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傷の商品

 あぁ……。


 そうだ。確か私は両親に何も言えていない。


 それは、ありがとうだったりごめんなさいだったり。


 両親がくれた温かさを、優しさを貰いっぱなしで。


 もういいか。 

 私に出来ることはあの記憶を、思い出を死ぬまで忘れることのないようにすること。


 その為には。


 その為には……。



 *



「おい。起きろ」


 そう言われて木にの板から起き上がる。

 その木の板は所々ささくれており、たまに肌に刺さることのある木の板。


 ここではこれをベットとして使われている。

 床は土で軽く湿っている。

 なので私たち奴隷が汚れないようにこうやってボロボロの木の板で眠らされる。

 

 隣の子は木の板で寝ることが嫌だったらしく、言いつけを破って土の上で寝たらしい。

 起きたら隣の子に土が髪に服に肌に付いていた記憶がある。

 

 そしてそのまま奴隷商人に連れられて痛々しい姿で帰ってきた。


 それ以来言いつけを破る、反抗する子達が減った。


「おい! 聞いているのか!」

 

 ビクッっと私の体が跳ね上がる。


 私は両手で自分の体を抱きながら、男に付いていく。


 あぁ……。今日も教育が始まるのか。


 怖い。痛いのは嫌だ。


 これからまた教育が始まる、という恐怖で全身を包み込まれた。


 あの思い出を恐怖で苛まれてこぼしてしまうのではないのか、忘れてしまうのではないかと私は思った。


 元々私は元気なだけであって気が強いわけではないのだ。


 だから、もう嫌だ。

 辛い。


 違う。こうじゃない。


 そうだ。忘れないようには。


 その為には。



 *



「おい。起きろ」


 私は木の板から起き上がる。

 

 あぁ……今日も教育が始まる。


 嫌だ。


 怖い。


 付いていきたくない。


 だって付いて行ってしまったらまた酷い思いをさせられる。


 嫌だ。


「おい!」


 男が大きな声を上げた。


 駄目だ。


 また恐怖で記憶を。


 違う。


 守る為には。


 忘れない為には。


 そして私は泣く泣く男に付いていく――。



 *



 それからいくつもの月日が経った。


「おい。起きろ」


 毎日見慣れた男が私を起こしに来る。


 そして木の板から起き上がり、付いていった。


 今日も教育を受けていく。

 

 教育者のいう事が出来なかったら鞭を打たれる。

 

 それは一度打たれたら赤くなる

 二度打たれたらヒリヒリする。

 三度打たれたら皮膚が浮き上がり、少し水が出る。

 そして四度打たれたら赤い水が飛ぶ。

 

 私は教育者のいう事を、無理難題を一部を除いて全て完璧に仕上げた。


 だから、鞭が飛んでくる。


 それは何度も何度も。


 全身に赤い線が、時間が進むごとにどんどん増えていく。


 そして今日はそのまま部屋に返された。

 

 私はその一つが出来なかった。


 教育者のいう事が分からなかった。


 そして教育者の言う事が分からないまま日々が進んでいった。

 

 私が教育者の出された事を完璧にこなし鞭が飛んでくる日々を過ごしていった。


 所がある日を境にそれは無くなった。

 教育をされなくなった。

 教育をされないという事はもちろん鞭も打たれなくなった。


 教育者いわく、「体の傷を癒せ」との事だ。


 私は傷が治ったら奴隷として商品になるのだそうだ。


 私は教育者の命令の通り傷を癒す事にした。

 具体的には分からなかったのでとりあえず一日中木の板で横になった。


 必要な時以外は全く動かなくて管理者から私は死んだのかと間違われた事もあった。


 そんな努力は報われなくて、胴体に付いた無数の細長い傷は治らなかった。

 それは今後残り続けるだろうと言われた。


 そしてそれを見た隣の子は可愛そうにと私を抱きしめてきた。


 私の今の命令は傷を治せだ。


 私の命令を邪魔してきた彼女を突き飛ばし、部屋に戻って木の板で横になった。


 次の日に男が私を呼びに来るまでずっとそこから動かなかった。


 そして私が商品になる日がやって来たらしい。


「おい。起きろ」


 私はいつもの男の合図を聞いて木の板から体を起こす。

 そしてそのまま男に付いていく。


「これに着替えろ」


 そう言われて渡されたのは白い服だ。


 体のラインがくっきり見えるその白い服を私は着る。

 そして脱いだ所々赤黒いシミが付いた服を手に持っていたら男がそれを回収した。


「こっちだ」


 私は男に付いていく。

 そして明るい部屋に案内された。


 その部屋に入ると正面が鉄格子で出来てありその先の灰色の壁を見ることが出来る。


 そして真ん中にイスが置かれてあった。


「お前はここに座れ。で、客が来たら……。いや、何でもない」


 私は一言、「分かりました」と返して命令通りイスに腰を下ろした。


 その姿を最後まで見ていた男はため息をつきながら戻っていった。


 私は命令通りただただ静かにイスに座っていた。

 特に動くものはなく、ただただ静かなこの空間で。


 すると遠くの方から声が聞こえてくる。


「……こちらの奴隷は家事を得意とします。そして文字も読めますし書けますので貴方様にはぴったりかと」

「なるほど」


 男の人の声が二つ聞こえてくる。

 そしてその後に女性の声。

 恐らく彼女は商品なのだろう。


 この部屋から右の方に聞こえ来た声はゆっくりと近づいてくる。


 さっきと同じように商品の説明がされて行って男が吟味していっているのが聞いていて分かる。


 そして私の部屋の前に彼らは来た。


 一人は見たことのある男の人だ。

 小柄で、顔色はそこまで良くない人だ。

 私が見たことがあるという事はこの組織の人だろう。


 そしてもう一人はその人とは対照的で丸い体系を持っていて顔がてかてかとしている。


 彼がお客様のようだ。


「……これは生きているのか?」


 そう客は答えた。


「えぇ。この奴隷は戦闘が得意な奴隷です。貴方様が遠出する時などに護衛としてどうでしょうか? それと外見の美しさならここの中でもピカイチでございます」


 組織の男がそう言うと客はすぐに口を開いた。


「これはいらん。気味が悪い。私は奴隷を買いに来たのだ。人形などは欲しくはない」


 そして彼はずんずんと来た道を戻っていった。


 取り残された組織の男は私の方を見て目を鋭くさせると客を追いかけるようにして私の目の前から消えた。


 遠くから彼らの声がまた聞こえてきて近づいてくる。

 

 次は彼らが私の目に映ることはなかった。


 その後に今日は二人の客が来た。


 丸い体系の男と同様に右から声が聞こえてきて私の所までくる。

 そして私を見てこれも同様に「人形はいらない」そう言って二人目も、三人目も去っていった。


「おい。時間だ。戻っていいぞ」


 後ろから声がした。

 この声はいつも私を起こしてくるあの男の声だ。


 私はイスから立ち、男の元へと歩み寄る。


「お前、朝からずっと動いていないのか」


 男は私を見てそう言った。


「はい」


 私は答えた。


 男は私の返事を聞いて一言、「そうか」と答えた。

 そしてその後に小さく口を動かして歩いて行った。

 私は男に付いていく。



 *



「おい。起きろ」


 そう声をかけられて木の板から体を起こす。

 そのまま私に声をかけた男に付いて行く。


 そして昨日と同じように白い服を渡される。


 それを着たら部屋に移動する。

 

 昨日見た景色と全く同じだ。

 鉄格子があってイスがある。


「……イスに座ってろ」


 男が私に命令する。

 私は男の言う通りにイスに腰を下ろした。


 そして私か座ってから少したってから男は部屋から出ていった。


 私はただただじっと、次の命令が来るまで座って待つ。


 待っていたら右から声が聞こえてきた。


 それは昨日聞いたあの小柄な組織の男の声だ。

 

 男の声は段々こちらへと近づいてくる。


 他の商品を紹介する声が聞こえてきて、ゆっくりと、ゆっくりと彼らは私の前に現れた。


 一人は昨日見た、今声も聞こえていた販売人。

 そしてもう一人が客さんなのだろうか。


 その客の見た目はボロボロの服を着ていた。


「この奴隷などはいかがでしょうか? これは戦闘が得意な奴隷です。それに今ならお安くしますよ?」

「……いくらだ?」

「普段なら金貨10枚何ですが今なら金貨5枚でいいですよ」


 組織の男はそう言うとボロボロの服を着た男は少し黙った。

 

 そしてこう言った。


「分かった。買う」

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