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境内

 境内に入ってゆくと、周りは杜に囲まれていて、静かだった。宅地化が進む前は、この辺りは鬱蒼とした森に覆われ、その中に入り込んでしまうと、神の怒りに触れて出てこれないという、言い伝えが未だに残されている。森の中にある八幡様ということから、この神社はそう言われている。


 宅地化とともに、木々は伐採されてきたが、神社の周りには、未だに木々が多く残り、そのいくつかは、一抱えもありそうな杉の木があり、それらはご神木とされ大事にされている。今ではわずかに残った森に入っても迷う事はないが、神社の周囲を囲む道路脇に立つ街灯の明かりは、残っている木々によって遮られてしまっていた。


 少女は、境内を歩き周り、やがて隅にあるベンチに坐った。そのベンチを薄暗い裸電球が照らしていた。ベンチの背後には、コンクリート製の古くさいトイレが不快な匂いを立てて鎮座していた。そのトイレの後ろは、木々が人の侵入を阻むかのように、立ち並んでいる。社は、少女の隣に間を少し開けて座った。


「さて、向東野さん、お話を聞きましょうか?」社は、ゆっくりとした口調で言った。


「今日は、かおりちゃん・・・浜矢間 香ちゃんが行方不明になった日なんです。」と少女は言った。社は、その名を記憶の中で反芻してから、事件にあった少女の名であることを思い出した。


「お友達だったの?」


「うん、学校は違っていたけど、香ちゃんも私もコーラス部だったから、よく遊んでいたの」


「そうだったの、それじゃあ悲しいわね」


「先生じゃあないのですか?」少女は、いきなりきりだした。


「私?何が?」


少女は、ごくりを唾を飲み込み社の仮面の顔を見つめた。そして

「香ちゃんを殺したんでしょ」少女は、一気にまくしたてた。


「どうして、そう思うの?」社は、あいた口が塞がないという体で少女を見返した。


「ブギーマン、白い仮面は、先生以外にないもの」少女の答えは意外としか言いようが無かった。「通ってきた道、どれにもブギーマンの都市伝説の元になるようなものがあったでしょ、でも、白い仮面だけは、先生しかないの」



「私は、ブギーマンでないし、香ちゃんを殺してもいないわ」社は、首を横に振った。「だいたいからして、白い仮面の人は、子どもがいたのでしょ?私は独身なのよ」


「白い仮面以外の話は、自然と作られた話だと思います。それより香ちゃんは、先生の仮面の下の顔を知っているって言ってたわ、香ちゃんって耳が凄くいいの、私も自慢できるわ、先生のその声、3年前に失踪した、女優にそっくりだって。先生、その人じゃあないのですか」


「誰かしら?私はあまりテレビとか見ないから」社は、首を傾げた、長い黒髪がそれに沿って流れた。


「その役者さん、杜・・・という名前だったわ」少女は、思い出すことに苦しそうにみえた。そして両手の掌が落ち着かない様子で動いた。「先生の名字と字が似ているのも不思議だし」


「残念だけど、私ではないわ」社は、じっと少女を見つめた。「もしそうなら、私の姿が防犯カメラに映っているし」


「私達が通った道、あそこを通れば、防犯カメラには映らないんです。」少女は、じっと社を見つめた、しかし手がもぞもぞと、何かの機会を伺っていた。「あの道は、子ども達にとって此処にくる近道なんです。先生は、香ちゃんにここで逢おうと言われたのではありませんか」


「いえ、そんな事はなかったわ」社は、じっと少女を見た。真剣な眼差しをしている。「香さんは、私の事を勘違いしていたのじゃないかしら」そしてやたら攻撃的な視線を送る少女の視線を避けるように、余所に目を置いた。


「いいえ、香ちゃんは、間違っていないと思う」と少女はいきなり、社に飛びかかると、面を取ろうとした。思いもしない行動に、社は必死になって面を押さえた。

「やめて!やめなさい!」と言うが、少女は、彼女の顔を執拗に狙い続けた、社はたまらず、両手で少女の体を突っぱねた。その反動で、面のひもが切れ、少女の両手に面が収まったまま少女は、ベンチから転がり落ちた。


「あ!」と二人が叫んだ、

思わず、社は両手で顔を隠し、少女は、勝ち誇ったかのように、両手の中の面と、顔を隠す社を交互にみた、



少女は、立ち上がると社から距離をおいた。「香ちゃんが先生の秘密を知ってしまったから、殺したんでしょ」


「返して・・・おねがい」社は、顔を覆ったまま辛そうに言った。


「顔を見せて、あなたの本当に顔を、そうすれば返してあげる」少女は、面を後ろ手に隠して言った。


「誰にも言わないと、約束してくれる」社は顔を手で覆いながら懇願した。


「その顔が本当に傷で隠さないといけないなら、返すし、誰にも言わない。本当の事をいうと、白い仮面のブギーマンの話は私が作って流したの。先生がその噂で追い詰められるように、でも、先生っていい人みたいで、みんな悪い人として興味をもってくれなくて、本当に困ったの、一年も辛抱したのに大人は誰もあなたの事を詮索してくれない、もう私も我慢が出来なくなって・・・」


「あなたって本当に酷い子ね」社は、そう言って、両手をゆっくりと顔から外した。傷ひとつない美しい白い顔が、裸電球に明かりの下にさらされた。大きな社の目が、少女の驚いた顔をにらみつけた。


少女は、それをみると、「やっぱり」と叫けび、片手に白い面を持って駆け出した。知らせないと、みんなに知らせないと、あいつが殺したんだ。あいつが香ちゃんを。



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