表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/39

番外編その1

「やはり破邪のロザリオで抑える魔力の許容量を引き上げる、というやり方では上手くいきませんかね?」


 今日もまたレオンハルト様の講義を終えた私は自らの研究レポートを彼に見せる。

 彼は真剣な眼差しでレポートに目を通すと、眉間にシワを寄せた。


「そうですね。これはこれで悪くはないと思いますが、もう少し改良の余地はあると思っています」

「わかりました。じゃあ、また次回までに考えてみますね」

「はい。楽しみにしています」


 レオンハルト様とこうして意見を交わしあうのはとても楽しい。

 私の作ったものを彼が見て評価してくれるのがとても嬉しいのだ。


 ただ、一つだけ困ったことがある。


 錬金術を使って妹を救って以来、妙に彼を意識するようになっていて――最近はレオンハルト様の優しい声を聞くだけでドキドキしてしまうのだ。


「どうかしましたか?」

「いえ! なんでもないです!」


 レオンハルト様の問いかけに慌てて首を横に振って否定する。

 いけない。変に思われてしまう。気をつけないと……。


 この想いは彼に伝えるべきじゃない。

 だって私は最悪の結果、ゲームのシナリオどおりに事が進んでしまうとレオンハルト様を殺してしまうのだから。


 私がそんなことを考えていると、レオンハルト様はふと何かを思い出したように呟いた。


「そうだ。今日の夜は空いていますか? 実は少し付き合っていただきたい場所がありまして……」

「へっ!? つ、つつ、つきあって……、ですか? わ、私とレオンハルト様が?」


 突然の誘いに私は動揺してしまって、声が裏返ってしまった。

 どうしよう。これってデートのお誘いだろうか?


「ええ。実は隣町のデイブラットで年に一度、建国記念日を祝う祭りが開催されるんです。せっかくなので一緒に行きませんか?」

「あっ、お祭り……。そ、そうですよね。びっくりしました」


 うっ、また以前のように勘違いして勝手に舞い上がってしまった自分が恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だ。

 なんで成長しないんだろう? 私は……。


「よかったらシェリアさんも誘ってください。気晴らしにみんなで行くのもいいでしょう」

「ええ、それはいいですね」


 どうやら私は彼のお供をするだけのようだ。

 いや、別に期待していたわけじゃないけど。


 でも、妹のシェリアはこっちにきてまだ間もないから、いい気分転換になるかもしれない。


 お祭りにシェリアやレオンハルト様たちと一緒に出掛けられるのならそれでもいいかなと思った。


「それでは私はシェリアを誘ってみます。あとで彼女に伝えておきますね」

「ええ。よろしくお願いします」


 私は笑顔で返事をして部屋を後にした。

 さて、シェリアはおそらくあそこにいるだろう。


 私は屋敷の中庭に向かって歩き出した。



「やっぱりここにいましたか」

「……お姉様、講義が終わりましたのですね?」


 予想通りだった。

 私は花壇の前にしゃがみ込んで作業をしている青髪の少女に声をかける。

 彼女は振り向くと嬉しそうに笑った。


「はい。ところで何をしてたんですか?」

「お花の世話を。最近、面倒を見るようになったのですが、少しお庭の花が元気がなくて。でももう大丈夫そうです。ありがとうございます、お姉様」


 そう言うとシェリアは立ち上がった。

 そして私をキラキラとした瞳で見つめてくる。


「あの、シェリア。今日の夜にデイブラットでお祭りがあるみたいなんだけど、レオンハルト様がぜひ私とシェリアを誘ってくれたの。それであなたも一緒にどうかなって思って」

「お祭り……、デイブラットの……?」

「ええ。気晴らしにどうかなと思って――」

「まぁ! リルアお姉様とお祭りに!? なんて素敵なんでしょう! もちろん行かせて頂きます! ああ、何を着ていこうかしら? うふふ、楽しみです!」


 私の言葉を遮るようにシェリアが歓喜の声を上げる。

 よっぽど嬉しかったのか、その頬は紅潮していてまるで幼い少女のように可愛らしい。


「ふむ。お祭りですか。旦那様がお二人を誘ったとなるとアレを見せたいのでしょうな」


 私たちがそんな会話をしていると花の苗を抱えている執事のゼルナーさんが口を開いた。


「アレ? なんのことでしょうか? 教えてください、ゼルナーさん!」

「ははは。それは秘密にしておかねば私が旦那様に叱られてしまいますな。夜の楽しみということで」

「えー。そんなのずるいです。気になります」

「おっと、余計なことを言ってしまいましたな。ヒントは空飛ぶ方舟ノアから見えるもの、です」


 ゼルナーさんは悪戯っぽく笑うとそのまま立ち去っていく。

 どうやら本当に答えを教えてくれるつもりはないみたいだ。


 はぐらかされてしまったことに私が口を尖らせていると、隣にいたシェリアが首を傾げた。


「空飛ぶ方舟ノア……? 一体どういうことなのですか?」

「デイブラットには空を飛ぶ船があるのよ。誰でもチケットを買えば乗ることができて、街を一望することができるの」


 私はシェリアに説明しながら、レオンハルト様が見せたいものはなにかと考える。

彼はいったいどこに連れて行ってくれるのだろうか。


「まあ! そうなのですね。是非とも見てみとうございます。それにしてもお姉様は博識ですね。この世界のことをよくご存知ですし、すごいです!」

「そ、そんなことはないと思うわよ?」


(本当はゲームの知識で色々と知っているけど、デイブラットのことは前にクラリスさんと一緒に行かないと分からなかったし、やっぱり知らないふりをしていた方がいいよね)


 私は内心で苦笑いをしながら、誤魔化すように微笑んだ。


「いいえ、凄いです。私なんかまだまだ勉強不足で……。もっと頑張らないといけませんね」

「シェリア……。あなたはこの国にきたばかりなんだし、焦らなくても大丈夫よ? 分からないことがあったらなんでも聞いてくれていいんだから」


 私は少し落ち込んでいる様子のシェリアを励ます。

 すると彼女は嬉しそうに笑ってくれた。


「ありがとうございます。お姉様は優しいですね」

「そんなことないわ。だって私たちは姉妹じゃない。困った時はお互い様でしょ?」

「はい……。でも嬉しいんです。お姉様がまた優しく教えてくれることが」


 シェリアは笑顔を浮かべると、私を見つめて言った。

 こうして妹に再会できると思っていなかったから、今こうやって話せるだけでも私は幸せだ。

 だからこそこの子に殺されるという悲劇の結末だけは回避したい――。


 ◆


 夜になった。


 ゼルナーさんの言ったとおりというか、彼が手配したチケットを使って私たちはノアに乗ってデイブラットの夜景を一望している。


「これは素晴らしい景色ですね」

「そうね。綺麗な街の明かりが見える」


 私の隣にいるシェリアが感嘆の声を上げていた。

 確かにとても幻想的な光景だと思う。

 夜に空から見るとこんな感じなのかと私は感動していた。


「どうですか? お二人とも、祭りを空から眺める気分はいかがです?」


 レオンハルト様が私たちに問いかけてきた。

 彼の隣ではゼルナーさんが楽しげな笑みを見せている。


「最高です。レオンハルト様、ありがとうございます」

「いえいえ。喜んで頂けたなら幸いですよ。さあ、せっかくですから楽しんでください」

「はい!」

「もうじきアレも見られますし、ね」「アレ……?」

「おや? もう始まっていますよ?」

「お姉様、何か見えてきました!」


 シェリアが興奮気味に声を上げた。

 彼女の視線を追うと、そこには大きな光の玉が浮かんでいて、それはまるでイルミネーションのように光り輝いている。


 その美しさに見惚れていると、突然花火のような音が聞こえた。

 そして次々と打ち上げられていく。

 最初は小さな光が一つだけだったが、次第に数が増えていき、ついには大輪の花を咲かす。


 そのあまりの美しさに私たちは言葉を失ってしまう。

 しばらく呆然と見とれていたが、やがて弾けるような音と共に花が散っていくと、今度は拍手喝采が起こった。


「レオンハルト様、すごいです!」

「ああ。まさかこれほどのものが見られるとは思ってもみませんでした」

「ふっ、喜んでいただけてなによりです。これは僕が錬金術で作り出したものでして」


「ええ!? これってレオンハルト様が作ったものだったんですか!?」

「ええ。といっても簡単な仕組みなんですよ。火薬の代わりに魔力を込めた光球を打ち上げているだけです。だからそれほど手間もかかっていなくて」

「そんなことができるなんて……、本当にすごいです」


 錬金術の可能性を見せられて、私は驚きのあまりに目を大きく見開いた。

 そんな私の反応を見て、レオンハルト様は満足げな表情を見せる。

 すると、彼はさらに言葉を続けてきた。

 その瞳は真剣そのもので、私を真っ直ぐに見据えてくる。


「リルアさん、あなたの置かれている立場は大変お辛いものだとわかっています。ですが、いえだからこそあなたは楽しまなくてはなりません。でないとあってはならぬ未来への重責に押し潰されてしまいます」


 そっか、それが言いたかったから私をここに連れてきたのか。

 やはりどこまでもこの方は私を大事にしていくれている。


「レオンハルト様……。ふふ、私は今――楽しいですよ。だってこんなにも美しい景色を見ることができるんですもの」


 私はレオンハルト様に微笑みかけた。

 すると彼は眼鏡のレンズを拭いてから、私をもう一度見据える。


「そうですか。それは良かった。ならばもっと楽しみましょう!」


 レオンハルト様はどこかほっとした様子でそう言うと、光のイルミネーションに視線を戻した。


 私はラスボス聖女と呼ばれるゲームの中の悲劇の魔王の後継者に転生してしまった。


 でも、今はそのような悪役ではなく、ゲームの中の『彼女』でもない。


 今の私はこの世界で生きているのだ。


「はい! これからもよろしくお願いしますね!レオンハルト様!」


 夜空には無数の星々が瞬いていた。

 まるで私の未来を祝福してくれているかのように――。

※お知らせ※


ラスボス聖女!書籍化が決定いたしました〜!!

10月に発売になります!!

より面白くなるように加筆、改稿作業中ですので

よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ