魅惑の女性が去った後に襲って来たものは・・・
天井の木目模様が、なんだか恐ろしい妖怪の顔のように見える。
暗がりで辺りがあまりよく見えないこともあって・・・。
もう夜も更け、ただでさえ暗い村がさらに漆黒に染まる。
家の中に灯りを灯すのは、ろうそく用のランタンしかない。そのランタンの中のろうそくに火を付け、壁に掛ける所がいくつかあるので、それに掛ける。
幻想的で良いっちゃ良いけど、今の僕の精神は恐怖に侵されまくり、そんな風情を感じる余裕は無い。
敷き布団も掛け布団も、いわゆる煎餅布団ってヤツ。当然寝心地なんて全然良く無い。寝心地感じてる余裕も無いんだけど。
鷹山さんの言ったことは本当だったのか?人間は見たいものを見る・・・恐怖などの感情により、ありもしないものを見てしまう・・・。
近付いてよーく見てみたら、普通のお湯のお風呂だったんだ。
確かに鮮血のお風呂だったはずなのに・・・。
僕は風呂に入る前、恐怖どころか、ウキウキしてたんだけど・・・エロの意味で・・・あっいやそれはどうでも良いんだが、恐怖の感情に支配されてたから・・・ってわけでもなかったと思う。
もう怖いというか気味悪いというか、ワケわかんなくなってきて、布団に入ったけど、なかなか寝付けない。
わかった!
もしかしたら僕はエロとかサディスティックというか、そんなのがない交ぜになったヤツが好きとか?そんな性癖あるとは全然気付かなかったけど。
あーもう何が何だかよくわかんなくなって来たけど、明日学校なのか?
基本僕は外出禁止なんだけど、何故か学校に行くことは許可されてる。もちろん寄り道とかは厳禁らしいけど。
登下校の間もずっと見えない所から監視されているらしい。息が詰まるけど、慣れるもんなのかな?基本向こうはノータッチということだから、まぁこっちが普通にやってれば問題ない!と開き直れば良いのかな?
ドンドン!ドンドン!
びくっ!
本当に体がぶるって震えてかなりびびった。ぞわぞわという寒気がして、びびった余韻が残ってる──。
ノータッチのはず、と思ってるそばから外界から何らかのアクション・・・。
監視員の人か?
ドンドン!ドンドン!
ドアを叩いているというより・・・壁を叩いてる?
一体何だろう?
ドンドン!ドンドン!
激しさを増している・・・
ダメだ。気が変になる。
シーン・・・
あれ?収まった?
「フーッ。フーッ」
ん?
「ガルルル・・・」
あれ?何か・・・動物?
窓を見ると・・・
!!
何かの影!
これは・・・犬?
でもかなりデカイ!
恐怖に凍りついて、体が動かない。
ガッチャーン!
鷹山さんがテープとか板とか貼ってせっかく直したガラスがまた割れた!
デカい犬の化け物が飛びかかって入って来た!
「うわあぁぁぁあ!」
逃げろ!
僕はドアまで駆け、引き戸を開けて外へ出た。
その際、玄関に掛けてあったランタンを持って行く。外は真っ暗闇だ。灯りが必要。こんな時でも意外に冷静なもんだ。
暗い森の中へ走る。
足がおぼつかないけど、とにかくがむしゃらに、なるべく早く、前へ前へと足を運ぶ。木を避けながら。
こういう時って意外に集中できるものなのか、上手い具合に木を避けながら、自分でもびっくりするくらい素早く走れてる。
何とか逃げ切れるか?
というか、さっきの犬の化け物は僕を追いかけているのか?
ん?前方に何か・・・。
行き止まり?壁だ!
この村を囲ってる壁、フェンス。
僕は足を止めた。
「はぁ。はぁ」
息は荒く、緊張感で体全体が痛いというか、何か変な感じ。
「ガルルル・・・」
!
後ろを振り向くと、さっきの犬の化け物。
夢中でよく分かんなかったけど、やっぱり追いかけて来てたのか。
暗がりでよくは見えないけど、かなりデカくておっかない。いかにも化け物といった姿形のシルエット。
ダメだ。絶体絶命・・・
「ガルッ!!」
かなりデカい恐ろしいキバをぎらつかせ、あり得ないほど大きく開いた口が物凄い勢いで飛びかかって来た!
死!
そう頭によぎった。