄を軸に独楽のように回転して背後から襲い来る光線を避ける。
すると空から降ってきた光線がふとももを掠った。
「いっ」
痛みを感じた。
スカートの一部が裂け焦げて、肌の色が露わになっていた。
いくつかの光線をよけながら、ふとももを掠った光線の出元を辿る。
それは大きな滑り台の頂上からだった。
ふとももに視線を戻す。
沢山動き回ったせいか血流が増幅し、少し桜色に染まったふとももの一部がどぎつい赤に塗りつぶされていた。
血だ。
そちらに気を取られていると、
合計6か7方向から一斉に光線が迫っていることを一瞬のうちに視認した。
まずい。
私は後方へ一気に飛んだ。
バンジージャンプの紐で背後から一気に引っ張られたような大跳躍で、
都合7本の光線を全て避ける。
だが。
(――しまった)
大きく跳び過ぎたせいで滞空時間が長くなり過ぎた。
身体は既に落下状態に入っていたが、地面が近づくまでが永遠のように思えた。
スローモーションになる時間認識の中で、懸命の速度で眼球を動かす。
空中にいる私に向かっていくつかの閃光が瞬いたのが分かった。
腹筋に力を込めて、空中で体勢をぐわっ!と変えた。
どすん、と着地して、ぶわっと汗が溢れた。
身体の数か所が痛んだ。
避けきれなかった。
セーラー服のおなかの部分が裂けて、へそが覗いている。
肩の生地も削られてブラジャーの紐の片方が露出している。
他にもセーラー服のところどころが裂けて、血も流れている。
熱光線が当たり皮膚が削れると同時に、熱で焼かれているから出血量はそれほどではないのだがダメージは相当入っている。
皮膚の、さらに少し深い部分がじんじんと痛む。
「はぁ、はぁ、」
息を整える。
汗が首筋を伝って、谷間にしたり落ちていく。
胸の下のあたりが蒸れる。
これは結構、まずいかもしれない。
宇宙人の重鎮たちを一掃したとき、筋肉に負担をかけ過ぎた。
身体は疲れていた、継戦は避けるべきだった。
それが今、50人ほどの宇宙人に囲まれている。
子供(のように見える)小さな宇宙人も含めれば、100人ほどだ。
彼らも戦えるのだとすれば、かなりまずい。
とにかく私が今取るべき行動は、逃げることだ。
宇宙人たちはむやみやたらと熱光線を撃つよりも、連携した方が効率がいいと悟ったのか、数人ごとに集まって何かを話ながら、それぞれの集団が別々の方向から私に向かって徐々に距離を詰めて来る。
私は視線の先、遠くの方にこの大広間の出口を捉えた。
ちょうど学校の体育館より少し広いかというこの場所で、
私が立っている入り口付近からは最も遠い距離にある。
私は今、入口を後ろに背負う恰好で戦っている。
あそこを目指すくらいなら
この大広間に来る前に逃走劇を繰り広げていた細い通路に引き返そうかと、背後にある入り口の方を振り返ると、
ドタドタドタドタドタドタっと、
慌ただしい沢山の足音が聞こえてきて、
先ほどまで私を追っていた数々の宇宙人の兵士が、こちらに向かって走って来るところだった。
全員が130かそこらの身長で、子供のような彼らは、剣を振り上げながら私に向かって爆進してくる。
視線を前に戻すと、少しずつにじり寄って来る宇宙人たちがきらりと光る指先を渡しに向けているところだった。
前は閃光、後ろは剣。
死闘の気配がした。