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第二十五話

「これはこれは聖女リルア殿、長い道のりをご足労いただき大儀であった」


 玉座から立ち上がって歓迎の言葉を述べてくれたのは、ホメロス・アルゲニア三世――アルゲニア王国の国王陛下である。


 恰幅のよい体格をしていて白髪まじりの陛下は温厚そうな雰囲気だった。


(フェネキス国王はもっと怖い感じの人だったから意外だったわ)


 年齢はそう、私の父親よりも少し上といったところだろうか。

 私は跪きながら、なにから話そうか必死に絞りだそうとしていた。


「恐れ入ります。陛下にご挨拶の機会を与えていただき、光栄でございます」

「ほっほっほ、そうかしこまらなくともよい。嫌がるレオンハルトに無理を言うてここまできてもらったのだ。面をあげてもっと楽にせい」


 上機嫌そうに顔を上げるよう促す陛下。

 レオンハルト様、やはりかなり私をここに連れてくるのを渋ったみたい。


 確かにこっちにきたてのときは日中、闇の魔力を抑えたり慣れない環境に戸惑ったり、色々とストレスはあった。だから彼も気を遣ってくれたのだろう。


 でも今は“破邪のロザリオ”のおかげでかなり楽に生活している。


 聖女として人質になった以上、本来なら国王陛下に会わずに済ますなどあり得ないはず。

 むしろ一ヶ月以上も待っていただけたことに感謝すべきところだ。


「リルアさんは大事な人質ですから、心労が重なって病気になどなれば大変だと申しただけでございましたが、ご無礼を働いたと感じられたなら謝罪いたします」


「ふっ、レオンハルトよ。お前の言うことはいちいち正しい。だが、こればかりはワシも譲れん。敬虔なエーメル教徒として聖女殿にお会いするというのは夢だったからな」


 信仰の力というのは聖女の私が思っている以上に強いらしい。

 他国の国王陛下が私に会うことが夢などと仰るとはそれこそ夢にも思わぬことだった。


「夢というのは事実でしょうが、目的はそれだけではないのではありませんか?」


「ふふふ、お前はどこまでも人の心を見抜くやつだな。国王たるこのワシもお前と話すといささか緊張するわい」


「ご冗談を仰る。……陛下はリルアさんがフェネキスのスパイ。つまり偽りの聖女であるとお疑いなのですね?」


 ええーーっ!? まさかそんなことを疑っているなんて思いもよらなかった。

 偽物の聖女か。フェネキス王国だとすぐにバレるだろうから、なりすましなど考えもしない発想である。


「鋭いのう。だが仕方あるまい。戦争中の偽聖女騒動を覚えておるだろう? あれで随分と我が国もかき乱された。警戒するのも無理はあるまいて」


「偽聖女騒動、ですか?」


「ああ、三年ほど前にこの国に聖女を名乗る女性が亡命したんですよ。戦争中でフェネキスからも偽情報が入ってきましてね。彼女を信じた我が国は度重なるスパイ行為によって多大なる損害を被ったんです」


 まさかそんな事件があったなんて。全然知らなかった。

 きっとこの国としてもフェネキスとしても隠したい事件だったからだろう。


(三年前というと私の先輩だった聖女が魔物に殺されるという事故があった年だ)


 おそらくフェネキスはその情報をアルゲニア側に隠して、偽聖女を亡命者として送り込んだんだと思う。

 フェネキス国王ならそれくらい考えてもおかしくない。


「偽聖女騒動はワシにとってはトラウマだ。国家を預かる身として少しくらい警戒してもよかろう?」


「だから今回は僕のもとに身元を預けたんでしょう。でしたら信じてくださってもよいではありませんか」


「もちろん信じとるよ。そもそも前回の騒動だってお前が王都にいれば防げたと思うとる。だが、気になったらどうも眠れなくなっての」


 レオンハルト様が私を引き受けたのはそういう経緯か。

 確かに彼ならば偽聖女などに引っかからないだろう。たちまちのうちに見破ってしまいそうだ。


 でも国王陛下はそれでも心配で、ついに私を呼びつけたというわけか。


「陛下のお気持ちはわかりました。……リルアさんを実際にご覧になっていかがです? 安眠できそうですか?」


「難しいことを聞くのう。……失礼を承知で言おう。できるなら証拠を見せてほしい。リルア殿が聖女という証拠を」


 それはそうなるよね。偽聖女の話を聞いたときからそうじゃないかと思っていた。

 証拠といってもなにがいいのかな? 背中に神託を受けた小さな紋章はあるけど、それを見せるのは抵抗あるし……。


「神託とやらは偽聖女はかなり精巧な入れ墨をしとったから、できれば別の証拠がよい」


「リルアさん。祈りを捧げて光属性の魔力を増幅させてはいかがです? あれは聖女にしかできません」


「あ、はい。それでしたらお安いご用です」


 なるほど、神に祈りを捧げてマナを取り込むのは聖女にしかできないことか。 

 当たり前のことすぎて、考えが及ばなかった。


(陛下の前で祈るのは緊張するけど……)


「おおっ! なんという神々しい輝き! まるで神話の天使や女神のような美しさ!」


 私が手を組んで神に祈りを捧げると体が黄金に輝き、陛下は大げさに驚く。

 これをこちらで見せると随分と反応がいい。


 やはり人が光るというのは聖女を知らない人たちにとってインパクトが強烈なのだろうか。


「リルア殿、お主はまごうことなき聖女だ。まことに失礼な発言をしたことをお詫びする」

「いえ、お詫びだなんてとんでもありません。陛下のご心配はごもっともなのですから」

「なんと広き心よ。さすがは聖女殿」


 大げさに天を仰ぎ、陛下は私を褒める。

 そんな経緯があったらスパイを疑うくらい仕方ないと思えるし、私が陛下の立場でも疑うと思う。


「それでレオンハルトよ。聖女殿も本物だとわかったことだし……。せっかくだからお前も聖女殿も王都に滞在してはどうだ? 歓迎パーティーを開いて喜びを皆で分かち合おうぞ!」


「お断りします」


「少しは検討せぬか。国王陛下の提案だぞ」


 私もできることなら王都に滞在は勘弁してもらいたいかな。

 おそらく魔王に覚醒した場合の損害は郊外にあるレオンハルト様の別荘のほうが小さいと思うし……。


「陛下のご命令だとしても、リルアさんの件については全面的に僕に任せるとしてくれたはずです。まさか陛下の勅命に二言はありませんよね?」


「無論だとも。ワシはお前を誰よりも信じとる。……ふーむ、仕方あるまい。今回は諦めるとしよう」


 レオンハルト様は陛下からの信頼も厚いみたいだ。

 それは陛下自らの提案を簡単に諦めたことからも察せられる。


(それにしてもよかったわ。特にトラブルもなく終わって) 


「それではリルア殿、くれぐれもこの国の安寧とアルゲニア、フェネキス両国の平和を祈ってくだされ」

「はい! 承知いたしました」


 最後の陛下からの言葉に深々と私は頭をさげる。

 両国の平和か……。そう、そのためにもなんとか魔王への覚醒は阻止しなくては――。

 こうして私とレオンハルト様の謁見が終わった。

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