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第四話

 本日は晴天。私の気分とは真逆で憎たらしいくらい鮮やかな青空が広がっている。

 投獄されてから半月足らず。私は両手を拘束されたまま巨大な馬が引く馬車に乗って何日もかけて隣国アルゲニア王国を目指して移動していた。


 この世界の馬車は魔道具によって強化された車輪によって結構なスピードで移動可能だ。

 魔法と錬金術が存在するゲームの世界なので、前世の世界とはまた違う技術が発達しているのである。


 ゲームでは空飛ぶ船くらいまではでてきたので、これくらいでは驚かない。

 前世の記憶にあるあの科学の発達した社会と照らし合わせても、それを超えるんじゃないかというアイテムが割と多いのだ。


(それにしても、まさかそんな経緯で隣国に送られていたとは思わなかったわね)


 ゲームのシナリオには描かれていない裏の事情を知って私は驚いた。


『陛下! 使い道と申しましても! 僕には分かりかねます! 魔王を放っておくなど危険ではありませんか!』


 エルドラド殿下による処刑実行を寸前のところで止めた陛下。

 それが不服だった殿下は陛下に納得いかないと食ってかかる。


『魔王を倒す方法は古文書を解読すればわかるはずだと司教殿も言っている。それならば魔王としての力を活かして国益を得ようとワシは考えたのだ』


 国王陛下は両手を開いて大げさに振る舞いながら、野望を語る。

 私が魔王の後継者だったことがまるで幸運だったかのごとく言い回しにエルドラド殿下は怪訝な顔つきになっていた。


『国益ですって!? 倒し方がわかったとて被害はでます! 陛下がどんな餅を描いたのか知りませぬが、魔王による被害を看過できるほどのものとは思えません!』


 客観的に聞くとエルドラド殿下の主張のほうが真っ当だと思える。

 私は死にたくないが、国益について考えるなら殿下のようにすぐに殺そうと考えるのが普通だと思えたからだ。  


 殿下の英雄願望は確かに身勝手で自己中心的なものであるが、それでも国民のためという大義名分の上で成り立っている。

 魔王が復活してしまったら必ずや民衆に被害が及ぶにも関わらず、それが国益になるとは私も理解できなかった。


(陛下の企み、それが私の追放理由に繋がるということかしら)


 おそらくここから私が国外に出されるという話になるというのは予想がついた。


 でも理由は実のところよくわかっていない。

 ゲームでは魔王の後継者である私は隣国に送られたと事実だけシェリアに伝えられ、どんなやり取りが成されたのか作中でも謎とされているからだ。


『そう喚くな。まずは話を聞け。現在休戦中の隣国、アルゲニア王国。そこに聖女リルアを人質として送りたいとワシは考えておる』

『はぁ? アルゲニアなどにリルアを? それはどういう趣向でございますか?』


 エルドラド殿下は意味がわからないと首をひねる。


(やっぱり私はアルゲニアに送られるんだ)


 殿下とは対象的に私は予想どおりの流れになったと心の中でうなずいた。

 しかし、よく考えたらこれは変な話だ。


 ゲームのプレイヤーとしての私は厄介者払いという意味で隣国に追放されたのだとばかり思っていた。


 でも、当事者となって気づいたが早期に私を殺す選択もあったのだ。

 なんせエルドラド殿下にも陛下にも私に対する情はない。復活を呑気に待つ理由もない。


 それなら厄介ごとが起こる前に私を殺しておこうというほうが賢明だと思われる。


『実はのう。アルゲニアにスパイを送っていたことがバレて、再び戦争が始まりそうなのだ』

『そ、それは真ですか!?』


 なんと休戦したての元敵国にちょっかいを出したことが知れて大問題になっていたのか。 

 エルドラド殿下も初耳らしく目を丸くしている。


『嘘などつくはずあるまい。そこでワシは聖女を人質として送ることを考えた。神託を受けた聖女はアルゲニアでも信仰の対象となるほど尊いからのう』


 アルゲニア(あちらの国)でもフェネキス(この国)と同じくエーメル教が国教となっており、聖女という存在は特別な存在なのは知っていた。


 もっともアルゲニアには神託を受けられる聖地がないので聖女がいない。

 その代わりとして国防や癒やしに関わる魔道具や錬金術が発達しているのであるが――。


 なるほど。国王は冷え切った両国間の関係修復に聖女である私を差出そうと考えているのか。

 だから陛下は私に利用価値があると、そんな言い回しをした。


『信頼関係回復のために聖女を差し出せば、アルゲニアも黙るはず。戦争が避けられるのなら、国益を守ることに繋がるとは思わんか?』


『ううむ。陛下の仰ることはわかりますが、それでもアルゲニアで魔王としてリルアが覚醒したら――』


『結構ではないか。アルゲニアで魔王として覚醒しても被害を受けるのはかの国だ。くっくっくっ』


 ほくそ笑みながら、恐ろしいことを口にする国王陛下。

 まさかそんな陰謀があったとは知らなかった。


 つまり国王陛下は私がアルゲニアで魔王になることを望んでいる? 


(まるで人のことを時限爆弾みたいに扱ってくれるじゃない)


 その非人道的なやり口に私は明らかな嫌悪感を抱く。


 表向きは国民からの支持もあり、親しまれている国王陛下であり、ゲームでも優しくシェリアを支援していたので、この裏の顔には驚いた。


『魔王が復活したら討伐を大義として国力が弱まったアルゲニアに軍隊を進行させれば良い。古文書の解析はさっそく進ませておるから、その時までには討伐方法もわかるだろう』

『そ、それでは、陛下は最初から――』

『魔王のついでにアルゲニアをそのときこそ滅ぼしてやろうぞ。あーはっはっはっ!』


 陛下は邪悪なる野望を語り高笑いする。

 うわー、やっぱりこの陛下めちゃめちゃ悪人だ……。


 ゲームの続編は主人公の故郷で新たな巨悪が!?みたいな煽りだったけど、もしかしたらこの人が次期ラスボスなのだろうか。


 あり得そうだなぁ。こんな裏エピソードをゲームで隠す意味があるとは思えないし、シェリアと私にとっては悲劇の元凶みたいな人だし……。


 エルドラド殿下もあまりにも非道な父親の計画を聞いてかなりドン引きしているようだ。


『エルドラドよ、そのときこそお前が全軍の指揮を取るのだ。お前にはフェネキス軍総司令官という役職を与えてやろう』

『そ、総司令官ですと!? 栄光あるフェネキス軍の総司令官をこの僕に!?』


 しかしながらエルドラド殿下は国王陛下の甘言を聞くと元気になる。

 まるで散歩に行く前の飼い犬みたいに無邪気な顔をして、パァーっと明るい表情になった。


(さすがは陛下。息子の英雄願望をよくご存じで……)


 この瞬間、私は隣国に送られることを確信する。

 なんせこれでもう国王陛下を止められる者は誰一人としていないのだから。


 そして手続きやらなんやらを最速で終わらせたフェネキス王宮は私をこの馬車に乗せたのだ。


「つまりゲームの展開と同じってことよね……」

 

  エルドラド殿下に殺されそうになったときはまさかゲームとは違うシナリオなのかと思ったが、そうではないらしい。


 となると私の運命はやはり悲劇的なものとなりそうだ。


 このまま私はフェネキス国王の目論見どおり魔王としての力に覚醒。

 そして聡明な妹のシェリアが私を止めるためにいち早くアルゲニアに乗り込む。


 彼女は真の聖女としての力を解放して魔王となったラスボスである私を殺す。


(このまま自分は大好きな妹に殺されるのを待ちながら人質生活を送るのか……。はぁ、もう嫌だ、そんなの……)


 絶望的なこれからを考えるだけで気が重い。


 それに闇の魔力……今は自らの光の魔力で抑えることができているが、常に精神を集中しなくてはならないので眠れない日々が続いている。


 この先、私はジワジワと闇の魔力に侵食されてしまうのだろうか。修行で鍛えた精神力を以てしてもそれに耐えうることができるか自信がなかった。


 向こうについたらどうする? 事情を話して反応をうかがってみる? 


『余計なことは口走らぬことだ。でないと両国間で再び戦争が起きて多くの民が死ぬぞ』


 フェネキス国王陛下は最後に私にそう忠告した。

 まるで戦争が起こったら私のせいだと言わんばかりに。


 だからこそこれからの立ち振る舞いがわからない。どうするのが正解なのか全然わからないのだ。


 ゲームのシナリオでは魔王の後継者であるリルアは幽閉されていたと言われていた。


 つまり魔王になる前にリルアは事情を話している可能性が高い。

 おそらく正直に自らの境遇を話して、自らを殺すように頼んだのだろう。


 しかしなぜかそれは叶わず幽閉するに留められ、リルアは魔王として目覚める。

 ここにどういう経緯があったのか、それも謎に包まれているのだ。


(なんかこう。せっかく前世のゲーム知識があるのにもどかしいわ)


 漫画や小説なんかではこういうゲーム知識があると上手く立ち回って、ハッピーエンドに向かうみたいなそんな展開があるんだけど……。


 このゲーム、裏設定が多すぎて知っていれば知っているほど絶望しかない。


 とにかく今わかっているのは、おそらくリルアは事情を話せる程度の信頼ある人物と出会えるということ。 


 そうだ。そうだった。彼女の……つまり私の身元を引き受けてくれる人って、確かあの人だった。


 私は一番大事なことを今さら思い出した。

 ということは、もうすぐあの人に会える。リルアが事情を話せるくらいの信頼を持ったとされるあの人に……。

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