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黒羽根導くその未来  作者: 霜山美月
第2話
23/24

逸般男子高校生

2週連続で予約投稿設定を忘れていました(バカ)


8年前の2014年6月9日、もう名前は出ていますが、

本作品の元の創作に登場させるための最愛のうちの子、「鈴音芽愛」が生まれました。

彼女が生まれたことで一時創作が始まったと言っても過言ではありません。

記念すべき日なのでいきなり更新します

 十分、十五分ほどした頃だろうか。

 雷豪は住宅街の真ん中で停車したところでニュートラルに入れ、ハンドサインで俺に降りるよう促した。かっこつけないで喋れよ。

 指示通り俺が降りてヘルメットと上着を返すと、雷豪はバイクをガレージの中へ進めていく。ということはその隣が目的地なのだろうが……そこにあるのは何の変哲もないごく普通の一軒家だ。こんななりで実はアトランティスの隠れ家ですというのも面白くはあるけれど。


 陸屋根の庭付き二階建て、敷地面積もまあまあある。雪国出身者からすると屋根の雪下ろしには苦労しそうだが、ここは千葉なので無問題。サラリーマンの憧れる夢のマイホームだ。当然、もう早朝とも呼べる午前四時ともなれば中の電気はついていない。


「なーに人の家じろじろ見てんの。面白いとこなんてないよ」


 いつの間にか玄関先に移動していた雷豪は、お菓子の詰まったレジ袋を持ち、もう片方の手で俺を手招きしていた。

 彼の言った通り、ここは雷豪の家。ご両親がそれなりの職に就いているのかそれとも彼自身の収入のおかげか、何にせよ立派な一戸建てだ。俺は彼の後に続きながら中へ入ると、暖かい電球色の灯るダイニングへと通された。


「コーヒーでも飲む? 紅茶の方がいい?」

「いえ、基本どっちも苦手なんで大丈夫です」

「そうだったっけ。んー、ココアにしとくか」


 俺が食卓につくなりウェイトレスのように注文を取った雷豪は、キッチンに引っ込んで棚からココアの粉末と、冷蔵庫からは牛乳を取り出した。ココアはやっぱり森永。

 にしても、このやりとりには既視感がある。具体的に言えばゴールデンウィーク、もっと言えば最初に未來の家に招かれた時だったか。

 今、ミルクココアの準備をしている彼に追われて憔悴していたあの時と比べれば、まだ心にゆとりがある。昨日の敵は今日の友、チャラチャラしてはいるものの実力だけは確かな雷豪は、味方となれば力強い存在だった。


 少し待った後、彼は湯気の立つマグカップを俺と自分の席の前にそれぞれ置き、よっこらせと腰掛けた。溶け切っていないココアの粉末をティースプーンでかき混ぜながら、彼はようやく話を切り出す。


「話さなきゃいけないことがふたつあるんだよね。和希君が今、どうしてそんな姿になっているのか。それを説明するためには、まず前の話の続きからする必要があるのよ」

「前の話?」

「覚えてる? 支部の食堂で話そうと思ってたんだけど、ヤーさんたちの乱入で有耶無耶になったやつ」


 確かに、そんな話もあったっけ。あったような気がする。あったんじゃないかな。

 必死に記憶を探ってみると、中断していた話の断片が、微かに脳裏に蘇ってくる。


「超能力適性の話、ですか」

「そう、それ。よく覚えてたね。内容は?」

「超能力適性は大きく二種類あって、そのひとつは超能力に目覚める可能性を指す……みたいな」

「正解。何、暗記科目苦手って嘘じゃん」


 何この人、家庭教師? 褒めて伸ばす方針が得意な先生か? まだ一週間しか経っていないし、その出来事に関する記憶があまりに強烈すぎるから連想的に思い出せただけなんだけど。あ、もしかしてこれが正しい記憶法……? やっぱりこの人先生かもしれない。


「でも、その先は覚えていません」

「そりゃ言ってないからね。今から話すのはその続きだよ」


 超能力適性のひとつめを示すように、雷豪は右手の人差し指を立てて小さく振る。こういうボディランゲージには大した意味もないのに、不思議と目がそちらを見てしまうのが人体の不思議なところである。


「で、問題なのは超能力適性のふたつめ。これなんだけど――」


 雷豪が更に中指を立ててピースの形を作った時――右方向から、ぼふっと何か柔らかいものが床に落ちたような音が聞こえた。

 その方向にあるのはリビングと、もう少し手前に二階へ続く階段だ。リビングに人影はなかったからそれは二階から降りてきたことになるだろうが、一体誰かと思えば――、


「兄さんが、ついに、誘拐を……」

「おい待て静。早まるな」

「いつかやるとは思ってました、でもこんなに早くお別れが訪れるなんて……っ」

「落ち着け、とりあえずそのスマホ仕舞おう? 今しがた警察と話してきたばっかなんだよ、もう一回会いたくねぇよ」

「警察もグルなの……? 信じらんない、極悪非道……っ!」

「違ぇよ! ちょっと、和希君も見てないで何か言ってくれよ」


 ゆったりしたパジャマ姿の白峰から画面に110と表示されているスマホを取り上げながら、雷豪は俺に助けを求めてきた。白峰には雷豪が小さい女の子を誘拐してきたように見えたようだが……まあ、事情を知らなければそう疑うしかないなこれ。彼女の腕から滑り落ちたらしいウサちゃんぬいぐるみのつぶらな瞳も心做しか悲しげだ。


 雷豪と白峰は苗字こそ違うものの兄妹だ。であれば同居していても何ら不思議ではないのだが、何しろあまり似ているといった印象がないものだから失念していた。寝惚けているのかテンションもおかしいし、一階の物音で目を覚ましたとかそんなところだろう。これが素面な妹とか嫌すぎる。

 ともかく、俺も白峰を宥めようとするものの……この姿だと信じてもらえる要素が何ひとつない。


「白峰、落ち着け。俺だよ」

「俺……?」


 かける言葉に迷ってようやく声を絞り出すと、白峰はぴくりと動きを止めた。よかった、意外と察しのいい奴なのかもしれない。そうだよ、母さん、俺だって俺。


「俺……俺っ娘女児は確かに可愛いし好きかと言われればかなり好きですけど、そのまま中学校に上がったらと思うと過去の私を思い出して死にたくなるのでやめてもらえますか。でも可愛い! お名前はー?」


 情緒不安定すぎてダメだった。どうして白峰の性癖と黒歴史を同時に暴露されなきゃならないの。こいつ俺っ娘だったのかよ。確かに中学時代、アニメに影響を受けて一人称が俺になった同級生の女子いたわ。

 いや、気を確かに。これは俺の選択肢のミスが招いた結果だ。BAD COMMUNICATION――。

 好みの俺っ娘としてしか認識していない白峰は椅子に座る俺の首元に手を回すようにして抱きついてきたが、柔らかいしいい匂いするしで大変居心地が悪い。

 俺はこんな状態からでも(正規ルートに)入れる保険(救済用選択肢)はあるんですか!? と考え――ポーチから財布を取り出し、その中のスーパーのポイントカードを抜き取ると、裏面を彼女に向かって見せた。


「離せって……俺だ、米石和希。ちょっと訳あってこんな姿になってる」


 その訳はまだわからないのだけれども。

 身分証明書の類は置いてきてしまったので信憑性に欠けるかもしれないが、効き目は十分あったようで、白峰は裏面に書かれた名前を見て目をぱちくりさせていた。


「……え? マジですか?」

「大マジ。これからこうなった理由をお前の兄さんから聞こうとしてたところ」

「先輩が? 幼女に? これは夢?」

「夢だったらよかったのにな」


 呆れと諦めを前面に出して低い声で呟いたつもりでも、発されるのは女の子の幼くもクール系のいい声なのでどうも気が狂う。

 それを聞いた白峰はすすすっと俺の元を離れ、ついでに床のウサちゃんぬいぐるみを拾い、何やら考える素振りを始めた。今度は何だと彼女を見やっていると、その視界の端、食卓テーブルの上にみっつめのマグカップが置かれる。


「丁度いい。静にも話すか、和希君のこと」


 勿論、その正体は雷豪だ。

 しれっとミルクココアの準備なんてして笑っているが、気付けなかったということは気配を消す超能力を使ったということ。兄妹揃ってどうしてこんなどうでもいいワンシーンで能力を使いたがるのだろうか。

 放課後の図書室で同じ能力を行使していた白峰は、テーブルに置かれたピンク色のマグカップを一目見て、それから兄の方へ視線を戻しながら口を尖らせた。


「兄さん、正気? 今何時かわかってる?」

「正気だよ。俺も朝から晩まで仕事入っててさ、申し訳ないけど今くらいしか時間取れないんだわ」

「何それ、うち超ブラックじゃん……」

「そういうわけだから。ごめんね? 和希君も」


 雷豪が苦笑しながらどかっと椅子に腰を落とすと、白峰も渋々といった様子で俺と雷豪の間の椅子を引く。不服そうにウサちゃんぬいぐるみを抱いてはいるものの、話を聞く気にはなったようだ。


「そんじゃ、改めて続きを話すとしますかね。この話、もう二回中断するハメになってるんだからいい子にして聞いてくれよ」


 彼は軽く咳払いをしながら場を仕切り直す。

 白峰の方は超能力に関してある程度把握しているだろうに先程の会話のおさらいから始まったので、俺は相槌を打ちながら聞き流していた。

 時刻は午前四時を過ぎ、もう三十分もすれば日が昇るだろうという頃合いだ。

 あー、落ち着けるまであと何回こう向かい合って話し合いをしなきゃいけないんだろうな。俺たちの夜はまだまだ長くなりそうだ。……カラスの喧しい鳴き声が聞こえる、もう朝じゃん……。


「で、超能力適性のふたつめの意味だけど、これは静にも初めて話すね」


 おさらいを終えてようやく本題に戻ってくると、雷豪は人差し指と中指を立てて一呼吸置き、俺の瞳を見て続けた。


「俺たちもある人物の例で初めて見たからどう言い表すのが正しいのかわからないけど……『外部の超能力と調和する適性』、俺はそう解釈してる」


 外部の超能力と、調和する適性……?

 反芻してみてもその意味を理解できなかった俺は、疑問をそのまま言葉で返した。


「調和……って、どういうことです?」

「話によれば、誰かの超能力の影響を軽減したり、あるいはその超能力を一時的に真似たり……身体が勝手に、超能力という電波に周波数を合わせにいって適応するみたいなイメージかね。こればっかりはサンプルが少なすぎてな、正確性がなければ他にどういったことができるのかもわかっていない」

「……とりあえずまとめてざっくり『調和する適性』ってことですか」

「そうそう。どんな力なのかはっきりわかればかっこいい異名とか付けられるんだけどねぇ」


 だが雷豪の説明によれば、彼らとしてもまだ不明瞭な点の多い話らしい。眉根を寄せ、リアルタイムで考えをまとめながら話している様子の雷豪の表情は、嘘を言っているようには見えない。

 なら、どうして今、サンプルが少なく謎の多い適性の話を聞かされているのだろう。勉強も仕事も何でも、自分で噛み砕いて知識として吸収してから教えないと、かえって相手を混乱させてしまいかねないのに。


「兄さん、思ったんだけど。要するに超能力者と闘えば無効化もコピーもできるってことでしょ? その力がもう既にひとつの超能力なんじゃないの?」


 話の内容より話をした理由を考え始めた俺を差し置いて、白峰が小さく挙手しながら問うた。対する雷豪は、いい質問だとばかりに頷く。


「鋭いところを突くね。俺も最初はそう思ったよ。けど、超能力なんて不確定すぎる概念は学問的に整理される分野でもないし、それが超能力か否かなんて明確に決める人はいない。これは憶測なんだが……超能力者と関わらなければただの一般人ってことで、あくまでうちでは別の枠組みにされたのかもな」


 先程彼の述べた超能力と調和する適性というのは、超能力を使用する誰かがいて初めて効果を発揮する特性であって、無から能動的に超能力的なあれこれを発現させるものではない。

 それだけのことが超能力でない別のものとして考える理由になるというのは素直に飲み込めない。対超能力者戦特化超能力的な、もっとかっこいい種別にしてもよかったのでは……そう思ってしまうのは厨二病が抜け切っていないからだろうか? ともかく、こと超能力という分野においてはド素人の俺が口を挟めることではないので、この場は納得しておくしかない。

 

 一方、曖昧な回答に不満そうな白峰はうんうん唸っているが、俺は無視して雷豪に問う。俺が知りたいのは適性なのか超能力なのかという分別ではなく、わざわざサンプルの少ない特殊な力の話を持ち出してきた理由だ。


「どうして今、そんな珍しい適性の話を?」

「昔、その適性を持ってアトランティスに現れた女性がいるんだよ。彼女の名前が――」


 そう焦るなと言いたげに手元のマグカップからティースプーンを上げ、ココアの粉が残っていないことを確認してから。


「『米石クニヱ』。和希君のお祖母さんだ」


 彼は眉尻を下げ、一呼吸おいてから、苦々しく笑った。


「――そして、その適性は、彼女の孫である和希君にも受け継がれている」

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