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第19話 筆記もばっちりだったからね

「あの《魔導剣姫》の女の子は魔法科に取られてしまったか……」

「はい……残念でなりません」


 武術科の教職員室。

 入学試験を担当していた教員たちは、せっかくの逸材を逃してしまったことに項垂れていた。


「まぁ本人が魔法科を選んだのだ。仕方があるまい」

「そうですね……」

「それより試験の採点は終わったのか?」

「はい。合格者もおおよそ決まっています。ただ……」

「どうした?」

「……これをご覧ください」

「《無職》?」


 手渡されたとある受験者の成績シート。

 その教員は最初に職業の欄を見て、眉根を寄せた。


「《無職》など合格するはずがあるまい」

「それが……成績の方を見てください」

「? 筆記試験の評価はAか……まぁ、筆記の点数はあくまで参考程度のものだからな」


 Aは90点以上を取った者に付けられる、一番いい評価だ。

 だがこれだけで《無職》であることが覆されることはない。


「……問題は実技試験の方です」

「実技? なっ、評価Sだと……?」


 評価S。

 それは数年に一度あるかないかといったレベルの最高評価である。


 武術科の歴史を紐解いてみても、入学試験でこの評価を得た者は僅か数人しかいない。


 さらにその教員を驚かせたのは、評価Sとなった理由の方だった。


「ゴブリンの巣に入り、上位種を含む百匹近いゴブリンを単身で討伐……? しかもゴブリンロードまで倒しただとっ……?」


 これが本当なら、評価Sどころではない。

 学院はじまって以来の天才の登場だ。


「どう考えても何かの間違いだろう。試験官を務めたのは誰だ?」

「三年生のメレナです。真面目な生徒で、成績も優秀。決して嘘を吐くようなタイプではありません。実際に本人に確認を取ってみましたが、間違いないと言っておりました」

「じゃあ、これは事実……いや待て待て待て! この受験生は《無職》ではなかったのかっ!?」


 実技試験の報告内容があまりにぶっ飛んでいたせいで、忘れていたらしい。


「もちろん鑑定士の方のミスという可能性も……」

「もしそうなら大問題だぞ?」

「はい。ですが、その場合は本人が間違いを指摘するはずですし……」

「それはそうか……」


 教員たちは頭を抱えてしまった。


「それで、どういたしましょうか……?」

「……たとえ《無職》であろうと、試験でこの評価を出したんだ。合格させないわけにはいくまい。可能なら再試験をしたいところだが、合格発表は明日。どこにいるか分からない本人を見つけ出して、もう一度実技試験を受けさせる時間はないだろう」

「……分かりました。では、合格ということにしましょう」

「それで頼む。どのみち毎年、合格者のうち何人かは入学後にふるいに落とされるんだ。もしこの少年がただの《無職》であれば、すぐに学院を去ることになるだろう」





 一方その頃、魔法科の教職員室でも、同じように入学試験について担当する職員たちが話をしていた。


「《魔導剣姫》の子が無事に我が魔法科に合格しました! しかもこれをご覧ください!」

「っ! 評価Sっ! やはり期待通りの実力か!」

「いえ、期待以上です! 試験官を務めた生徒によれば、なんと複数の属性の魔法を使っていたとか!」

「なんだと!? そんなことが可能なのかっ!」


 驚異の新入生に期待を膨らませる職員たち。

 しかしそのとき、不都合な事実――筆記試験の成績が目に入ってしまった。


「最低評価のE……だ、大丈夫なのか? 出題内容はただの常識問題だぞ……? 普通ならどんなに実技がよくても落とされる成績だが……」

「そ、それは入学後に何とかなるでしょう!」

「だ、だよな!」


 どうやら不都合な事実には目を瞑ることにしたらしい。





 こうしてアークは武術科に、レイラは魔法科に、それぞれ無事に合格したのだった。




      ◇ ◇ ◇




「アーク、どうだった!?」

「合格したよ」

「わっ、おめでと! あたしも合格だった!」


 今日は合格発表の日だ。

 僕とレイラはそろって合格していた。


「しかもトクタイセイだって!」

「トクタイセイ?」

「なんかね、授業料を払わなくていいらしいよ!」

「ああ、特待生か。すごいじゃんか」

「えっへん。筆記もばっちりだったからね!」


 自信あるって言ってたけど、あれは本当だったのか。


「それでこんなの渡されちゃった!」

「何これ? ……問題集?」

「うん、入学式までにやってきなさいって!」

「宿題かー。武術科にはなかったけど……」


 パラパラと中を読んでみる。

 って、入学試験と同レベルの常識問題ばかりじゃないか。


「これ、魔法科は全員やるの?」

「みんな貰ってなかったし、トクタイセイだけじゃないかなー?」

「……」


 そうじゃなくて、これ絶対、レイラの筆記試験の成績が酷かったからだ……。

 入学するまでに少しでも周りに追いつかせておきたいという計らいに違いない。


 ……でもせっかくレイラがやる気になっているし、余計なことは言わないでおこう。


「じゃあ、期待に応えて頑張らないとね」

「頑張る!」


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