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第二十二話

 私が扱っている光の魔力の本質を理解して、それだけを魔封じの効果から排除するイメージで作ってみたのだが、その狙いは正解だった。


(こんなに上手くいくとは思わなかったわ)


 錬金術と光の魔力の相性がいいこと、さらに私が普段から光の魔力を使っていること。この二つの要因が都合よく働き、この魔道具の錬成は成功したとレオンハルト様は分析していた。


『この発想は僕も考えていたのですが光の魔力が使えないので断念していました。リルアさんに教えるにしてもまだずっと先かと思っていたのですが、まさか独学でやり遂げるとは……。――やはりあなたを助手にしてみて正解でしたね』


 メガネを外してマジマジと“破邪のロザリオ”を見ながら、レオンハルト様はこの魔道具を絶賛する。


 微かに震えながら笑顔を見せる彼は私を惜しみなく称賛してくれた。


『“闇属性の魔力だけを封じる”という発想が生まれるだけでも錬金術をよく理解していなければできないことです。しかもそれを覚えたてのあなたが実現させるとは……これは免許皆伝しなくてはなりませんねぇ』


 多分、ゲームで魔道具の錬成は慣れっ子だったので発想自体は簡単に出たんだと思う。


 錬成アイテムを上手く作らなくては詰んでしまう“陽光のセインティア”は勘を掴まないと何千種類もある魔道具から必要なものを作り出すのは至難だからだ。


(やっとゲームの経験が活かせたわ)


 ここまで長かった。

 ラスボス聖女と呼ばれたリルアに転生したことを理解しても、これでもかってくらいそのゲーム知識が活かせることがなかった。


 魔王の覚醒を阻止するなど雲を掴むような話すぎて、全然見通しが立たなかったのである。


 でも錬金術に関しては違う。

 ゲームで錬成は町の錬金術師に頼むというシステムだったから、何一つ理屈を理解していなかった私。


 しかしこうして錬金術師の見習いになることで仕組みを理解すれば、あとはゲームの知識で応用が利くようになっていたのだ。


『レオンハルト様、これで魔王にならなくて済む……なんてことはありませんよね?』

『それはないですね』 


 きっぱりと私の安易な発言は否定される。

 やっぱり無理かー。これくらいで魔王への覚醒が止められたら、ゲームのレオンハルト様だってリルアを助けられたはずだ。


 やはりこの問題は根幹から解決せねばならぬみたいである。


(確かに魔王になってしまうと考えると怖いけど……)


 この一ヶ月は和やかに過ごせている。

 これもすべてレオンハルト様のおかげだ。本当にありがたい……。

 私はこの屋敷にこられた幸運に感謝していた。


 ◆


「リルア様~、旦那様がお呼びです~」

「あ、はい。すぐに行きます」


 私が“破邪のロザリオ”を握りしめて祈りを捧げていると、クラリスさんの声が聞こえた。

 まだいつもの錬金術の講義まで時間がある。ともすると、なにか他の用事か……。


「旦那様、リルア様をお連れしました~」


 すぐに支度を済ませてレオンハルト様の書斎へと向かう。

 書斎はびっしりと本棚がならんでおり、テーブルと椅子があるだけの簡素な部屋だ。


 それでもレオンハルト様はそこがお気に入りらしく、なにもないときは大体そこで本を読んでいる。


「お休みのところ呼び出してすみません。実はリルアさんに折り入って頼み事がありまして」

「頼み事、ですか? 珍しいですね。もちろん私にできることでしたらなんでも仰ってください」


 なんだか改まった感じで頼み事と言われて私も構えてしまう。

 大抵のことならできてしまう錬金公爵様が私になにをお願いするんだろう。


「リルアさん、今日からしばらく僕と旅行に付き合ってくれませんか?」

「えっ? りょ、旅行ですか!?」


 旅行って、いわゆるデートに誘われているってこと?

 いやいや初デートで旅行というのはレオンハルト様も大胆な誘い方をされる。


 もちろん行こうと言われて断るつもりはないけど、心の準備は必要だ。

 どうしよう。前世では恋愛する間もなく死んじゃって、エルドラド殿下ともまともにおでかけなんてしたことなかったし……。


 レオンハルト様と旅行に行ったとして、なにか不手際というか幻滅されるようなことをしてしまったら……。


「あの、レオンハルト様。私はその、ですね。あまりそうした――」

「すみません。無理を申しているのはわかっているんですけど、どうしてもお願いしたいのです」


 あのレオンハルト様がそこまで私と旅行に行きたがっている?


 確かに私の見た目は前世と比べてかなり可愛くなったとは思ったけど、シェリアが近くにいると彼女の可憐さが際立ってモテるなんてことはなかった。


 ここにきて、私のモテ期がきたってことかしら。


 でもレオンハルト様は格好いいし、理性的だし、なにより優しいし、私なんかじゃもったいないような気が――。


「王都に行って国王陛下に挨拶をしてほしいんですよ」

「へっ?」


 時が止まった。

 いや、正確には私の思考がストップした。

 なにを勝手に期待してしまったんだろう……。


 そりゃあ、そうだよね。レオンハルト様が私などをデートに誘うわけがない。

 なんで私は恥ずかしい妄想を膨らませて、一人で興奮していたんだろう。


(穴があったら入りたい。“破邪のロザリオ”を身に着けてなかったら闇の魔力が暴走していたかも)


 私は心の中でジタバタしているのを顔に出さないように必死であった。


「すみません。リルアさんの心の負担にならぬように陛下への謁見は勘弁してもらえるように頼んでいたんですけどねぇ。残念ながら却下されてしまいまして」


「そんなことまでされていたのですか? 私なら大丈夫ですよ。このロザリオのおかげで体調もいいですし、陛下に挨拶くらいさせてください」


 どうやらレオンハルト様は私の見えぬところで随分と気を遣ってくれていたらしい。

 それには感謝しかないが、いつまでも彼の優しさに甘えるわけにはいかない。


「ありがとうございます。王都につきましたら美味しいお店でも紹介させてください」

「まぁ、楽しみです。是非ともよろしくお願いします」


 目的はアルゲニア国王陛下に挨拶することだが、よく考えたらレオンハルト様と遠出するのは事実だ。

 王様との謁見は緊張するが、王都の美味しいレストランで一緒に食事もできるみたいだし……。


(どうしよう。すっごく楽しみになってきた)


 おおよそ人質として相応しいメンタルではないが……、私は王都への旅行に胸を高鳴らせていた。


「それではクラリスさん、リルアさんの準備を手伝ってあげてください」

「は~い。リルア様が旅行を楽しめるように全力でお手伝いしま~す」


 クラリスさんに手を引かれて私は自室に戻る。


 そして恙無く準備を終えた私は荷物をレオンハルト様が用意した馬車に乗せて、王都へと出発した。

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