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黒羽根導くその未来  作者: 霜山美月
第2話
24/24

米石家

遊戯王とブルアカばっかやってたら半年経ってました。大変申し訳ございません。

まったく関係ないですが別サイトでブルアカ二次小説の連載も開始したのでよろしくお願いします(完結させられるとは言っていない)

 米石クニヱ。

 それはもう十年近く聞いていない、俺の母方の祖母の名前だった。


 米石和希の両親は、同級生の親と比べるとやや高齢だ。

 俺には歳の離れたふたりの姉がおり、末っ子の俺が産まれる時の母は高齢出産と呼ばれる年齢だった。

 そんな母親にとっての母親ともなれば、当然孫の俺が関われる時間も少なくなる。実際、米石クニヱは俺が死という概念を理解していない小学校低学年の頃に老衰で亡くなったし、その日をもって俺の祖父母はすべてこの世を去ったこととなった。


 俺が米石クニヱと交わした言葉はそう多くはない。認知症が進み、自宅介護が始まってから生活を共にすることになったが、当時から内気だった俺には老人と根気よく会話を続けることは難しく、居候している他人に等しい印象だった。

 それから間もなくして病気で入院生活となり、寝たきりが数ヶ月続いた末に息を引き取った。祖母は結局どのような人物だったのか、俺にはわからず終いだったのだ。


 ――その祖母の名前が、どうして超能力適性の話で出てくるのか。

 ――祖母とアトランティスに繋がりが? 超能力と調和する適性の持ち主? 母や俺にも遺伝している?

 雪崩込んでくる情報量を処理しきれずにフリーズしてしまった俺に対して、雷豪は机の端に置いていたタブレット端末を引き寄せ、開いた文書ファイルの内容を掻い摘みながら説明を続ける。


「記録によれば、クニヱさんは過去に何度かうちに協力してくれていたらしい。その過程で適性についても調べさせてもらっていたみたいでさ。件の適性はひとりの息子にはなく、ふたりの娘には発現した。ここまでだと一見、女系に遺伝しているかのように見える」

「俺、一応男のはずなんですけど」

「そこが問題なんだよ。長女――和希君のお母さんの娘ふたりにはなく、今度は息子の和希君にだけ遺伝しているみたいなんだ。発現するかどうかはランダムなのか、はたまた和希君の父親が遺伝適性を反転させる摩訶不思議な体質の持ち主なのか……この分野は本当に調べてもわからないことだらけ。わかっているのは、今その適性を持っているのが和希君とお母さん、その妹の三人ってことだ」


 随分と静かになった隣を見てみると、白峰がわかりやすく頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。超能力者ですら理解に苦しむ内容なのだ、じゃあ無能力者の俺はついていけなくても仕方なくない?

 いや、かの適性が俺にも遺伝しているということは、俺は今後一般人のレッテルを貼ることすら許されなくなるのか? よくわからない闘争に巻き込まれただけのはずだったのに?

 とても信じたくない事実を突きつけられた俺は、温くなったココアを呷ってから、現実逃避して話題を切り替える。


「うちの家族と接触済みだったんですか……」

「あ、大丈夫大丈夫。アトランティスのことは伏せてあるみたいだから。病院を通して調査結果を横流ししてもらったんだったかな、確か。でなきゃ最初から何も知らない和希君を攫いになんか来ないでしょ」

「随分なことやってますね……あの時、マジで殺されるかと思ってましたからね」

「だからちゃんと迷惑料多めに払ったのよ。あと、この話で重要なのは謝礼金の方なんだけどさ」


 既に家族諸共アトランティスの息がかかっていたことに驚く間もなく、現実離れした話は先へ進んでいく。

 そうだ、俺が彼から受け取った大金は迷惑料と謝礼金、口止め料とのことだったが……唯一、謝礼金の部分だけが判然としていない。

 まだ続きそうな話に気怠さを覚えながら空になったマグカップを見つめていると、雷豪はそのマグカップを持って立ち上がり、冷蔵庫の方へ向かった。牛乳を取り出したところを見るに、おかわりを用意してくれるらしい。こういうところは気の利く好青年なのに、実態は超能力について語っている変な人なので残念なこと極まりない。

 そしてその領域に片足を突っ込んでいる俺自身の将来を悲嘆していると、彼はキッチンの方から声を投げかけてきた。


「特務科の子の話、覚えてる?」

「いきなり話が変わりましたね。……秦野組を潰してくれた人、でしたっけ」

「そうそう。あの子――名前は『ツヴァイト』って言うんだけど、生まれ育ちがかなり特殊でさ。言ってしまえば超能力開発関係。その後遺症で身体にガタが来てて、秦野組の任務の時なんか結構キツかったみたいで」


 雷豪が最初に述べた『話さないといけないふたつのこと』のふたつめの話題の切り出しに、隣に座る白峰がぴくりと反応する。

 そういえば、秦野組を単身で壊滅させた特務科の人物については、白峰も会ったことがないから興味があるという風なことを言っていた。だが、その人物が身体に問題を抱えているというのは初耳の情報だ。


「彼女はうちとしても貴重な戦力だから失いたくないのね。そんなわけで前々から彼女の後遺症を治療する術を探していたんだけど、そこで白羽の矢が立ったのが和希君の体質だった」

「俺? まさか……超能力と調和する適性と何か関係が?」

「正直、俺も話を聞いた時は半信半疑だった。でも、発案グループのひとりが、前の幽霊少女の襲撃の件を聞いてやる気になっちゃったのよ。――存在している限り身体がダメージを受けるリスクに晒されるのであれば、『()()()()()』ことにすればいい、ってね」


 幽霊少女――この前の騒動で、アトランティス東京第三支部の地下施設に乗り込んできた少女のことだろうか。名前は確かルアと言ったか……憑依に記憶の閲覧、ポルターガイストとやりたい放題の超能力者だったが、それがどう関係してくるのかと目線で問う先、雷豪は出来上がった二杯目のミルクココアを俺の前に置き、再度着席する。


「調べてみると、クニヱさんでどうやら実例があったらしいんだよ。幽霊が人間の身体に憑依するように……超能力と繋がりの深い彼女の人格と肉体を、超能力と調和できる適性を持つ人物の中に取り込めばダメージを抑えられるだけでなく、細胞の再生までできるんだと。……どういうわけか、今は彼女の肉体が表に出てきているんだけどね」


 寝不足の隈を携えた赤茶色の瞳が、その視線を俺の胸元から上へとなぞらせていき、最後に俺の視線と交差する。

 これまでばら撒かれるだけばら撒かれてそのままになっていた数多の点が、最後の一言をもってしてひとつの線で繋がった。


 俺の祖母こと米石クニヱは、家族の知らないところでアトランティスと繋がりを持っていた。これは年齢からして数十年前の話だろう。更に彼女は、超能力と調和する適性――アトランティスの構成員ですら解明し切れていない、特殊な体質の持ち主だった。

 他に例を見ないその適性は遺伝性らしく、長女と次女、また長女が産んだ長男である俺の合計三人に発現が確認された。一方、クニヱの長男とその子供、長女が産んだ娘ふたりには発現しなかったことから、遺伝する条件は不明とのこと。


 次に、アトランティス特務科のとある少女は、超能力開発と何らかの関係を持っており――『ツヴァイト』という『二番目』を意味する名前から察するに、恐らくは『エアスト』を名乗っていた未來のような事情だろう――その後遺症で身体に不自由があった。

 アトランティスとしては極道組織ひとつを単身で撃破するほどの戦力を失いたくないために治療法を探しており、米石クニヱの前例が話に挙がった。

 どういう原理なのかはさっぱり理解できないが、アトランティスが持つ力を使えば、幽霊が生きた人間に入り込むように、彼女の人格と身体を他の人間の内部へ仕舞い込むことができるという話だ。そうして彼女の身体がどこにも存在していないことにすれば、後遺症の治療にも繋がるのだとか。

 そこで、被検体として超能力と調和する体質の俺が選ばれた。母親や叔母が選ばれなかったのは年齢とかそういった事情だと思われる。


 ……概ねの事情は把握できた。いや、わからないことだらけなのに把握できたと言っていいのかも微妙なラインだが……まあ、そういうことだ。これ以上考えると頭がパンクしそうになる。

 ただ、問題なのは――俺の知らない合間に、人の運命を変えかねない大手術が行われていたこと。大方、俺が銃弾を受けて寝込んでいた時間に執り行われたのだろうが。


「普通、こういうのって交渉とかあるんじゃないですかね」

「申し訳ないとは思ってる。でも彼女の身体も限界が近くてさ。不満があるなら、謝礼金の上積みは俺から上に頼みに行くよ。だから……人ひとりの命を救うと思って、俺たちに協力して欲しい」


 雷豪の表情は、いつになく真剣そのものだった。歳上の青年にこう改まって頼み込まれてしまうと、言い返す言葉も上手くまとまらない。

 手元のミルクココアの水面は濁っていて、俺の顔色を映してくれはしていないが、大層疲れ切った表情をしていることだろう。いきなり無責任に少女ひとりの命運を押し付けられて、俺にこれからどう動けと言うのか。


 水面――透き通った水面の、幻想的な風景がふと脳裏に浮かぶ。

 現実で見たものではない。あれは確か寝込んでいた時に見た明晰夢の中の景色で、俺はそこで銀髪ツインテールの少女と出会った。


『夢……か。じゃ、起きたらあたしのことは忘れてるでしょうね』

『明晰夢に関しては見慣れてるんで、きっと起きても忘れられないと思いますよ』


『こんなところが居心地いいなんて、変わってますね』

『そう? あたしは好きよ。何も考えなくていいし何もしなくていい場所。ベッドすらないのが玉に瑕だけど』

『退屈しませんか』

『面倒な仕事に追われるよりマシだわ』


『あなた、名前は?』

『米石、和希ですけど』

『……そう。和希、これからよろしくね』

『これからって……一日、というか一夢限りの関係じゃないですか』

『どうかしらね。それはあたしがこの環境にどれだけ馴染めるかによると思うわ』

『……そうですか』


 あの気怠さを隠そうともしない幼い顔つきと、口ぶりに似合わず小さな背丈は――今の俺に完全に合致するものだと、今になって気が付く。

 ……あれは夢じゃなかった。未來がルアに憑依されていた時に経験したであろうものと同じ、精神世界とでも呼ぶべき場所で、俺は彼女の人格と会っていたのだ。


「……これ、その子の身体ってことですよね」

「そうなるな。身体が特務科の子、人格は和希君……こういったちぐはぐになる例は記録にも残っていないな。今とか彼女と対話できたりしない?」

「え、そんなことできるんですか? 私、少し話してみたいんですけど……」

「ちょっと試してみます」

 

 とは期待に応えるように言ったものの、表に出ていない人格との会話なんて漫画やアニメの中でしか見たことがない。そもそもここ数日、漫画やアニメみたいなことばかり目の前で起きているんだから最早何が非常識なのか判別が付かなくなってきているまである。

 多重人格者といえば脳内会話、あるいはテレパシーの類だろうか……試しに脳内で『元気ですか?』など当たり障りのないコミュ障文をタイプしてみるが、返答が来る様子はない。これは既読無視されているのか、あるいは連絡ツール自体間違えているのか、それすらも判断不可能だ。


 十数秒待ってみてから首を横に振ると、白峰は期待の眼差しを引っ込めて肩を落とし、雷豪は小さく笑ってからミルクココアを飲み干して起立した。


「ひとまず、全体的に話したかった事情はこんなところだ。和希君が元の身体に戻れるまではうちで匿おう。その間に元に戻れる方法も調べてみる。特に俺たちから和希君へ要望は特にないけど……そうだな、あの子の身体が表に出ている間は、慎重に扱ってくれればそれでいいよ」

「……怖くて乱暴にする方が無理ですよ」


 焦って自宅の壁にぶつけた時にできた額のたんこぶを擦りながら、俺は力なく笑みを返す。視点が下がっているおかげで歩きにくさがあったはずだが、気付かぬうちに慣れたものだ。慣れすぎて自分の身体のように酷使してしまうことは危惧すべきだろうが、そこはまあなんとか慣れで……慣れが危ないって言ってるんだよなあ……。

 ともかく、直近の引越し関係の予定はキャンセルが確定した。あとは母親にも誤魔化しの連絡を入れなければ。

 今回は土日しかないが登校日までに解決できるのか心配だ。どう考えても前回よりボリュームありそうなんだけど。……なんかもう疲れて何も考えたくない。


「さて、長話を聞いて疲れただろ。部屋も自由に使っていいから休んどき。記憶は睡眠で定着するって言うしね」

「……雷豪さんは?」

「俺は起きてるよ、まだ仕事残ってるのに休める気はしないし。静、和希君を案内してあげて」

「はーい。先輩、こっちです」


 やっと退屈な話が終わったと言わんばかりに白峰に立ち上がった白峰に手を引かれ、俺は二階への階段を上っていく。

 ただでさえ一週間歩き回って消耗しきっているというのに、十分な睡眠も取れないまま理解の困難な話を聞かされたのだ。心身ともに疲労困憊、ああいや、身体が変わっているということは身体の疲労は俺のものではないのか……? でも温かいミルクココアのおかげか、異様に眠いのは事実だ。前を歩く白峰が何かを言っているような気もするが、それに答える元気もない。睡眠の重要性! 睡眠の重要性!


 まだか細い意識の糸が繋がっているうちに、今日俺があらゆる人物から聞いた話をまとめてみよう。

 ひとつめ、黒羽未來の良き友人・相談相手として付き合いを続けて欲しい。

 ふたつめ、永陵三年・鈴音理愛の行方不明の妹、鈴音芽愛を捜して欲しい。

 みっつめ、身体の持ち主である特務科の少女を救うために協力して欲しい。


 ふたつめは正確には白峰向けの依頼だが。

 うわっ……俺のタスク、多すぎ……?

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