賢者の石との出会い
佐藤拓真は、洞くつの入り口近くで、夜の寒さと闘いながら、奥深くへの探索を決意した。
洞くつの奥に何があるかわからない状態ではおちおち休むこともできないからだ。
暗闇を手探りで進む中、洞くつの奥深くで彼の手が冷たく滑らかな物体に触れた。
青白く輝く石がそこにあり、彼はその神秘的な光に引き込まれた。「これは何だろう?」と呟くと、石から声が聞こえた。
「ようこそ、異世界の旅人、サトゥ・タクマよ。私はエンシェント・ヴォイス、賢者の石とも呼ばれている。」
佐藤は驚き、石を凝視した。そして"異世界の旅人"という言葉から、逆説的にここが異世界であることを改めて認識した。
また彼、"賢者の石"は自分がいた世界を認識しているということも。
「どうして私の名前を知ってい?そして、元の世界に戻る方法はあるのか?」
と佐藤は問いかけた。
「サトゥ、おぬしを元の世界へと戻すには、より高次の魔法が必要だ。しかし、今はまだその時ではない」
と賢者の石は答えた。
サトゥの心は落胆したが、同時に魔法の存在に驚いた。
「魔法が実在するとは…それはどんなものなんだ?」
「この世界には、多様な魔法が存在する。しかし、おぬしはまず基本から学ぶ必要がある。私はその手助けができる」
と賢者の石は言った。
サトゥはこの新たな可能性に心を動かされ、石を大事に懐にしまった。
魔法によって生き延びるための新しい選択肢が増えるかもしれないと考えると、不安な気持ちが少し和らいだ。
しばらくの沈黙の後、サトゥはためらいがちに尋ねた。
「えっと、あの…もし良かったら、賢者の石と呼ぶのは物っぽいし(間違ってないけど)」
「エンシェント・ヴォイスさんだとちょっと…その、長いので。。。賢者の石から取って『ケンさん』と呼んでいいですか?」
賢者の石、エンシェント・ヴォイスは一瞬の沈黙の後、返答した。
「名前は単なる呼称に過ぎぬ。おぬしの好きなように呼ぶがよい。」
「じゃあ、これからはケンさんと呼ばせていただきます。よろしくお願いします。」
とサトゥは安堵の笑みを浮かべた。
エンシェント・ヴォイス、いや、ケンさんは淡々と応じた。
「理解した、サトゥ。必要な時はいつでも呼ぶがよい。」
そうして、二人(一人と一つ?)の奇妙ながらも心温まる関係が始まったのだった。