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第34話 まるで魔力の底が見えない

 発表会の後、俺は無事に進級することができた。


 本来なら自分自身の発表でなければ進級は難しかったらしい。

 なので完全に無駄骨になるところだったのだが、ログウェルが「ぜひうちの研究室に入れたい!」と猛プッシュしてくれた結果、進級できるようになった。


 何だかんだで彼のお陰で助けられたわけだ。


 ただし自動的にログウェルの研究室に入らざるを得なくなったのだが。

 まぁゴーレムを専門とした研究室なので、悪い選択ではないだろう。


「あの新型ゴーレムの造り方を私に教えてくれ!」と、ログウェルは恥も外聞も無く生徒の研究成果を奪う気満々なのだが、別にこちらとしては隠すつもりもない。


「いいぞ。ちなみにアルファ以外にもあと四体いる。ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンだ」

「っ!?」


 俺が五体のゴーレムを同時に動かすと、ログウェルは白目を剥いて唸った。


「あ、あれでも本気ではなかったのか……」






 白の学院の進級条件は、赤の学院と似たようなものだった。


 教員の推薦を貰って、筆記試験と実技試験を受ける。

 違うのは、この後にさらに実践試験なるものがあることだろう。


 筆記と実技の試験まではすでに突破しているのだが、この実践試験までに少し時間がかかってしまった。

 というのも、これは研究室ごとに実施している試験なので、合格すると自動的にその研究室に入ることになるからだ。


 色々と考えた結果、俺は光魔法を専門にしている研究室の一つを選んだ。


「初めまして、カエデと申します。このたび、貴方の実践試験の試験官を務めさせていただくことになりました」


 カエデと名乗る彼女は、長くて艶やかな黒髪が美しい、二十歳ほどの女性だった。


 東方出身らしく、その職業は【上級職】の《巫女》だという。

《巫女》も〈白魔法〉スキルを習得できる職業で、わざわざ遠くからこの学院に留学してきたそうだ。


 彼女は現在、トップグレードの一年目らしい。

 トップグレードは、セカンドグレードのときに所属していた研究室から、暖簾分けのような形で独自の研究室を与えられており、教員と生徒のちょうど中間のような立場だ。


 その本家の研究室が俺の希望したところであり、彼女はそこの教授の指示を受けて、俺の試験官をすることになったそうだ。


「よろしく頼む。……目が見えないのか?」

「ええ。ですがご心配なさらず」


 彼女はずっと目を瞑っていた。

 どうやら盲目らしい。


「魔力を感知すれば、たとえ目が見えなくても健常者と変わらない生活ができます。むしろ視覚に惑わされずに済むお陰で、より深くを〝見る〟ことが可能なくらいです」


 彼女はたおやかに微笑み、


「貴方の魔力を見れば、その人となりも分か――――っ!?」


 突然、何かに驚いたように大きく息を呑んだ。


「そんな……まるで魔力の底が見えない……? しかもこれは……ふ、複数の魔力が混在している……? こんな状態、保てるはずが……いえ、それぞれが決して反発しあってはいない……だから暴発することなく均衡を……」


 ぶつぶつと何やら呟いている。


「……あ、あなた一体、何者なのですか……? まさか、伝説の《魔導――」


 愕然としたように訊いてくる彼女へ、俺は応えた。


「いいや、俺はただの《無職》だ」






 白の学院の敷地の地下には、古代の遺跡が存在している。


 遥か昔に滅びたという王国。

 その王族が眠るとされている墳墓なのだが、長い年月をかけて魔力を溜め込み、今やダンジョンと化していた。


 そこには大量のアンデッドが巣食っており、アンデッドを浄化する力を持つ白魔法によって、その侵出を抑えているのだという。


 俺が選んだ研究室は、アンデッドや悪魔の退治を専門とする光魔法を研究しているところで、いわゆる祓魔師エクソシストを多く輩出していた。


 なので実践試験も、試験官の監督の元、このダンジョンに潜って実際にアンデッドを倒すという内容となっていた。


 ダンジョン内はジメジメしていて黴臭かった。

 どこからか腐臭までもが漂ってきて、あまり長時間いたくない場所だ。


 劣化の激しい通路は完全に闇へと沈んでおり、いかにもアンデッドが現れそうな雰囲気だ。


「ライト」


 とりあえず明かり用の光を出して前方を照らす。


「気をつけてください。光を見るとアンデッドが近づいてきますので」

「? 逃げるんじゃないのか?」

「いえ。強い光であれば別ですが、弱い光だと逆にその光源を排除しようとして接近してくる場合があるのです」


 なるほど。

 この程度の光だとかえって誘き寄せることになるのか。

 まぁむしろ好都合だ。


「……ちなみに、アンデッドの浄化はやったことありますよね?」


 カエデが訊いてきた。


「一度もないが?」

「えっ? じゅ、授業でやりませんでしたか?」

「俺はやっていないな」


 授業には毎回ちゃんと出ていたわけではないからな。

 俺が不在だったときに、アンデッドについての授業があったのかもしれない。


「心配要らない。ぶっつけ本番だが、何とかなるだろう」


 と、ちょうどそのときだ。


「うーあー」


 前方から呻き声とともに人型の化け物が現れる。

 身体のあちこちが腐ったそいつは、ふらつく足取りでこちらへと近づいてきた。


「ゾンビか」


 俺は圧縮させた光を撃ち放った。


「ホーリーレイ」

「おああああっ!?」


 強烈な光線を浴びて、悍ましい悲鳴を上げてのたうつゾンビ。

 やがて動かなくなってしまったかと思うと、腐った肉体が灰と化していく。


 浄化完了。


「まぁこんなところだ」


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