第三十一話
「リルアさんに記憶の器が、魂が二つあることが原因なのかもしれないと僕は考えています。リルアさんのお話と差異があるのはその部分だけですから」
「私の話と……、あっ! そういうことか」
「お姉様、なんのお話をされているのです?」
シェリアは知りようもない話だが、ゲームの中のリルアと私の違いはただ一つ。
私が前世の記憶を持っているということだ。
レオンハルト様曰く、そのせいで魂が二重になっていると言われた。
つまりそれになにかしらの原因があるのだと彼は推測しているのだ。
「魔王が復活のために使うスキル“レインカーネイション”。これは自らの後継者の魂に自らの力を受け渡し、体を乗っ取るという恐ろしいスキルです」
「はい。それで私は魔王の後継者に選ばれて、闇属性の魔力を所持するようになりました」
「このような前例が歴史上にないので、断言はできませんが……、おそらくリルアさんの魂の形が歪であることが影響しているのかと」
「私の魂の形……」
魔王の“レインカーネイション”はよく考えたら前世の私がリルアに転生するのと似ている。
ええーっと、だから前世の記憶持ちの私の魂の形が普通の人と違っていて、魔王の“レインカーネイション”とやらが完全に成功しなかった、ということだろうか……。
「魔王の魂がすべて入り込めず一部が行き場をうしなった結果……最もリルアさんに近い存在であるシェリアさんに取り憑いた。それが僕の考えた推測です」
いつも思うけど、こんなにあっさりと推測できちゃうんだろう。
それがレオンハルト様なんだろうが転生者である私よりもゲームの記憶がある前提のもとで考察が捗るなんてチート頭脳すぎる。
そっか、私が転生して前世の記憶を持っていることが、転生に近いスキルを持っている魔王と相性が悪くて失敗。
それがなんらかの形でシェリアにも影響を及ぼした、と。
「意味がわからんことを抜かす。そうやって王子たる俺を話に置いていこうとするのは感心できんぞ」
「……お姉様、私も全然理解ができませんでした。つまりどうすればよろしいのでしょうか?」
ゲームの世界の記憶を私が持っていると知らない二人には私たちが話していることが通じないのは無理ながらぬこと。
とはいえ一から説明してもおそらく理解してもらうのは難しいと思っている。
あれはレオンハルト様だからこそ飲み込めた話なのだ。
(二人には悪いけど説明しないままでいきましょう)
とにかく解決方法だ。シェリアにも魔王の魂の一部が入っていて、理性を失うほど深刻な状況ならば悠長にはしていられない。
「シェリアさん、難しい説明は置いておくとして、ですね。あなたの中には概算してリルアさんの六分の一ほどになりますが魔王の魂が眠っていると思われます」
「わ、私の体にお姉様と同じく魔王の魂が……? やはり、そうでしたか。そのような気はしておりました」
シェリアはレオンハルト様の告知を聞いて、静かにうつむく。
彼女としてもあのドス黒い闇の魔力に飲まれた経験から、思うところはあったのだろう。
(不安よね。私もこの国にくるまで不安で押し潰されそうだった)
牢獄に入れられて人質になるように命令された、あの日のことを思い出す。
ゲームの知識があったからこそ私はシェリアに殺される未来を想像して絶望した。
――シェリアはその未来すらわからない。
どちらが苦しいのか知ることはできないが、なにもわからぬのも辛いことには変わりないと思う。
「オーレンハイム! 貴様、シェリアになんてことを言うんだ!? なんの根拠があって魔王の後継者だと決めつける!?」
そのやり取りを聞いてエルドラド様は反発する。
私のときはすぐに殺しにきたけど、やはり好きな人が同じ状況に置かれると違うらしい。
彼とてあのシェリアの状態を見たのだからわからないはずはないのだが、認めたくない部分があるんだろう。
「根拠をゆっくりと説明して差し上げてもよろしいですが、殿下も薄々わかっていらっしゃるのではありませんか?」
「う、うるさい! 魔王の後継者はリルアだ! シェリアは魔王と関係ないはずなんだ!」
冷静に返事をされてイライラしながらテーブルを叩くエルドラド殿下。
この方に理解してもらう必要は特にないのだから、放っておくしかないだろう。
「レオンハルト様……、あれだけの力が六分の一というのも驚きましたが、私はまだなんとか抑えられているのにシェリアが先にあのようになったのは理屈に合わないと思ったのですが……」
一番腑に落ちない点。それはシェリアのほうが先に理性を失うほど魔王の魂が覚醒したことだ。
(私の中にある魔王の魂の割合が大きいなら、私のほうが早く覚醒しそうなものよね)
単純に考えて大きい力のほうが抑えるのが大変なのでは? そう思ったのである。
しかし、その疑問にもレオンハルト様はすぐ答えてくれた。
この方に任せておけばもしかしてシェリアも……そんな希望の光が見えてきた。
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