脱出・・・
目の前は本当にただただ真っ暗闇・・・
真っ暗闇をひたすら走る。
でもやっぱりランタン持ってないし、多少セーブしながらになる。
木に近付けば何となく木が目の前にあるって分かるから、避けながら走る。
そうこうするうち、何となく目は慣れてはくるけど、やはり真っ暗闇でこの先どうなってるかさっぱり分からないから不安。
月明かりはほとんど届いてないと思う。何しろこの山は、何故か常に真っ黒な霧に覆われている。
あの犬の化け物はやっぱりまだ僕を追ってるんだろうか?
諦めて欲しい所だけど、そもそも何故僕を・・・
「あっ!」
ザーッと、足を滑らせてしまった。
バンッと両手のひらを地面に着いた。ちょうど出来そこないの後ろ受け身を取った感じだ。
「痛ぅ・・・」
両手のひらを擦りむいたけど、頭は打たなくて良かった・・・
あの怪物の気配を感じなくなってるからか、さっきに比べれば多少落ち着いて来て、痛みも感じるようになって来たのか・・・
でもやっぱり目の前は底無しの暗闇・・・
暗闇の恐怖が迫って来る。いつ怪物に追い付かれるかも分からない。生まれて初めてのフェンスの外・・・未知なる世界への恐れとか、全てひっくるめた恐怖の塊に僕は今押し潰されている。
でも僕は何故先を行こうとするのか?
やっぱり生への希望を持ってるのか?
つまらない将来しか待ってないって分かりきってるのに・・・
生への本能ってヤツなんだろうか?
ん?
何だかうっすら明るくなった?
風もあるだろうし、黒い霧が薄くなることもあるのかな?
・・・月?
満月っぽい。
だけど何か・・・
微妙に赤みがかってるというか、黒い霧にかかってることもあって、何とも不気味・・・
・・・何だか・・・何かの顔にも見えて来た。
!
何か鋭い目・・・
見覚えがある・・・
あの犬の化け物だ!
何か冷たいものが背筋を通った。
ゾワゾワッと顔の下から上へ冷気が・・・
髪が逆立ってる感覚。
冷や汗・・・
冷や汗ってあまり意識したことないというか、今まで冷や汗かいたことあるかどうか分からないけど、寒気が走ってるのに汗・・・これが冷や汗ってヤツ?
ん?
何だ、やっぱり普通の月・・・
あまりにも恐怖心がありすぎて、あの犬の化け物に見えてしまったのかな。
何であんな犬の化け物が村の中にいたんだろう?
そもそもこの村がフェンスに囲まれてる理由は・・・
──一切の動物を村の中に絶対入れないため。
だからあんな犬の化け物いるはずないのに。
鳥とか小動物が入ることは完全には防げない。でも見かけしだい、すぐさま猟銃で殺すことになってる。
そのためのガードマンみたいな人たちがパトロール(?)している。僕のことを監視してる人たちと似たような部所というか職業らしいけど。
その人たちにあの犬の化け物退治して欲しい所だけど、その人たちにはまだ発見されてないのか?
猪とか熊とかくらいの動物なら、完全に侵入を防げてるみたいだけど。
何故動物を入れてはいけないのか?
それは誰も知らない。
1000年くらい前から・・・
そんな遥か大昔から、動物を絶対入れてはいけないという掟があるらしい。
ということは、この村も、そんなに長く続いている、凄い歴史のある村だ。
村の名前も全く変わってないらしい。
村の名は・・・
──水力村。
動物を入れてはいけないという掟を破ったらどうなるのか?
それも誰も知らない。
僕が今までこの村の中で生きてきて、出会った人々──と言ってもそんなにいないけど──は、掟を破ることを極端に恐れる。
もちろんこの村を出ることも。
村を出たらどうなるのか?
掟を破ったらどうなるのか?
知らないはずなのに。
村を出たり掟を破れば、何か恐ろしいことが待っている・・・
恐怖の伝播じゃないけど、何故かそういう漠とした恐怖が代々伝わっている──。
そういう恐怖に支配されてる村。
それが黒雲とか黒い霧として具現化されてるんだろうか?
滑って倒れてから、ずっと寝転んだまま。
徐々に疲れも意識し始めて、何だか眠い気が・・・
このまま寝ちゃいたいけど、やっぱり寝たらまずいだろう。今はまだ春先で寒い。
でも徐々に・・・視界の上下が狭まって来て・・・ぼやけてくる・・・
「ウォーン!」
「!」
一気に目が覚めた!
まさか、あの犬の化け物・・・
危機察知本能が、勝手にガバッと僕の体を起こす。
どこだ!どこにいるんだ?あの怪物は。
迷ってる暇は無い。
ダッシュだ!
ガツーン!
「!?」
星が・・・回ってる?
ドサッって音が・・・
ガッツガッツガッツ・・・
何の音だ?
何か空気とか唾液とか、食べ物?を口の中に勢い良く入れてる音?
「!」
体中のあちこちが痛い・・・
何だか・・・血の臭い・・・
「ガルー・・・」
まさかこれは・・・あの犬の化け物・・・
体中のあちこちが、何か鋭い牙でグサグサ刺されてるようで痛い!
まさか・・・僕は食べられてるのか!?
意識が遠退いていく・・・
僕は死ぬのか・・