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黒羽根導くその未来  作者: 霜山美月
第2話
22/24

深夜のバイクはお静かに

乗せてもらったことは一度しかないです

予約投稿忘れたので時間中途半端マン

 いっそ笑いたくなるほどにサイズの合っていないスニーカーでゆっくり慎重に歩くこと数分。

 一応目的のセブンイレブンには着いたものの、雷豪らしき人物や車の姿は見えない。

 まあまだ数分しか経っていないのだ、ここで待っていることにしよう。

 それにしても、五月の深夜はまだ肌寒い。こと薄手のワンピースしか着ていない俺にとっては、それほどでもない風でも直にダメージが入る。適当に上着を羽織ってくるべきだったか。あとワンピースのスカートがめっちゃスースーして落ち着かない……。


 女の子は身体を冷やすなというのはよく聞くので、今日から突然女の子になってしまった俺もその教えに倣ってコンビニの自動ドアを潜った。さすが俺、恐るべき対応力。

 勿論何も買わずに出ようとは思っていない。少し小腹が空いたような気もするから、雷豪へのお土産という名目でお菓子でも見繕っておこう。第一に王道の板チョコ、次にミニサイズのチョコチップクッキー詰め、そして一口サイズ個包装のチョコ袋。自他ともに認めるチョコ好き甘党どうも俺です。レジのお姉さんがちょっと不審そうに見ている気がするけど気にしない。


 学生特有の感覚なのかもしれないが、深夜のコンビニは些かテンションが上がる。その昂りに身を任せてぽいぽいとかごの中にチョコレート菓子を放り込み、満足したところでレジへ向かった。今の俺の懐は大変潤っているのだ、こういう時のために使う金なのかもしれない。

 やはり高く感じるレジのカウンターにかごを乗せ、暇そうにしていたお姉さんにバトンタッチ。


「レジ袋はご利用ですか?」

「お願いしま……ッ、す」

「……? かしこまりました」


 ……危ない、なんとか堪えられた。

 いや、さすがの俺も店のレジの受け答えで言葉に詰まるほどのコミュ障ではない。

 驚いたのだ。自分が喋ったはずなのに、幼い少女の声が耳に入ってくるのだから。

 家で独り言を零すこともなかったから意識の内になかったが、身体が女の子になっているのだから、声まで変わっているであろうことは言うまでもないのに。


 超能力の影響を受けてこの姿になってしまったのだから早いところ雷豪にどうにかしてもらおう程度にしか考えていなかったが、この身体に慣れるのには予想以上に時間がかかりそうだ。

 となれば早く雷豪と合流できないだろうかと商品の袋詰めを待っていると、近づいてきたエンジン音が、店の前で停止した。噂をすれば何とやら、だ。


 お姉さんに軽く頭を下げながらレジ袋を受け取り、ほくほく顔で自動ドアから外へ出た……のだが。


「君、何年生? お母さんは来てないの?」

「小学生が夜中に出歩いちゃ危ないよ。ほら、送ってあげるから来なさい」


 ……出迎えてくれたのは、ふたりの警官だった。ふと右を見れば、白黒ボディと赤いランプが個性的な、見紛うことなきパトロールカー。

 なんだか視線を感じるなとは思っていたけれど、あの店員、通報しやがったらしい。人生初の補導を小学生に見られる女の子の姿で迎えるなんてあっていいことではない。


 この場を逃れようと言い訳を連ねたいのも山々だが、生来嘘の苦手な俺に咄嗟の弁明は思いつかない。

 まだ小学生同然の姿だから大事にはならないとは思うが、これは雷豪に一報入れておきつつ、大人しく従った方が……、


「……あっ」

「……どうかした? 忘れ物かい?」


 ……まずいことを思い出した。

 何がどうなってこの身体になってしまったのかは皆目見当がつかないものの、この身体は大きな問題を抱えていた。

 スマホと財布をしまう際、ちらっと見えたのを見なかったふりしていたのだが、今このシチュエーションでそれを自覚せずにいるのはリスクが高い。

 この腰のポーチの中には、銃火器のマガジンらしきものが詰められていたのだ。それも、中にはしっかり銃弾が込められた状態で。


 それだけじゃない。今の俺には、両脚の太腿辺りにベルトのような圧迫感と、外向きの不自然な重力感がある。玄関で自分のスカートの両サイドをめくり上げながら触ってみると、その正体は黒色と銀色の二丁の拳銃だった。

 男子の憧れではあるものの、実銃だと見てわかってしまえば話は別。少し人差し指に力を込めるだけで人の命を奪える兵器を、一般人である俺が扱えるだろうか。答えは否。クリスのオフィスに出向いた時は、彼を明らかな未來の敵と見なしていたから一歩踏み出せたのだ。こんなもの、できることなら持ち歩きたくはない。

 それにしても、突然女の子になった時点でチートが効いているとはいえ初期装備があまりに豪華すぎる。もしかしたら課金勢の転売垢なのかもしれない。他人の手垢が付いた装備なのか。垢だけに。天才か?


 動揺しすぎて思わず現実逃避してしまった。ともかく、拳銃なんか所持していることをよりにもよって警察相手にバレてしまうと、間違いなくただでは済まないことくらい俺にだってわかる。銃刀法違反で逮捕、退学、投獄、懲役刑で家族を巻き込みながら人生終焉まっしぐらだ。いや、まずは少年院ルートだろうか? どちらにせよ、こんなクソゲーみたいな現実はあってはならない。

 

 この絶望的な場を切り抜けるための方法は何か。

 その答えが導き出されるより早く、警察官の片割れ――二十代後半くらいの優男、仮名・警察官Aは遠慮もなく詰め寄ってくる。


「ほら、早くお家に帰ろう。親御さんは……寝ているかもしれないけど、もしバレたら怒られちゃうよ」

「いや……大丈夫です、すぐ近くなので、一人で帰れます」

「そう思っている時ほど取り返しのつかないことが起きちゃうんだよ。心配しないで、今回は見逃してあげるし、お巡りさんも一緒に謝ってあげるから」

「そこは厳しく取り締まらないとダメでしょ……とにかく、本当に大丈夫ですから」


 彼は善意で言っているのだろうが、職質のノリで持ち物チェックでもされたら一発KOが確定している俺は、近寄られること自体が恐怖に直結する状態にある。

 レジ袋を後ろ手に、一歩詰められるごとに一歩後退り、などと不毛な言い合いをしていると、こちらは四十代に差し掛かろうという渋顔の警察官Bが、怪訝な面持ちで俺を睨んだ。


「……最近、学生の不良行為が増えていてね。飲酒、喫煙、深夜徘徊なんて珍しくない。そりゃ昔はもっと多かったかもしれんが……見つかれば一発停学、進路にも響くというのに今なお非行をやめない者が多い」

「あ、はい……」

「非行少年のやり口のひとつとして、力の差で逆らえない者を使いっ走りに行かせる行為がよく見られる。お嬢ちゃんは……そうではないのかい?」


 警察官Bが視線を移した先にあるのは、深夜テンションで爆買いしたお菓子が詰め込まれたレジ袋だ。

 なるほど、深夜に出歩くことを厭わない非行少年が、か弱い少女をパシリにしてお菓子を調達させる……考えられなくもない話だが、残念ながらこの少女の正体はたまたま真夜中に目を覚ました男子高校生である。見抜けなくて当然とはいえ、事実からかけ離れすぎているとかえってもどかしい。


「本当に……そういうのは何もないです。ただ……えー、寝付けなかったからおやつを買いに来ただけで」

「そうか。疚しいことをしていないのなら、家まで送っても問題ないね?」

「いや、家もすぐそこなんで……」

「どうしてそんなに拒むんだ? まさかとは思うが、見られたくないものでもあるのかい?」

「だからそうじゃなくて……!」


 口下手な俺がどう言い返したところで彼の態度は揺るがない。大体、今の俺は小学生ほどの女の子の姿なのだ、いくら吠えても子猫の威嚇にしかならないだろう。

 かと言ってこの嫌味なベテラン警官に従ってしまえば、本当に持ち物検査やら何やらされかねない。家まで送ってもらうだけで済むなら問題ないにせよ、彼の言葉が信じるに値するのか――断固として疑いの眼差しを返す俺を庇ったのは、意外にももう片方の若手警察官だった。


「先輩、もういいじゃないですか。警察官が小学生の女の子を泣かせたりしたらそれこそ事件ですよ。俺、せっかく警察官になれたのにそんなことしたくないです」

「俺は事実を述べたまでだよ。これまでそういう輩を何人も補導してきただろう、泣いたからと言ってあいつらを見逃したことがあったか?」

「その時は全部現行犯だったでしょう。でもこの子は何も疚しいことはしていないって言ってるんです。疑いすぎですよ。こんな小さい子が器用に嘘をつけるとも思えません」

「しかしだな……」

 

 あれ、なんか言い争いが始まったと思ったら有利に進んでいるっぽい……? こんな小さい子でも中身は男子高校生なんだけれども。見た目は子供! 頭脳は大人! スケボーの練習始めてみるか。

 良識のある大人が絡んでくると、想像以上に小学生女児ボディは便利に事を運べるらしい。できれば社会は成人男性にもこれくらい優しくしてくれ。

 ばつの悪そうな顔をする警察官Bを見る限り、彼もできれば大事にはしたくないのだろう。こうして客観視しているものの、俺が補導対象となる行動をとってしまったのは事実。警察官Aの説得を受けても、まだ責務を果たさねばという真面目さに天秤は傾いている模様だ。

 そんな彼は、反論の言葉を探すべく視線を逸らした先に何かを見つけたのか、そちらを顎で指し示した。


「この真夜中だというのに、着飾ったバイクなんかを乗り回す若者もいる。特に高校生は免許を取って浮かれるあまり羽目を外すこともあるだろう。近年は暴走族も減ってきているがいなくなったわけじゃない」

「はあ……どうして急に暴走族の話なんか」

「彼らのように、悪気のない、ちょっとした出来心だったとしても、条例に反することをしてしまえば警察が等しく補導すべきだ。小さい女の子だからといって特別扱いするわけにはいかないんだよ」

「あのバイクこっちに来てますね。カッケーな、俺もああいうの乗ってみたいな……」


 全く話を聞いていない風だった警察官Aの言葉に答えるように、彼らが指したバイクはスピードを落としながらコンビニの駐車場へ入ってきた。

 車やバイクに関しては無学なので車種も排気量も何もわからないが、ひとつ感じたこととしてはデザインの奇抜さだ。黒をベースとした車体の側面に黄色の大きな稲妻模様、加えてところどころ黄色のラインが入っていてそれはもう目立つこと。所有者の感性を否定するわけではないが、まあ、なんというか……うん。俺はいいと思うよ。俺はね。


 そう悠長に眺めていると、ヘッドライトがこちらへ向いた。三人揃って眩しさにそれぞれ別の方向を向き、そこらに駐車するだろうと待つこと数秒、光は更に強さを増してくる。

 やがて喧しいエンジン音は俺たちの真ん前で停止し、ヘッドライトが消える。その方向を見ると、黒のライダースジャケットにヘルメットという模範的な装いの男が、バイクを降りて俺たちと向き合っていた。


「……何だ? 何か用かね?」

「あー、夜分遅くまでご苦労様っす。ちょっとお話があるんですけど……歓迎はされてなさそうっすね?」

「失礼。本官に何か御用でしょうか?」

「その子、うちのツレでね。放してもらってもいい?」


 ヘルメットの中から現れたのは、約一週間ぶりに見た顔。

 トゲトゲに固められた金髪と十字架のピアス、チャラチャラした雰囲気の奥から覗く茶色の瞳。

 口調は軽口を叩いているかのようにフランクなのに、眼差しだけは冗談を言っているような雰囲気を感じさせない。


 ――雷豪恭介。

 俺が待ち合わせていた、アトランティスの構成員だった。


「やっぱりその口か。疑って正解だったよ。警察を舐めているのか?」

「そうカッカしなさんなって、最悪自分の立場が危うくなりますよ。ほら、これ見てもらえればわかります?」


 警戒心剥き出しの警察官に対して、雷豪はスーツの内ポケットの中から手帳のようなものを取り出して見せた。警察官らの肩越しでは何が書いてあるのか見えないが――それを目にした彼は、言葉を詰まらせながら態度を急変させる。


「……っ、大変失礼いたしました。そのような方と存ぜず」

「いえいえ、わかってもらえれば大丈夫っす。じゃ、この子もらっていきますね?」

「え、ええ。私どもはここで失礼させていただきます」

「え? え? 何すか、先輩、どうしたんですか? 暴走族の補導は?」

「静かにしろ。行くぞ」


 警察官Bは状況を飲み込めていないらしい警察官Aの腕を引っ張っていき、ふたりしてパトロールカーに乗り込むなり颯爽と去っていってしまった。

 俺が手間取っていたのが馬鹿らしくなるくらいに、雷豪は容易く警察官を退けて見せたのだ。その鍵である手帳が内ポケットで仕舞われていくのを目で追っていると、雷豪はバイクに手を着いて笑った。


「ちょっとアトランティスの構成員だって教えてやっただけよ。若手の方は知らなかったみたいだけど、警察の上層部には腫れ物扱いされてるからね。得体の知れないやべー集団だって」

「ああ、なるほど……」


 それで納得がいってしまうのは、彼自身も白峰と同じ、自分の気配を消して他人に認知させなくする摩訶不思議なやべー超能力者だからだ。こういうのが当たり前に存在しているような組織の人間といざこざを起こすのは、警察官としても御免だろう。個人情報保護法なんてあってないようなものであるかのように身内まで調べ尽くしてくる連中だ、何をしでかされるかわかったものじゃない。


「にしても、よく俺だとわかりましたね。どこからどう見ても別人なのに」

「それね。その顔にその姿、元々知ってる人のものでさ。ま、詳しくは後で話すよ。とりあえず、これから風切るからこれ着な。あと荷物はこっち」


 なんだろう、実在する人間の姿に変身させるタイプの超能力だったということか……? そういったニュアンスを感じさせるものの、やはり雷豪の知り合いの姿にさせられた理由までは結びつかない。いつこの力の影響を受けたのかすらわからないから推測しようがないんだよな……。


 ともかく、俺は言われた通りに雷豪から受け取った厚手の上着を羽織り、それと入れ替わりでリアボックスにレジ袋を詰めた。最後に借りたヘルメットを被り、エンジンをかけた雷豪に続いて車体に跨る。


「っていうか、車出すって言いながらバイクですか……」

「かっこいいっしょ。乗るのは初めて?」

「ええ、まあ……」

「じゃ、乗ったらしっかりここ掴まっててな。足の位置はここね」


 あっ、二人乗りって運転者の腰に抱きつくものだと思っていたけどちゃんと掴まる場所あるのね。今日もひとつ学びを得た。同時に妙な安心感も得た。

 俺が指示通り姿勢を正したのを合図に、彼は車体を発進させた。徐行しながら駐車場を出ると、車通りのほぼない深夜の車道で加速する。

 上着とヘルメットのおかげで上半身への風は遮られているものの、バタつくワンピースのスカートから見え隠れする足が冷たい。そもそもこの服装大丈夫なの? 挟まったら危なくない?


 ほどなくして赤信号に引っかかり、少し力が抜けたところで俺はあるべき疑問を抱く。

 以前、俺がアトランティスの東京第三支部とやらに連行された時は、同乗者の未來やクリスらと一緒に目隠しをされていた。それは機密の地下施設の位置を部外者に知られないようにするためで、俺がそこを出る時ですら同じようにして自宅の近くまで送ってもらっていたものだ。

 しかし、今はそうではない。雷豪が絡むのだからてっきりまたお世話になるのかと思いきや、実際はそうでないらしい。


「……今、どこに向かってるんですか?」

「ん? 着いてからのお楽しみよ」

「いや、遊びに行くわけでもないでしょうに……」


 ヘルメットの中ではため息も息苦しく感じる。

 信号が青に変わるとともに再発進するバイクから振り落とされないよう掴まりながら、俺は次々と過ぎ去っていく街頭の行列を横目で眺めていた。

ちなみに私は深夜のコンビニのイートインスペースで友人と遊戯王やっていて、

条例の補導時間になったその瞬間に警察が突入してきたってことがあります

(よい子は出歩かないようにしましょう)

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