第二十一話
ときの流れは早いもので……通称、錬金公爵ことレオンハルト・オーレンハイムの屋敷で暮らすことになってもう一ヶ月。
隣国に人質として送られると聞いたときはどうなることやらと思ったが、想像とは打って変わって自由で快適な人質ライフを送っている。
それもこれもレオンハルト様が私の自由を保証してくれているからだ。
アルゲニア国王などは納得しているのかなど、疑問点はあるし……なによりも魔王の後継者であることはストレスでしかないが、それでも今の扱いは恵まれているのは間違いない。
(少しだけど錬金術を学んで、ようやくコツを掴めた気がするわ)
昨日の講義の復習をしながら私は改めて錬金術というものの奥深さを実感している。
最初は魔法との違いに戸惑っていたのだが、聖女として培った光属性の魔力を錬金術として運用するコツを掴むと応用してそれを活かすことが可能になった。
光属性の魔力は神から授けられた奇跡の力。それを錬金術の運用に活かすと錬成の速度も精度も通常の錬金術を遥かに凌ぐことが判明したのだ。
ちなみに一般の人間が持つ魔力の性質は四大元素と呼ばれる地水火風に分類される。
聖女になるまで私は火属性、シェリアは水属性だった。この前聞いたがレオンハルト様は風属性らしい。
つまり光属性と闇属性の魔力は特別なのである。
『なるほど、これは興味深いですねぇ』
初めての錬成。山のようにできた風邪薬を前にしてレオンハルト様は楽しそうに笑みを浮かべた。
『リルアさんはもしかしたら錬金術師として僕以上の素質があるかもしれません』
おだてているのか本気で言っているのかわからないが、私はどうやら錬金術師に向いているらしい。
そんなレオンハルト様の評価を裏切らず、私は今日までメキメキと錬金術の腕を上げることとなる。
自由な時間は多かったが、物事を理解してそれを分解……そして再構築するという過程で新たなものを生み出すのが楽しくて正直に告白すると完全に錬金術にハマってしまったのだ。
「これを作ったときはすごく褒められたなぁ」
金色に光る十字架のネックレスを手にしながら私はこの装飾品を錬成したときのことを思い出す。
魔道具――主に錬金術によって特殊な効果を付与する便利アイテム。
野草やキノコから薬を作るのにも慣れてきた頃、私は次の段階に進むことを許された。次の段階は魔道具の作成である。
いきなりそれはハードルが高いと思っていたのだが、思ったよりもすぐにそれは成功した。
『なるほど、僕の魔封じのハーブを応用したんですね』
毎日寝る前に飲んでいる魔封じのハーブ。
それだからなのか、その構造の理解は早かった。
魔力の供給をストップさせる仕組みを知った私はその効果を付与した魔道具作りを目標に試行錯誤してみたのである。
「そしてできたのが“魔封じのロザリオ”……」
最初に作った魔道具、それは魔力を封じる効果のある十字架であった。
光属性の魔力による錬成は私の拙いイメージの精度を上げて、魔力封じに特化した装飾品の精製を可能とした。
『初めてでこれほどの魔道具を作れる錬金術師が果たしていましたでしょうか。多少の調整は必要ですが売り物になるレベルですよ』
『リルア様~、すごいです~。旦那様、これを売ったらどれくらいになりますかね~?』
『俗っぽい質問をしますねぇ。うーん、ざっと計算して金貨五枚くらいかと』
『そ、そんなに!?』
初めて作った魔道具の価値を聞いて私は変な声が出てしまった。
確かにゲーマー目線で考えても完全に魔力を封じる装飾品って強力だな、とは思ったけど……それでも自分の作ったモノの価値を聞くと驚く。
しかし私はすでにその“魔封じのロザリオ”では満足できないでいた。
そのとき既に次に作る予定の魔道具が頭の中にあったからである。
「この“破邪のロザリオ”のおかげで私は本来の私に戻ることができた」
キラリと金色に輝く十字架を握りしめて、私はあの日の達成感を再確認する。
私はルースさんの逃した幻獣を捕まえる騒動のときに自らの魔力が十全に使えなかった無力さにどうしても我慢できなかった。
闇の魔力を抑えるのに自らの光の魔力を使うという行為。そのストレスは大きく自分の力を削ぎ落とし、そのストレスから逃れるためにはすべての魔力を封じるしかない。
どちらにしても弱いままでいる自分が嫌でたまらなかったのである。
(それならば闇の魔力だけを封じる魔道具は作れないものかしら)
初めて“魔封じのロザリオ”の錬成に成功した日、私はそんな発想に至った。
――そしてその願いはついに叶う。
私の中で暴れる闇の魔力のみを封じる魔道具、その名は“破邪のロザリオ”。
これを身につければ、私は光の魔力で闇の魔力を抑える必要がなくなる。そして魔法も十全に使うことが可能となったのだ。
そう……この“破邪のロザリオ”は最初に作った“魔封じのロザリオ”の効果をさらに限定するように錬成させた魔道具である。
この魔道具によって私は当面の悩みから解放されたのであった。
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