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第25話 百本くらい余裕だぞ

「アイスエッジ×50」


 俺は氷の刃を五十本、同時に出現させる。


 入学試験でも使った魔法だ。

 アイスエッジ自体は氷の刃を生み出す初級の魔法だが、それだけでは威力がたかが知れているし、回避されることも多い。

 なので、こんなふうに多量の刃を同時に作り、氷の雨のように放って使うと勝手が良い。


 命中率次第では、殺傷力は上級魔法のアイスストームにも勝るだろう。


「なんて数だっ!?」

「あんな数を同時に出せるものなのか!?」


 ……それほど難しくはないんだがな?

 術式上では同じパターンを繰り返しているだけだし、二本も三本も五十本も大差ない。


 観客たちが息を呑む中、それらを一斉にヘンゲル目がけて撃ち出した。


「それくらいのこと、このあたくしにはできないと思って? アイスエッジ×50!」


 ヘンゲルはまったく同じ魔法で対抗してきた。

 俺と同様に五十本の氷の刃を放ってきたのだ。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!


 刃同士が激突し、互いを相殺させる。

 しかもほぼすべて命中させてきた。

 迫りくる刃という的に当てるには、針の穴を通すような正確さで放たなければならず、なかなかできる芸当ではない。


 なるほど、伊達にこの学院で実技の教員をやってはいないということか。


 俺の攻撃を完全に防いだことで機嫌を良くしたのか、ヘンゲルは満足げに唇を吊り上げた。


「そう言えば、入学試験でも使っていましたわね? アイスエッジが得意のようだけれど、生憎とそれはあたくしも同じ。それどころか、あなたの倍……つまり、一度に百本くらいは放てますわよ?」


 ふむ。

 百本か。


「俺も百本くらい余裕だぞ。アイスエッジ×100」

「っ!?」


 次は百本の氷の刃を撃ち出す。


「あ、アイスエッジ×100!」


 ヘンゲルもそれに対抗してきた。

 刃と刃が空中でぶつかり合い、バリバリという雷鳴のような音が鳴り響く。


 何本かは激突せずにすり抜け、こちらにまで飛んできた。


「おっと」


 回避する。


 もちろんヘンゲルの方にも刃は飛んでいく。


「くっ……アイスシールド!」


 咄嗟に氷の盾を作り出し、刃を防ぐヘンゲル。


「すごい! あれだけの魔法を放ちながら、さらに別の魔法を発動するなんて!」


 生徒の一人が驚嘆しているが、熟練の魔法使いともなればそれくらいはできて当然だと思う。


 しかしヘンゲルは氷盾の方に意識を向けたせいか、氷刃の方の勢いが落ちてしまったようだ。

 俺のアイスエッジに激突しても、先ほどまでのように相殺することはできず、力負けして弾かれていく。

 氷の盾に次々と俺の氷刃が突き刺さっていった。


 とはいえ、盾を破壊するまでには至らない。

 それどころか、突き刺さった刃がかえって盾を強化している始末。

 むしろヘンゲルにとって有利になったと言えるだろう。


「……あなたのお陰で強固な盾ができましたわ。これであたくしが一方的に攻撃できますわねっ! アイスエッジ×120!」


 ヘンゲルが攻勢に出てきた。

 先ほどよりさらに多くの氷刃を撃ち出してきた。


「ふむ。ならば横からも攻撃すればいいだろう。アイスエッジ×120×2」

「なっ!?」


 正面はヘンゲルに合せて百二十本の氷刃を。

 そして彼女から見て右方向から、さらに百二十本の氷刃を撃ち出した。


「アイスエッジをあんなところから!?」

「しかもヘンゲル先生の倍だぞ!?」


「アイスシールド……っ!」


 ヘンゲルはそれも氷の盾で防ぐ。

 彼女の右側に分厚い氷の壁ができあがった。


「ならば逆方向からも。アイスエッジ×120×3」

「アイスシールドっ!」


 今度は左方向を含む三方向から氷刃の雨を放つと、ヘンゲルは三度、氷の盾を出現させた。


「後方からも。アイスエッジ×120×4」


 さらに後方を含む四方向から氷刃を。


「ちょっ、冗談ですわよねっ!? あ、アイスシールドぉぉぉぉぉぉっ!」


 ヘンゲルは自らの背後にも氷の盾を出した。


 ちなみに魔法の発動ポイントを指定するというのは、その分、術式が複雑になってしまうため、なかなか大変だったりする。

 しかも距離が離れれば離れるほど、その煩雑さは増す。


 なのでこんなふうに四方向から魔法を放つのは、かなり骨が折れるのだ。


「一体どういうことですのっ!?」


 全方位を氷の盾によって保護されながら、ヘンゲルが目を剥いて叫ぶ。


「あり得ませんわっ!? こんな芸当、下手をすれば学院長ですらっ……」

「驚くのは後にして、逃げ道がなくなったことを心配した方がいいと思うぞ。――アイスランス」


 ヘンゲルの頭上、数メートルの空中に出現したのは、巨大な槍だ。

 それが高速で回転しながら、彼女目がけて落ちていく。


「しまっ……」


 分厚い氷の壁が彼女の周囲を取り囲んでいて、逃げることはできない。

 俺がアイスエッジを使って隙間を完全に塞いでやったから、鼠一匹、通れる穴がない状態だった。


 ヘンゲルが取れる手段は、やはり氷の盾で防ぐことしかない。


「あ、アイスシールドっ!」


 予想通り、彼女は天井に氷の防壁を張るが、


「無駄だ。これはアイスシールド程度では防げない」


 パリィィィィィィィィンッ!


 氷の槍があっさりと氷の盾を貫いた。

 そして――


「そ、そんなっ、このあたくしがっ……生徒に負けるなんてっ……いやあああああっ!」


 悲鳴とともにヘンゲルの加護が全損する。


 ふむ。

 これで間違いなく合格だろう。


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