人々と廃墟
その24
東京の住宅エリアでは、ある時突然現れた大平原が今度は黄金色に燃え上がり、こよ黄金色の炎は、この大平原に集っていた数十万人を巡礼者をまたたく間に一人残らず焼き払ってしまった。
この空前絶後の大災害の直後、ここ隣接するエリアをはじめ、東京から一刻も早く逃げ出そうという人たちで、道という道は、大混乱の状態に陥ってしまっていた。
彼らは、空前の大災害に見舞われた住宅エリアからなんとか、命からがら逃げてきた人たちで、一歩でも住宅エリアから離れたいと思う必死の人たちで、住宅エリアから抜ける通りはどこも、身動きが取れなくなってしまっていた。
そして、この大混乱をなんとか整理し、この無秩序な地帯に、なんとか秩序をもたらすために、警官や自衛官が、派遣され始めた。
警察官や自衛官は、適切な場所に配置され、交通の障害となっている事故車両の除去や、交通整理が始まろうとしていた。
* *
若者のカップルが、警官に連れられて警官の指揮所に連れてこられた。
「この二人、避難の人たちともめごとを起こしていました。騒動になると厄介なので、ここで頭を冷やしてもらおうと連れてきました」
警官の上役は、意見を求めるような素振りで、若いカップルの方を見た。
若者のカップルは、災害や、避難や、小競り合いの結果、あるいは不安もあるのだろう表情には、強い疲労の色が現れていた。
「……」
上役は、若者たちが話す気配がないと見たのか、若者を連れてきた警官の方をふたたび見た。
「この二人は、避難の人たちす進む流れとは、反対の方に、つまり、黄金色に燃え盛る被災地の方に進もうとしていました。すると、避難の人たちもこの若者のカップルを押し返そうとするのです。それにもかかわらず、しつこく、避難の人たちを押しのけて、避難の人たちとは逆のほうに進もうとして、最後には、まわりの避難の人たちを巻き込んで、暴動が起こってしまいそうな気配でありました」
上役は、若者のカップルの方を向いてたずねた。
「君たちは、恋人なのか? あるいは、嫁と旦那という関係か?」
「……」
上役は、若者のカップルの返事を待ったが答える様子がないので、話を続けた。
「君たちは、若いし、将来がある身なのに、なにが悔しくて、あの黄金の炎の燃えさかる被災地に行こうとしているのだ? 死のうとでも言うのか?」
「……」
若者のカップルは、返事をしない。上役は、若者のカップルの無礼な態度に呆れてみせた。
別の警官が、何かの報告にやってきた。
上役は、若者のカップルを連れてきた警官に指示を出す。
「この二人は、放して上げましょう。どのみちなるようにしかならんでしよう! わたしたちは、自分たちの命を命を惜しんでいる人たちを助けるのが先決です。少なくとも、今の時点では」
* *
若者のカップルは、放免になった。
若者のカップルは、指揮所を出てきた。
カップルの男は、女に言った。
「もう一度聞いておくが、オマエの言っている話、ウソじゃないな、本当だよな! 俺は、命を張っているんだ、ウソだったら、ただじゃおかないからな」
その25
ヒロシは、思う。
(世の中の人は、なぜ、あのことに気づかないのだろう)
ヒロシは、ある意味、自分は平凡な人間だと思う。
ヒロシは、人より早く走れると思ったこともない。人に賢いとか言って褒められた経験もほとんどない。
ヒロシは、魔法が使えるわけでもない。
ヒロシは、自分でも、そこらにいる特徴のない、平凡な普通の人間の一人だと思っている。
「確かに、そこは間違いない」
しかし、ヒロシには納得の行かないことがひとつある。それは、アレのことについてである。
「世の中の人間すべてが俺のいないところでそう決めて、俺をだましておもしろがっているのか? たぶん、そうなのだろう。たぶん、世の中の人もみんなアレが見えているのに見えていないフリをしている。アレが見えてしまったら、そんな素振りを見せたら重い罰がくだる、そんな掟があるに違いない」
ヒロシは、そんな掟があるとすっかり思い込んでしまっていた。
でも、事実は少し違っているかも知れない。
* *
ヒロシは、たまにではあるのだが、ひとに、例えば友達や親子らであるが、注意されることがある。
ヒロシが、時々下を向いて、地面になにか落とし物でも探してもいるように見えるからである。
「あなた、いつも探しものでもしているかのように地面の方ばかり見ているのよね。そうしていたら、お金やサイフでも拾えるの?」
そんなときに、ヒロシは、逆に驚いてしまう。
(当たり前だ! 俺がいつも下を見て用心して歩くのは。こちらで、下の方に用心してあげなければ、アレにぶつかって、アレが迷惑がるだろう。しかし、世の中の人というのは、アレが見えていても見えないフリをするのがうまい。見えないふりしても、上手にアレを避けて歩いているのには感心してしまう)
ヒロシがいうアレとは、小人のことである。ヒロシは、子供の頃から、頻繁にこのアレ、つまり、小人たちを目撃していた。
小人たちは、ヒロシが育った田舎にもそれなり存在していたが、都会にやってくるとさらによけいな数の小人を、さらに頻繁に目撃した。
そして、東京に突然大平原と古代の遺跡のような巨大な構造物が出現し、その暫くしばらくあとに、この草原が、黄金色に、燃え上がり、大平原を訪れていた数十万人の巡礼者らが焼け死んでしまうという事件が起こった。
ちょうどその事件のときも、ヒロシは、小人を目撃した。
そのときに、ヒロシが出会った小人は、様子が違った。
ヒロシが目撃した小人は、体も服も黄金で出来ているように見えた。
そして、小人たちは、一人、一人が自分の体と同じくらいの金貨を背負ってみた。
ヒロシがまわりを見渡すと、黄金色の、金貨を背負った小人たちがたくさんいた。
小人たちは、大草原の方からやってきているようだった。
ヒロシは、一人の黄金色の小人から、彼が持っている金貨を一枚取り上げてみた。金貨を取り上げられた黄金色の小人はおどおどした様子であったが、金貨を取り返そうとヒロシに攻撃を仕掛けて来るようなことはなかった。