討伐作戦その2
滝の裏から出てきた男━何の害悪も無さそうな見た目の30代一般男性━に俺は尋ねる。
「誰だ!」
「私ですか?テンと申します」
「ここで何している?」
「ああ、ゴブリンを育ててました。王都にいたずらでもしようかと思いまして」
「いたずら?それは人攫いもその一環か?」
「あらら、そのこともばれていましたか。ならお教えしましょう。ずばり、人攫いは別件です」
「別件とは?」
「ほっほ、そこまでは教える義理がありませんので」
「そうか、ではお前を捕らえて嫌でもはいてもらおうかい」
俺たちの会話に紛れて後ろに回っていたララがテンに斬りかかる。しかし……
ガン!
ララの剣は突如現れた土の壁に阻まれる。
「おっと、危ないですね私のソイルウォールの発動が間に合わなければあなた殺人犯でしたよ?」
テンはララに対してふざけた態度で話しかける。
「ウォー!」
ララは何度も斬りかかるが、その度に土壁に阻まれる。
「はぁはぁ」
肩で息をするララ。
「もう終わりですか?」
「ぐっ」
「しかし、困りました。私が育てたゴブリンがこんなところでほぼ全滅なんて。計算が狂ってしまいました。わざわざ新しく洞穴まで掘ったのに。こうなってはもうやることもありませんし、私は帰りますね」
「帰すわけなかろう?ファイヤーボール!」
スラさんが攻撃する。しかし、それも土壁に阻まれる。
「寂しがらないで下さい。置き土産ありますから。出てきなさいゴブ太郎!」
「ガー!」
テンが洞穴に声をかけると聞いたことのない魔物の声が響き、皆が音源に目を向ける。そして、そこには事前の打ち合わせではいないはずの魔物がいた。
そう、ゴブリンキングだ。
「ガァァァァァァーーー!!!!!!」
ゴブリンキングの雄たけびに冒険者は動きが止まる。一方でゴブリン達が今までとは異なる強いまなざしとなる。
「これはゴブ太郎の能力威圧と士気向上です。これでゴブリンはハイゴブリンの動きにハイゴブリンもさらに動きがよくなります。あと15匹ほどしかいませんが、苦労なさるかと思いますよ。それでは生き延びたらまたどこかで会いましょう。
ああ、あと1つお土産をあげましょう」
そういうとテンは近くにいたハイゴブリンに手を添える。すると、土が盛り上がりゴブリンを覆った。
「ヴォーー!」
そのまま土のか溜まりとなったハイゴブリンは輝き始めた。
「では、ごきげんよう」
そういうとテンはにっこりと笑顔を浮かべ、土に潜り姿を消した。
俺たちはテンを追うことはしなかった。こちらは数で有利といえどゴブリンキングに人数をかけざるを得ない。しかもあのゴブリンキング盾と剣さらには鎧までつけている。テンがあげたのだろうが、これはただのゴブリンキングと比較してもかなり厄介になっているはずだ。テンを相手する余裕はない。
「ララ!指示を!」
「…っ、ああ!私たちのチームはゴブリンキングを、他は残りのゴブリンの相手をすること、あの土の塊はあの中にいるハイゴブリンを担当していたチームに任せるよ。生きて帰るぞ!」
『了解!』
「あたしらはゴブリンキングが相手だ。最初は様子見をしてダメだと思ったらリリィをギルドに行かせつつ、後退するよ」
「「「了解」」」
そして、俺たちとゴブリンキングの戦いが始まるそのときだった。
「ゲー」
ハイゴブリンを覆っていた土が崩れ一回り大きなゴブリンが出てきた。
「ゴブリンジェネラル」
リリィがぽつりと口を開いた。
「なっ。あんた達ゴブリンジェネラル倒せるかい?」
ララは驚きつつも担当していたチームに訪ねる。
「ああ、なんとかなるはずだ」
「了解、では作戦はこのままでいくよ!」
こうして戦力を大幅に上げた俺達とゴブリン達の戦いが始まった。