Persephone 前
お察しの通り、本作は1話12万字を4つ5つの大枠に分割することがある程度で1万字以内で区切れるような形では書いていない(場面転換してない限り全部続いているようなイメージ)ので、1回1万字以内で投稿しようとするとどうしても無理が生じます
なんで分けます(言い訳おわり)
高い天井に吊るされた照明は、背丈も服装もバラバラの数人の男女を温かく照らしている。
なのに、張り詰めた空気の中、背筋を伝う冷や汗が大変心地悪い。
向かい合う先には、三上と呼ばれた男を先頭にするスーツの男が八人ほど。頭数だけ見ればこちらの倍である上に、こっちの男子高校生と科学者は壁にもならない。単純戦力は四倍だ。
若頭気取りなのか前に立つ三上は、両手をふらふらと揺らしながら歪な笑みを浮かべている。服装だけならひとりだけサングラスやグローブを身につけていない点で一際目立っており、リーダー格として捉えられなくもないが、それ以前に俺たちは彼と雷豪が会話していたところを見ている。雷豪の同僚であるのは疑いようもない事実だ。
あり得る線としてはスパイだったくらいしか思い浮かばない。何しろ対テロリスト国際連合『Atlantis』の情報科だ、情報欲しさに身分を偽って在籍することさえできれば、あとは得たものをヤクザに横流しするなり外部へ高く売りつけるなりすればいい。国家についている組織にそんな嘘が罷り通るとは思えないけれど。
三上の斜め後ろから、秦野の手下である大柄の男が進み出た。身長は目測でも優に一八〇センチを超えている。一九〇、いや、もしかすれば二メートルにも届きそうな巨漢が、ポキポキと指を鳴らしながらエアストただひとりを見据えていた。
「親父が大変お怒りだ。弱者に差し伸べた手を振り払われ、自分の正義の在り方まで踏み躙られたんだからな。挙句の果てには、約束していた少年の身柄を敵に引き渡すと来た。勿論、無事に済むとは思ってないだろうなァ?」
指が鳴らなくなると今度は首を左右にゴキゴキと鳴らしつつ、彼は歩みを止めることなく近づいてくる。
エアストは過去の自分を痛めつけた科学者の情報を求め、俺の身柄を対価に秦野へ協力を持ちかけた。そしてその報酬がすぐに支払われないことを察すると即座に約束を破棄し、最初から協力する気はなかったなどと吐き捨てて逃げてきたのだった。
交渉が失敗したところで銃を取り出す秦野も秦野だが、これほどにまで事態が悪化してしまうと呆れてばかりもいられない。
殺気を受け取ったエアストは静かに左足を前に出して身を傾け、握り拳を作った右手を引いて大男を睨み返した。
「女のガキだからって容赦しねェぞ。自分の仕出かした罪の重さ、その身でしっかりと受け止めんかァ!!」
しゃがれた叫びと共に地を蹴り、彼は拳を振りかぶった。その軌道を読んだエアストはいとも容易く回避し、その胸元に視線を落とす。四〇センチ近くの身長差に筋骨隆々とした肉体だ、女子のパンチ一発如きでダメージを与えられるようには思えない。
しかし、エアストは臆することなく脇を締め、その一点を目掛けて――右肩で自らの体躯を打ち込んだ。
「ぐ……ッ!?」
撃力とは速さと重さの掛け算だ。ただ殴って倒せそうにないなら、数十キロの肉体を全力でぶつけるまで。
エアストはそれだけに留まらず、よろけた大男の胸倉を掴むと、足を掛けて床に叩き伏せた。僅か数秒でノックアウトが決まった華麗な一連の動作を目の前にして、その場の誰も言葉を発せずにいる。
「私を倒しに来たんだろう? 本気ならまとめてかかって来い」
大男の方にはもう見向きもせずに、彼女は冷たく言い放つ。それを合図に、残った男たちも次々と飛び出した。
「かかれ! 相手はひとりだッ!」
「調子に乗るんじゃねェぞ女ァ!!」
一人目の走り込みながらの大振りのフックも、横から角度をつけて飛びかかる二人目のアッパーも、すべてをエアストは最低限の動きで躱し切る。惜しい、あと少し軌道をずらせばと相手に次の希望を抱かせたところで、一発ずつ丁寧にカウンターを打ち込んでいく。
有り余っている食堂の椅子を持ち上げて振り回す男でさえも、振りかぶった際に大きく生まれた隙を利用して背中から蹴り飛ばされた上に、手から離れた椅子の投擲を受けて沈んでしまった。
あたかもアクションゲームをリアルに映し出しているかのように軽々と動き回るエアストを見て、俺は感嘆の吐息を漏らすほかなかった。
しかし、集団戦で油断している暇などなく、彼女の死角から飛び込む影がひとつ。
「――もらったァ!」
集団戦のメリットといえば、注意を分散できること。誰かがヘイトを買って他の誰かが裏から叩く、これを繰り返すだけで戦況を有利に持ち込めるのはゲームでも現実でもきっと変わらない。
彼も最初から狙っていたことが成功したとこの時ばかりは思い込んだだろうが――一方で重要なことに気付いてはいなかっただろう。
エアストの隣にいたはずの青年が、気配諸共いつの間にか消えていたことを。
「……あッ…….!?」
それは先程からそこにいたかのように、獲物を捕らえる毒蛇の如く音もなく現れて背後から締め上げると、膝を何発か入れてから床へ蹴り伏せた。
「俺は情報専門なんだけどな。悪者退治は静に任せてやりたいよ」
雷豪は頭を掻きながら男を一瞥し、余裕そうにしながら文句を垂れる。一瞬のうちに背後で起こった出来事には特に驚く様子もなく、エアストは彼を横目で見ながら鼻を鳴らした。
「つくづく便利な能力だな」
「ときとばよ、ときとば。俺でも喧嘩が強くなれるのはいいけどやり方は卑怯だしな」
そう言ってふたりの視線は再度三上へと戻る。ものの数分としないうちに、彼の後ろにいたはずの黒服たちは、全員エアストと雷豪の周りで伸びていた。
ここまで来れば二対一、それもこの人数を一瞬で蹴散らした喧嘩のプロと卑怯な超能力のペアだ、勝率はぐんと上がっていたと見てもいいだろう。とはいえ、雷豪の同僚である以上、彼を即座に組み伏せるわけにもいかない。まずはリーダーたる雷豪が一歩前へ出て、彼に真剣な眼差しを向けた。
「説明してくれ、三上。お前、何をした? こいつらはお前が連れて来たんだろ? それに、上層部は何してる?」
何が面白いのか、三上は気味の悪い笑顔を崩さない。この絶望的な戦況で笑っていられるなどよっぽどのドMだとしか言いようがないが、その余裕は一体何によって保たれているのだろうか。
あのスーツジャケットの内ポケットの中にでもとんでもないものを隠していたりするのか。そうしたとして、この二人を突破できるようなものなんてあるのだろうか。
それ以前に、三上は雷豪の取り巻きのひとり、つまり下っ端だ。それでいてリーダーの雷豪を上回る戦闘力を持っているとは考えにくい。いや、それもスパイとして潜り込むために爪を隠していたのか。
「……雷豪さん、部下からの信用そんなにないんですか」
「馬鹿言うなって。俺めちゃくちゃいい先輩だよ。先日だって飯おごってやったばっかだ。あいつの様子がおかしいのは和希君だって見てわかるでしょ」
「……でしょうね」
「三上はいつでも愛想良くてハキハキしてて、よくできた新社会人の模範みたいな奴だ。けど、今のあいつは……何というか、何かに乗っ取られでもしているような――」
言い終える前だった。
ガタガタと何かがぶつかり合う音がする。揺れは感じないものの、関東ではよく起きる地震を思い出させるような音だ。
三上が発生源を手にしている様子はない。別の何者かが故意的に音を立てているわけでもない。
なら、その音は誰が、一体どこから。
それがふと止み、はっと息を呑んで振り返った時。
テーブル上に置いていたはずの陶器の取り分け皿のひとつが、空気を切り裂きながら彼の後頭部に激突した。
「が……ッ!?」
それだけに留まらず、次は視界内の椅子が独りでに揺れ動いたかと思うと、バランスを崩した雷豪目掛けて突進する。床に叩きつけられた彼の背には、おまけのつもりかさほど重量もない残りの皿が降り注がれ、当たらずに床に落ちたものは次々と乾いた音を立てて割れていった。
一瞬のうちの出来事に、理解が及ばず思考が停止する。
今、俺は何を目にしたんだ。
皿が、椅子が、長机が、誰にも触られていないのに勝手に宙を舞い、そして雷豪の体勢を崩した。たった今起きた意味のわからない現象を振り返っている間にも、彼の動きを封じようとでもしているかのように、更に複数の椅子と長机が彼の背に積み重なっていた。
信じられるはずもない。しかし物事は捉えようで、例えば今やられた雷豪は超能力者だ。
これが意味する異能とは、つまり。
「念動力……超能力者……!?」
「いや……三上はこの手の超能力者なんかじゃない……!」
咄嗟に出た答えを、見えない力で床に押し潰されている彼は否定する。
黒服がエアストに対して振り回せたくらいのサイズと重さの椅子だ、彼がそれをどけることなど造作もないはずなのに……それをしようとしない。
いや、できないんだ。あの腕の筋肉は、床から掌を突き放そうと強張らせているはずなのに。
「雷豪!!」
「クソ……金縛りか!? 今の念動力といい何なんだよ! 三上じゃない、何モンだ!!」
エアストが彼の上の椅子を取り除こうとするものの、抵抗する力が働いているのかびくともしない。
その様子を見て嘲笑うかのように、三上――いや、三上だと思われていた人物は、
「念動力というのも、いい響きですが……ポルターガイスト……私はそう呼んでいます」
やっと口を開いたかと思えば、普段聞き慣れない横文字が紡がれる。
それは、作り物感満載のホラー番組なんかでたまに耳にする単語だ。勝手に物が動いたとか、誰もいないはずなのに音が聞こえたとか、説明のつかない現象を幽霊の仕業とする――早い話が、心霊現象そのものを指す単語。
何が言いたいんだ、自分は幽霊だとでも馬鹿げたことを抜かすのか。超能力者だけでお腹いっぱいなのに、次は幽霊だなんて――、そう苦情を申し上げるよりも先に。
三上は重心を背中側に傾けると、意識の糸がぷつりと切れたように、その場に倒れた。
こちらの動きが封じられたかと思えば気絶?
そう判断するのも早計だということくらいわかっている。ただ、どうしてもこの展開についていけないだけなかった。
次の瞬間には、三上が立っていたはずの場所に――、
今の今まで三上に『乗り移っていた』とでも主張しているかのように。
一昨日、あおぞら会館の大広間で見た、深緑色の髪の美少女が、微かな微笑みを湛えながら立っていた。
「どうも……改めましてこんにちは、米石和希さん、エアストさん……♪」
たった今、開けっ放しの扉から入ってきたわけではない。雷豪や白峰のように気配を消していたわけでもない。
何故なら、その瞬間はこの目でしっかりと捕らえたから。
未知の現象については相応しい表現も思いつかないが、彼女は、間違いなく三上の内部から姿を現したらしかった。
直前に野郎をひとり行動不能に追い込んだことには目も向けずに、彼女は俺とエアストを交互に見ながら挨拶の言葉を述べる。
腰の位置より長い、ポニーテールに結い上げられた深緑色の髪。眠くもないだろうに半目気味の黄銅色の瞳。白を基調に青や黄色のワンポイントが入った白のシャツを着こなし、下は同色で大きくスリットの入ったロングスカートという一風変わったお洒落をしている彼女は、語尾に音符でも付いていそうなご機嫌な様子で、ブーツを鳴らしながら距離を詰め始めた。
「……あの場にいたということは、お前も秦野の手下か」
「……ルア、です」
「何……?」
「ルア、と、お呼びください……♪」
エアストの視線に臆することなく、お行儀よくスカートを摘みながらぺこりと一礼する。
妙に演技臭い挙動には文句のひとつも言いたくなるはずだが、無駄にいいスタイルとよく噛み合っているおかげで思わず目を奪われてしまう。ブーツの底を差し引いても身長はエアストより僅かに高く、何より決定的な違いは――女性の象徴たるバストの発育に恵まれているといった点だろうか。だからといって特に優劣をつけるつもりはないが、ともかく彼女の容姿が優れていることに間違いはなかった。
「お前は話が通じる相手だと思っていいのか?」
「……だとしたら、何か?」
「お前らに和希を渡すつもりはない。今日は帰って、組長にそう伝えろ」
不意打ちで雷豪をポルターガイストやら金縛りやらで捩じ伏せたルアと名乗る幽霊少女は、望み薄の説得を受けてわざとらしく考える素振りをする。そして短時間で結論を導き出したと言うよりはきっと最初から答えを決めていたのであろうが、スローテンポな口調ではっきりと返した。
「……却下します」
「だろうな。一応訊いただけだ」
「帰るつもりは、ありませんが……米石和希さんの身柄の方は、どうだっていいです」
「……何? 秦野の目的は和希なんだろう?」
「私は……確かにこの男の身体を借りて、彼の記憶を頼りに……あの男の思惑に沿うように若衆を連れて、ここへ来ました」
秦野の手下が、俺の身柄はどうだっていいとはどういうことだ。今の口ぶりからすると、親分ではある秦野を軽視しているようにも見て取れるが、そこらの若衆とは事情が違うのか。
さらっと『身体を借りる』だとか『記憶を頼りに』だとか超能力に関連するであろうとんでもない言葉が聞こえたような気がしたが、今考え始めると終着点が見えなくなってしまいそうなので一旦触れないでおくことにして。
彼女は床に転がる黒服の残骸を一瞥して、それからエアストの方へ向き直った。
「でも……それは彼に会うため、です。捕らえるためでは……ありません」
「……なら、これで満足か?」
「……いえ」
彼女が否定すると同時に――余っている椅子やら床に散らばる皿の鋭い破片やらが、彼女を取り囲むように宙に浮いた。
それらを操るような仕草はしていないし、わざわざ目を向けてもいないけれど、この非現実的な現象を起こせる人物は他にいない。
ポルターガイスト……幽霊少女ルアの超能力だ。
どうしてこのタイミングで、なんて考えるまでもない。
これは、彼女らしい宣戦布告の合図にほかならないのだから。
「私は米石和希さんに……興味があります」
「……!」
「そこ……どいてください」
曇りのない可愛らしい微笑みに、答えを待つ意思はない。
触れることなく正面へ飛んだ椅子の足を、エアストは後ろに下がりながら両手でそっと掴み取り――次いで襲いかかるいくつもの皿の破片を、椅子の背もたれを盾にして防いだ。
弾かれて落ちるものもあれば木目の上に突き立つものもある鋭い欠片が、もし薄い衣服の上から当たっていたらと思うと身震いがする。
しかし、ルアの視線が射止める先はエアストただりとり。雷豪は床に押さえつけられ、俺とクリスは手出しもできない。今日の昼過ぎに傷痕を思い出していたはかりなのに、再び彼女ひとりに苦しい超能力者とのタイマンを強いてしまっていることに苛立つ。それでも、この拳があいつに辿り着かないという予想も容易い以上、かえってエアストの迷惑になる動きをする気にもなれなかった。
「……エアスト。相手はこれまた相当な超能力者だ。ここはひとつ年齢の近い淑女同士の話し合いで、平和的に解決とはいかないかい?」
「……それで快く聞き入れてくれるような相手が、組織の人間を乗っ取ってアジトにまで乗り込んで来ると思うか?」
「ま、そうだよね。これはまずいことになったな」
「呑気に言ってる場合じゃないでしょ……! クリス博士、何かないんですか、超能力者に勝つ方法とか」
「彼女の超能力は僕も初めてお目にかかる。ごく僅かな資料から仕入れた知識で超能力を知った気になっていた自分が恥ずかしくなるよ」
声色だけでは余裕ぶっているようにも聞こえるが、首筋には冷や汗が伝っている。この状況に焦りを感じているのは彼も同じだと気付いて、喉まで出かかった悪態を飲み込んだ。
こんな時に、組織の上層部は何をやっているんだ。
あの緑髪の少女ひとりだけなら可能性はある。彼女が文字通り三上の中から現れたのはこの場の全員が目撃しているから、幽霊の如く他人に憑依する超能力を持ち合わせているのは想像に容易い。
それに、先程の言い草によれば憑依した人間の記憶まで盗み見られるというのだ、これほどお近づきになりたくないと思える人間も珍しいが、ともかく帰宅途中の三上を襲撃して肉体と所持品を奪うことさえできれば、ここまで突破してくることまではまだ考えられるだろう。
しかし、ヤクザのおまけを付けてくるとなると怪しいどころの騒ぎではない。完璧に三上を演じられたとしても、果たしてこの部外者である黒服集団を招くことが許可されるだろうか? 仮にそれが通ったとしても、今この騒ぎが見えているなら誰かしらは駆けつけるはずだ。確かにこの施設は無駄に広大で、移動に時間を取られるのかもしれないが……たまたま増援が遅れているのか、それも俺たちにはわからない。
ふと静かになった厨房の方を見やる。彼らはさすがに非戦闘員なのか姿を現さなくなったが、上層部への連絡くらいはしてくれているはずだ。
「ここの組織の人間を待つつもりでしたら……無駄ですよ」
「……何言ってんの。確かに今日は人少ないけど、この状況見て上が放っておくと思うか?」
すると、さすがに憑依していない相手の思考まで読み取るエスパーだとは思いたくないが……彼女が先読みするかのように忠告する。それに対して雷豪が天井に設置されたドーム型の監視カメラを見やりながら反論すると、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。
「ここに来る前に、組織員のミスを装って監視システムと通信システム、あとはこの部屋に繋がる経路のセキュリティシステムを落としてきました。……復旧には、まだかかるはずです」
「は?」
「偉そうな人を捕まえて記憶を見れば、重要な部屋を把握することくらい簡単ですから……しかしそれだけで彼らが侵入できたのは、まともな警備がいなかったからでしょうか」
「……だから第三支部にも人員よこせって言ったのに。第一第二ばっか贔屓しやがって……ッ」
今は周囲で伸びている役立たずの黒服たちを見回した後、ルアは再度こちらへ向き直る。
彼女の解説はあまりに要約されすぎていて、雷豪のぼやきに耳を傾ける余裕もなく思考処理がフリーズしそうになった。
よりわかりやすく噛み砕くとすると――まず、何を手がかりに見つけたのか三上を捕らえてここを特定し、セキュリティを突破して侵入。三上を一度置いて上層部の誰かに乗り移り、管理室かどこかは知らないがその場所へ。監視システムを利用して俺たちの居場所を突き止めると今度はそこの組織員に憑依してシステムをダウンさせ、自分はまた三上の肉体に戻って黒服たちと共に現れた――あくまで憶測に過ぎないが、そんなところだろうか。
想像のつかないスケールの話をされている気がして目眩がしてくる。
この僅か数秒の間に立てた仮説に矛盾や不審な点はいくらでも見当たるだろうが、これ以上に考察できるほど俺の頭はよくできたものじゃないし、それ以前に今考えている余裕はない。
果たしてその真相について問えば時間稼ぎになるだろうか。ただ、小賢しく侵入を果たしただけあって相手もその意図を先読みできたのか、次は長机を左右にふたつ浮かせ――緩やかな回転を加えながらこちらへ飛ばしてきた。
俺たちの前に立ちはだかるエアストは、恐れる様子もなくまずその一方に目を向ける。盾に使った椅子を逆向きに構えて飛びかかったかと思うと、滑らかなカーブを描く四本の猫足で長机を絡め取るようにして床に叩き落とし、素早くポルターガイストの効力を失ったらしいそれに持ち替えるや否や、華麗な回転投げでもう片方の長机を吹き飛ばした。
相変わらずあの細腕のどこからそれだけの力が生じるのかはさておき、激突の衝撃で表面の凹んだ長机を見送ると、今度はルアの方へ向かって低姿勢で飛び込む。
「お望みならくれてやる……ッ!」
向こうの表情が一瞬硬直したのが見て取れる。今目の当たりにした力を以てすればそれなりのダメージは必至だ。
エアストは最後の一歩を大きく踏み込むと、腹部目掛けて渾身の右ストレートを繰り出し――、
そして、空を切った。
「……!?」
その場にいた誰もが目を疑う。
今、確かにエアストは全力の拳を打ち込んだ、そのはずだ。
なのに、まるで反作用が一切生じていないかのように。空気抵抗以上の手応えもなく全体重を前方に放り出してしまったエアストは、ロンダートからバック転を切って体勢を戻しながら改めて敵の方に向き直った。その表情には驚愕の色が浮かんでいる。
目の前から消えたわけではない。終始俺の視界には収まっていた。
間一髪で躱したわけではない。むしろエアストの特攻を読み切れていなさそうな表情すら感じ取れた。
なら、信じたくはないがこう言い表すしかない。
――エアストの攻撃は、少女の身体をすり抜けていったのだと。
「……ご存知ないですか? 日本の幽霊は実体を持たないんですよ」
幽霊少女ルアは、半身を傾けながらエアストに向かって不敵に微笑む。
何度瞬きをしても非現実的な事実は変わらない。大柄の男たちさえ撃沈した拳を受けたというのに、彼女は何事もなかったかのようにけろりとしていた。
ルア【ネタバレ回避】
黒羽根仕様の別人と化してはいるものの、本作に登場する唯一のよその子。
本家は(@Jupika25)さん。
ウディタ製ボカロRPG『ニコニコ動画英雄傳.rpg』にてボカロ亜種として登場したオリキャラちゃんです。
http://eiyudenrpg.blog119.fc2.com/
https://www.nicovideo.jp/user/12590440/mylist/21285347
キャラ崩壊に関しては土下座するしかない
出会って勝手にMMDモデル化させていただいたりしてからもう8年経つんですね……あの頃から勝手にオリジナル小説に出そうとしてたのに今初めて投稿されるんすね……時の流れって恐ろしい
この頃はMMD動画も出てて可愛いのでぜひ(私は動画専門外なので作ってません)
黒羽根の前身がボカロ二次小説だった話はやめなさい




