この先真っ暗闇・・・果たして待ち受けるものは・・・
ガシッという、何かが凄い勢いでフェンスにぶつかったかのような、とてつもなく大きな音がした。
と同時に、僕は腰でも抜かしたのかへたりこんでしまった。またさらに同時に、何か柔らかいものが僕の顔全体に覆い被さって来て、フェンスとの間に僕の顔が挟まれてしまった。
獣臭がする・・・
あの怪物の臭い?
グッ・・・
獣の毛の塊・・・?
に顔全体が圧迫されて、息が出来ない!
く、苦しい・・・
へたりこんだまま僕は手足をドタバタさせる。
このままだと・・・
窒息して死ぬ!
死の恐怖が襲ってくる!
うっ、ぷ・・・
怪物の体のどこか・・・わからないけど、叩く。
バンバン!
叩く、叩く、叩く!
足は地面をバタバタ蹴る!
当然怪物は微動だにせず、何の効果も無い。
意識が薄れて行く・・・
何でこの怪物は僕を噛み殺さず、こういう方法を選んだのか分からないけど、痛いのよりはマシだ、と思った方が良いのかな?
あぁ・・・僕の人生はこれで終わりか・・・
つまらない人生だった・・・
フェンスの外の世界を知ることもなく・・・
ん?
何だか微妙に暖かい?
火!
怪物の体のどこかが燃えてる・・・のか?
僕の顔を圧迫してたものが突然無くなった!
頭がぼーっとしてるけど、危機察知本能とでもいうのか、脳が逃げろ!と命令でもしてるかのごとく、体が勝手に動いた。
といっても手足が思い通りに動いてくれない。顔だけ動いた。手足を動かしたいのに、とにかく逃げたい!という思いだけが先走った感じ。
まるで競争の最中に転倒した競走馬だ。僕の四肢だけがびーんと伸びて、顔だけ投げだされたというか、横倒しになった。
ガツッとアゴを地面に打ち付けた。
緊張やら恐怖やら何やらでわけわかんなくなってるから、痛みは別に感じない。
視界に灯りが入る。
??
そのまま仰向けになると・・・
信じ難い光景。
あの巨大な犬のような怪物が空を飛んでいる!
しかもしっぽの先に火が付いている。
怪物自体巨大だから、しっぽに付いてる炎もでかくなってる。暗闇に灯された炎が巨大な怪物の全体像を露にし、何やら幻想的。
一瞬時が止まったかのよう。
僕は幻を見ているのか、死が近付いてありもしない光景見てるのか、それとももう死んでるのか・・・
普通の大人の身長よりはるかに大きい。足4本除いた腹の部分だけの長さでも、2メートルくらいだろうか?
腹の部分の色は白だけど、体全体、外側の部分は何色か分からない。
そういえば・・・
僕は手にランタンを持ってた・・・
怪物を叩いた時に、中のろうそくが出て来て、怪物の体に火が燃え移ったんだ!
ガツッとまたフェンスに何かが勢いよくぶつかった音。
怪物の4本の足がフェンスにぶつかった音だ。
どういうことだ?
手足の痺れがようやく取れてきて、倒れた体を起こす。
座った状態で怪物の体を見た・・・
そうか!
怪物は牙をギラつかせて、多分僕の顔目掛けて突っ込んで来たんだけど、それと同時に僕は腰を抜かしてしまった。それがちょうど怪物の攻撃を避ける形になったんだ。
そしてデカい牙が災いして、フェンスに引っかかって取れなくなった。座り込んだ僕の顔に、怪物の腹が覆い被さる形になったのか。
飛んでいるように見えたのは、しっぽに火が付いて、熱さに驚いて、跳び跳ねた感じかな?
だけどフェンスに引っかかった牙はどうしても取れなった。
でも牙が取れるのは時間の問題なんだろう。怪物は何とか牙を引き抜こうと、フェンスをガタガタ鳴らし、顔を引っ張る。
同時にしっぽを激しく振っている。火を消そうとしてるんだろう。実際火の勢いも弱まってる。
僕の体もだいぶ正常に戻って来た。
この隙に・・・逃げろ!
・・・でも結局あの家に戻っても、また怪物が襲ってくるだろう。この村のどこにいたって、いつかは怪物が襲ってくるんじゃ・・・
それなら・・・
フェンスの外へ目をやる。
まだ夜だから暗闇でどうなってるのか分からないし、全く未知の世界だ。
この村で生まれてからこのかた、僕はフェンスの外へは一歩も出たことは無いんだから。
どうせ僕のこの先の人生つまんないだろうし、今は命の危機だ。情状酌量の余地っていうか、外へ出ても許されるんじゃないだろうか。この村の掟とか、掟破ったらどうなるかとか全然知らないけど。
!
ガチャ!ガチャ!って、怪物がフェンスを食いちぎってる!
迷ってる暇は無い!
もう、どうにでもなれ!
僕はフェンスをよじ登った。
意外に簡単だ。確かにちょっと高いけど、別に鉄条網があるわけでもなければ、電流が走るわけでも無い。まぁこの村電気通ってないから電流はあり得ないけど。
フェンスの外に出ようと思えばいつでも出れる気がするけど、今まで逃げた人いなかったのかな?
逃げたら村の掟で何かあるんだろうか?
よっぽど村人は洗脳されてるか何かだろうか?
とにかく、フェンスのてっぺんに跨がった。
ガチャン!
!
とうとう怪物がフェンスを食いちぎった。
もう迷わなかった。
僕は勢いよくフェンスの外へ飛び降りた。
ガルー・・・
怪物は息を吐き、ジーっとフェンスの外の僕を睨み付ける。
ガルーッ!!
勢い良く怪物が飛び掛かる!
ガチッと、またもやフェンスにぶつかる。
この怪物、また同じ失敗。バカなのか?
いや、今度は頭からぶつかったから、牙は引っかからなかったみたい。
ガチャ、ガチャって、フェンスをよじ登ろうとしている。
逃げろ!
目の前は真っ暗闇。
何がどうなってるのかさっぱりわからない。
だけど足が勝手に動く動く。
これが世にいうランナーズ・ハイなんだろうか?
全く疲れないんだ。というか、寒さや緊張、恐怖やらで体全体が麻痺してる。でも足が勝手に動く。凄い速さ。
後ろに怪物は・・・
多分怪物の気配は無さそう。
逃げ切れたんだろうか?
でもこの先に何が待ってるかわからない。
一体何が・・・