黒幕、神島次郎
その22
神島次郎という人物を知っているか?
確かに、神島次郎という男の容姿は、普通の日本人とはかけ離れている。
神島次郎は、青眼の人物で、背は高く、スラリと脚も長く、ブロンドの髪である。鼻筋も通っている。となれば、これは、基本日本人の流れの容姿ではない。
神島次郎は、欧州系の人種の血が入っているのではないかという話もあれば、神島次郎には、日本人の血などサラサラ入ってはいないのだという声もある。
神島次郎は、どういう人物かというと、東京の郊外に突如出現した大平原を聖地とみなし世界中から、やってくる巡礼者たちの世話をしているのだ。
巡礼者たちのために、世界中から、この大平原に向かうための道を整備し、地理的なポイントに宿舎を用意し、またこの巡礼の道沿いに、巡礼の途中で様々な困難に直面する巡礼者たちに、食料や必要な資金を提供したのも、この神島次郎という男なのだ。
神島次郎が巡礼者のために行った仕事には、気の遠くなるような額の金が必要なはずなのだが、神島次郎が代表する組織は、他から力を貸してもらうことなく、自分の組織の金でこの仕事を行っている。
神島次郎は、今回の巡礼の事業を切り盛りしている人物なのに、絶対に表には出てこない。
ところで、神島次郎の姿というのは、矢口博士の研究所では、たびたび見かけることが出来た。
神島次郎は、矢口博士の研究所のスポンサーでもあるのだ。
神島次郎は、矢口博士の研究所のために、国家レベルの援助とはとにかく桁違いの資金を提供している。
矢口博士の研究所は、突然出現した大平原に対して、絶好の位置に立てられているのだが、それを建てたのも神島次郎であった。
神島次郎は、世界中から、矢口博士のために資料、文献を収集し、世界各地で、考古学的は発掘事業を組織した。
神島次郎の誠心誠意の巡礼や、矢口博士への援助にも関わらず、神島次郎の評判はあまり良いものではなかった。
この神島次郎の評判の悪さには、ひとつの悪い噂が影響している。
それはどんな悪い噂かというと、神島次郎は、日本人のような名前を名乗っているが、実は、この世界を金融の面で支配している一族がいて、その一族の家系のものである。そういう噂であった。
そのような金持ちというか、銀金融王が動くというのであれば、神島次郎を支える一族には、この巡礼や矢口博士の研究を通して、出資した金のはるかに大きな儲けを見込める腹積もりがあると言うことだ。つまり、巡礼者や矢口博士は、金融王の一族のだしにされているということである。そういうふうに考えてみれば、神島次郎が、評価が悪いのはうなずける。
* *
ところで、神島次郎が、資金提供の話を矢口博士に持ちかけてきたときに、矢口博士の研究所の研究員な美里は、この数世紀に渡って世界の金融を支配して来た、神島次郎の出身の金融王な一族のことを調べてみた。
すると、金融王の一族の歴史に、「接触者」との接触の痕跡が確かに見られた。
その23
国重敏夫が、収監されている監獄が出火した。
すると、それから直ちに、日本国の火神首相は、国家安全保障会議を招集した。
というようなウワサがたった。
(ウワサは、あくまでもウワサではあるのだが、火のないところに煙りは立たないと言うではないか)
国家安全保障会議が、いつひらかれてもなんら驚くこともない。
そんな危機的な状況に、実際に、日本は置かれていたのであった。
国重敏夫の留置されている監獄の火事なら、そこには、確かに深い、深い意味があり、それは日本にとって、世界にとって、深刻な危機の到来を知らせるものであるのだが、しかし、それだけでは、あえてそのような大げさな国家安全保障会議などという対応は避けたいところであるのだが、ただ、現在、わが国、日本にとでもない悲劇が襲いかかり、日本の人たちは、あってはならない出来事の深刻さに、重大さに、悲しさに、茫然自失の状態であった。
だから、日本は待ったなしで、重大な決断を下すべき時がやって来ていた。それは!誰もが思っていてことである。
* *
もったいぶっても意味がない。
日本において、言語を絶する悲劇が起こったのだ。まず、それについて述べなければ、他の何を語っても意味の通らぬ話になってしまう。
東京の近郊の巨大なベッドタウンが、ある日失われて、その場所に大平原が現れ、その大平原には、謎の遺跡というか、構造物が、見られたという話は、この物語においても触れてきたのであるが、ほんの二、三日前のことである。
その日、理由もなく、大平原が、あの大平原全体が、黄金の光を発して、輝き出したのだ。
その大平原が発する輝きは、その大平原に集っていた巡礼者たちを、世界中からやって来ていた巡礼者たちを、一人残らず焼き殺してしまったのである。
これは、日本のみならず、世界中を揺るがす大災害であり、大悲劇であった。
そして、人々の涙がいまだ乾かず、愛するひとをなくした人たちの慟哭が、いまだやまないときに、新たに、とんでもない厄介事が、日本人、いや人類に追い打ちをかけるかのように、出現したのだ。
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結局は、何十万人という人が死んだ。