シロトムク
ふと、ある場面、ある関係、ある台詞、性格が思いついたので、書きました。
「なあ、お前はどっち派だ?」
「なにが?」
クラスではよく話す一人が、唐突に聞いてくる。
「なんだよ、聞いてなかったのか?」
「悪い、全く」
「しょうがねえな」
渋々といった様子で、耳打ちしてくる。どうやら、唐突ではなく俺が話を聞いていなかったようだ。
「あの二人だと、どっちが良いかって話」
こっそりといった感じで、話題の人物を指さす。まあ、その言い方で大方察しは付いたが、指している方向を見る。隠しても、ばれてるだろうけど。
「元気で飾らない、真澄か。クールでインテリ、白花か。お前はどっちだ?」
「また、それか」
もう飽きるほど、その話題は上がっていたと思うけど、まだやっていたか。
「またでも何でも。ほら、どっちだ」
「別に俺はどっちでもいい」
「なんだよ、その答えは~。つまらねえやつだな」
どうとでも言え。てか、後で怒られるんだろうな、これ。あいつ、地獄耳だし。
「ちなみに俺は、真澄派。やっぱ元気なのはいいよな。それに、白花はちょっと取っ付きにくいからな」
「それは、関わったことがないから、そう思うんだろ」
「そうなのか?てか、お前白花と話したことあんの?」
「もういいだろ。授業始まるぞ」
丁度いいタイミングでチャイムが鳴る。はあ、助かった。こんな話はこりごりだ。
……
今日の授業が全て終わり、放課後となる。皆一様に、気だるそうに教室を出ていく。俺もさっさと行こう。
「なあ、空木。さっきの話…」
「悪いけど、急いでるから」
「あ、おい!」
これ以上、あんな話に付き合ってられるか。この後の俺が危ぶまれる。
教室を出て、下駄箱には向かわず、図書室へと行く。全く気は進まないが。
扉に手を掛ける。案の定、カギは開いている。同じクラスなのに、どれだけ速いんだ。
中に入って、その人物がいるであろう図書準備室の扉を開ける。そして、当然の如く、そいつはいた。
「やあ、遅かったね」
白花ムク。いつもここにいる図書室の妖精みたいな、こいつの名前だ。
腰に届くくらい長い黒髪は艶やかで、手入れが行き届いている。そして、その髪に合わせるかのように、顔の造形は大和撫子を思わせる美人さだ。クラスの連中が、話に出したがるのが分からないでもない。
「図書室の妖精が速すぎるだけだろ」
「図書室の妖精?なに、それ?」
「俺が勝手にそう呼んでる」
「そんな変な呼び方じゃなく、いつも通りムクでいいんだよ」
「わかってる。別に呼ばねえよ、こんな言いにくいの」
「まあ、そうだろうね。それはそうと…」
何の前触れもなく、俺が避けたかった話題に触れる。
「クラスでは、随分と盛り上がっていたね」
ニコニコと笑っているが、笑顔には見えない。
やっぱり、流されてはくれないか。でも、せめてもの抵抗はしてやる。
「なんのことだ?」
「白を切るのかい?必死に話題に出されないようにしていたのに」
「うぐっ…」
俺の考えていたことまで、ばれてる。地獄耳で魔女みたいなやつだな。
「今、私の悪口を考えただろう。そうだな、魔女みたい、とか思ったんじゃないかな?」
「…」
「それに、教室では、地獄耳には聞こえている…とかね」
「…」
唖然とするほかない。こいつは俺の考えを見透かしているのか?
「あの質問で、私を選ばなかったことについては、議論の余地があるけどね」
「そんなことをしたら、クラスの連中にバレるかもしれないだろ」
「ふふ、そうだったね。私とシロトが、こういう関係なのは秘密だったね」
突然、顔を寄せて口づけをしてくる。
「おい」
「でも、その後ちゃんとフォローしていたから、これ以上は言わないでおこうかな」
「この妖精が…」
「私に感情を向けてくれるのは嬉しいけど、ちゃんと名前で呼んでほしいな」
「ムク」
「うん」
「いい加減離れろ」
「まったく、君はつれないな」
一歩引いて、体を離す。
と思ったが、その間際にもう一度、唇が重なる。
「っ!?」
完全に油断していた。その行動に思わず体が反応する。
「やっぱり、君は面白いね。そういう反応をしてくれるから」
「お前な…」
「でも、嫌じゃないだろう?お互い満足してるんだ。これからも、この秘密を享受しようじゃないか」
ムクが唇に人差し指をあてて言う。
そう、これは秘密だ。俺とこいつの関係は、誰にも明かすことはない。