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第二十四話

「ここがアルゲニアの王都です。フェネキスと比べていかがですか?」


 アルゲニア王国の王都ウェルブヘルムに到着した私たちは馬車からおりて王宮まで少し歩くことにした。

 王宮まで馬車で行ってもよいのだが、天気もいいので散歩をしようとレオンハルト様が提案したのだ。


「デイブラットと比べたら故郷に近いのでホッとしました。もちろん人通りは多いですが……」


 人口の話をすればフェネキス王都より多いのだが、ここはなんというか中世ヨーロッパ的な世界観が残っていて故郷と似た感じの印象を受けた。


 もちろん、錬金術師の店はフェネキス王都の倍以上あるし、食文化なども違うので売っている食材も若干違う。


 特にこちらの国はスパイスやハーブを多く使う料理が流行っているので、そういう関係のお店も多い。

 細かいところを気にすれば違いはあるのだが、なんせデイブラットが未来的すぎてあそこと比べたらあまり変わらない気がした。


「なるほど、確かにデイブラットと比べたらどこも似たようなものかもしれませんね。……予定より早くつきましたから、散歩がてらランチでもどうですか?」


「えっ? いいんですか? 実はお腹がすいていまして。陛下の前でお腹が鳴ったらどうしようかと心配していたところです」 


「あっはっは、それはいけませんね。でしたら僕のオススメのお店にご案内してさしあげますよ」


 やった! 本当にお腹がすきすぎてピンチだったので、私は素直に喜んだ。

 今日は朝早く出発して、朝食を食べていないのである。


 穏やかに微笑むレオンハルト様に連れられて私は王都のとあるレストランに足を踏み入れた。


「ここが王都でも人気のアルゲニア料理店です。スパイスが効いて辛いものが多いのですが、このあたりのメニューはマイルドなので他国の方も好んで食べていますよ」


 レオンハルト様に連れられて入店したお店はほとんど満席だったが、運良く待ち時間もなく席につけた。


 レンガ造りでおしゃれな雰囲気の店内は此方で有名な画家の絵画や観葉植物が飾られており、厨房からはいい匂いがする。


 彼に手渡されたメニューを見ると、なるほど。確かにスパイス料理がズラッと並んでいた。


「そうなんですね。では私はこちらの肉料理にします」


 どれもこれも美味しそう。

 辛いのは苦手ではないけど、ちょっと怖い気もするから私はハーブをたっぷり使っているという肉料理を頼むことにした。


「わかりました。ワインは適当に僕が注文しておきますね」

「えっ? 謁見前にお酒飲むんですか?」


 ワインという言葉を聞いてびっくりする私。

 いやいや、これから王様に会うにあたってさすがに酒気を帯びていくのはちょっと……。


「はは、リルアさんは真面目ですね。……しかしここのアルゲニア料理はワインとセットのようなものでして。スパイスの香りとワインの芳醇さを同時に楽しむことで成立するんですよ」


「成立……」


「お気になさらずとも、あとで僕特製の錬成ハーブを飲めば酒気はきれいさっぱりなくなります。遠慮せずに召し上がってください」


 ここでもまさかの錬金術。

 お酒を瞬時に抜くハーブって前世の世界でもあったら飛ぶように売れただろうな。


 もはやレオンハルト様がなにを作っても驚かない。せっかくだから私もワインを楽しもう。



「お味のほうはどうでしたか?」


「鼻にツーンと抜けるようなスパイスが独特なんですけど、くせになりますね。この牛肉、まったく獣臭さがなくて旨味だけギューッと凝縮しているみたいで、それがこの香りと絶妙にマッチしているんですよ」


「ふふ、相変わらず食レポがお上手ですね。気に入っていただいてなによりです」


 王都の人気レストランでのランチはもう最高だった。

 昼間からこんなに美味しいものを食べてバチが当たりそうなくらいだ。


「ワインも美味しい……、確かにこれはこのメニューを食べたからこの豊かな香りが際立つんですね」

「そちらも気に入ってもらえてよかったです。聖女様に飲酒を強要など罰当たりなことをした甲斐があります」


 うーん。別に宗教的な戒律で聖女は禁酒しなくてはならない、ということではないんだけど確かに久しぶりにお酒を飲んだ。


 なので今はほろ酔い気分で体温がかなり高くなっている気がする。


「それではこちらをお飲みください。酔いが覚めますので」

「えっ? あ、はい。そうですね。いつまでも酔っ払っているわけにはいきませんよね」


 レオンハルト様から手渡された緑色の錠剤。これが酔いを覚ます錬金ハーブとやらか。

 私、結構酔っ払っている気がするけど本当に大丈夫なのかなぁ。


「ゴクッ……。……えっ? あっ! すごい! すごいですね! こんなに早く体中のお酒が抜けるなんて……!」


 飲んだ瞬間にスカッと頭がすっきりして、スーッと体温が下がるような感覚になり、私はびっくりした。


 これは本当にすごい。世紀の大発明なんじゃないか。

 思った以上の効果に驚きながらレオンハルト様を見ると彼は楽しそうな表情を浮かべていた。


「効果はてきめん、という感じみたいですね」

「あはは、こんなにあっさりとお酒が抜けたのでちょっと怖いです」

「大丈夫ですよ。きちんと体内で無害な成分に分解されるか再構築されるようにできていますから」


 やっぱりすごいな、錬金術は。

 んっ? いや、ちょっと待って。もしかして私の癒やしの魔法でも酔いって覚めるのかな……。

 そんなバカバカしい理由で魔法を使ったことがないからわからない。


 でも考えてみるとそれも変な話よね。どうなるのがはっきりしないことがあるって。

 これがレオンハルト様のいう魔法と錬金術の一番異なるポイントか……。


「それでは良い時間になってくれましたので、王宮へと向かいましょう」


 私の酔いが覚めたことを確認するとレオンハルト様は立ち上がり、店から出るように促した。

 いよいよ国王陛下との謁見か……。やはりこればかりは緊張する。

 なんせ忘れがちだが私はこの国の人質なのだから……。



 お店を出てからしばらく歩くと目の前にそびえ立つ王宮が目に入った。


「こちらがアルゲニア王宮です」

「うわぁ! すごいですね!」


 なんて美しいんだろう。白が基調となっているシンメトリーの外観のその荘厳な存在感に私は圧倒される。


「外観もいいですが、このお城は内装もきれいで評判がいいんですよ。さぁ行きましょう」


 レオンハルト様と私は城門へと足を伸ばす。

 城門には兵士が二人姿勢よく背筋を伸ばして立っていた。


(私人質なんだけど、このままスタスタ歩いて入ってもいいものなのかしら)


 何食わぬ顔をしてレオンハルト様は私を引き連れているが、こちらは内心ドキドキが止まらない。  

 そして城門へと差し掛かったとき、兵士が目を見開いてこちらに視線を向けた。


「おおっ! これはこれはオーレンハイム公爵! そしてこちらが噂に聴く聖女様ですね! お美しい!」

「国王陛下は聖女様の来訪を首を長くしてお待ちしておりました! 私も聖女様を拝顔することができて光栄の極みでございます!」


 兵士たちの予想外の歓迎ムードで私は戸惑ってしまう。

 一人の兵士など私の顔を見て涙ぐんでおり、むしろ聖女のいないこの国のほうが聖女の価値が上がっているのではないかと感じたほどだった。


「オーレンハイム公爵、よくぞ来てくださった。近衛隊長のリックでございます。前に一度お会いしたことがあるのですが覚えていらっしゃいますか?」


「リックさん、覚えていますよ。去年……陛下の誕生日パーティーで挨拶してくださいましたね」


「おおっ! かの錬金公爵殿が私などを覚えていただき感激です!」


 そんな会話をしていると城門の奥から駆け足で勲章をいくつも付けた兵士が駆けつける。どうやらこの方は近衛隊長らしい。


 近衛隊長のリックさんはレオンハルト様の前で帽子を取り、何度も頭を下げていた。


「それでは、お二人ともどうぞこちらに。陛下がお待ちしておりますゆえ」


 リックさんに連れられて、私たちは王宮の奥へと進む。

 本当だ。レオンハルト様の仰るとおり内観はさらに豪華絢爛できらびやかだった。


 多くの芸術品が飾られており、装飾一つ一つが細部にまでこだわりがあり、一歩進むごとに目を楽しませてくれる。


 おそらくこの王宮自体が一つの芸術なのだろう。


「こちらが謁見の間でございます」


 そしてそんな王宮の廊下を歩くこと数分。ついに私は辿り着く。

 この中にアルゲニア国王がいるのか……。私はなにを話せばいいのやら。

 とにかく間違っても不興を買うようなことをしてレオンハルト様にご迷惑をおかけしないようにしなくては……。

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