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第22話 泣いて土下座するなんて

「もちろん知ってるぜ」


 男ははっきりと断言した。


「今この都市にいるのか?」

「ああ、いる。確か、一週間ほど前だったか。十歳ぐらいの女の子が一人でここにやってきたんだ。なかなかいい商品がきたぞと思って、すぐに捕えて都市内にある拠点に連れていこうとした」

「……何だと?」

「そ、そう怒るな……安心しろ、無事だ。たぶんな」

「どういうことだ?」

「途中でまんまと逃げられたんだよ」


 そしてその後は一度もこの扉を通っていないという。

 つまり今もこの都市のどこかにいるということだ。


「この鍵を貸してくれ」

「だから言っているだろう? あんたを都市に入れる気はないってな」

「ふむ、どうやら力づくで言うことを聞いてもらうしかないようだな?」

「はっ、できるものならやってみるがいい」


 男は鼻を鳴らして不敵に笑う。


「暴力なんて日常の世界に生きているんだ。ちょっとやそっとの拷問で音を上げるようなタマは一人もいないぜ」







 五分後、男は涙を流しながら俺に懇願していた。


「開ける……っ! 開けるからっ! だからもうやめてくれぇ……っ!」


 身体に傷は一つもない。

 それは俺が白魔法で治してやったからだ。


「やはり白魔法があると便利だな。殺す心配なく痛めつけることができるし、同じことを何度も繰り返すことができる」


 人間、痛みがある程度を超えると麻痺してしまい、痛みを感じなくなってしまうものだ。

 だが白魔法のお陰で毎回、新鮮な痛みを与えることができる。

 そしてどんなに傷は癒えても、精神へのダメージは回復しない。


「あの親分が……泣いて土下座するなんて……」

「やべぇ……」


 戦慄している男の手下たちを後目に、扉を開けさせる。

 その際、鍵を使っていなかった。


 聞けば、この錠前には鍵が存在していないという。

 そのため〈開錠〉のスキルを使わなければ出入りができないそうだ。


 そして中に入ろうとしたところで、ふと思いついて、


「そうだ。もしミラが都市を出ようとしたら、どうにか押しとどめておいてくれないか?」


 全員がぶんぶんと首を縦に振っていた。







 思っていた通り、都市の中は酷い有様だった。


 まず、臭い。

 あちこちにゴミが散乱しているせいだ。

 いや、ゴミどころか、吐瀉物や汚物らしきもので道が汚れている。


 薄汚れた身なりの男たちが昼間から酒を飲んで騒いでいたり、薬でもやっているのか完全に目がイっている男が何かを大声で喚いていたり。

 遠くの方からは、敵対組織同士が抗争しているのか、激しい怒声や悲鳴が聞こえてくる。


 少し開けた場所では堂々と危険な薬物や武器などの売買が行われていた。


「酷い街だな」


 女の子がいていいような場所ではない。

 一刻も早くミラを見つけ出さないと。


 だが広大な地下空間はさながらダンジョンのようだ。

 元から脱走を封じるため複雑な構造だったようだが、牢屋を改造して住居にしていく過程でその複雑さを増したのだろう。

 しかも無秩序に増改築が成されているため、そこには統一された意図などない。


「これも鍵が閉まっているか」


 街の至るところに扉があって、その多くは鍵がかかっていた。

 これも監獄だった頃に、囚人の脱走を防ぐために設けられたのだろう。

 行く道を遮るような扉も沢山あり、お陰で探索範囲が大きく狭まってしまう。


 その辺の人間を捕まえて、片っ端から鍵を開けてもらうしかないか。

 あの男を連れてくればよかったな。


「……確か、針金のようなものを使っていたな」


 男が錠前を抉じ開けるときのことを思い出して、俺は試しにやってみる気になった。

 運よく近くに落ちていた針金を広い、それを目の前の扉の鍵穴へと差し込んだ。


「こうか? 違うか。こう? 開かない。……これでどうだ?」


 色々と試してみるが、しかしなかなか上手くいかない。

 だがしばらく試行錯誤をしていると、カチリ、と。


「開いた」


 意外と簡単にできるものなんだな。


 さて、この先はどうなっているのか――


「なんだテメェ!?」


 開けた瞬間、凄まじい怒号が飛んできた。

 元々は独房だったのだろう、格子窓があるだけの小さな部屋で、端っこに遮るものなどなく便器だけがぽつんと置かれている。

 ちょうどその便器の上に、お尻を丸出しにした鋭い目つきの男がしゃがみ込んでいた。


 どうやらここは彼の住居らしい。

 そして用を足していたところだったようだ。


「失礼」


 俺はそっと扉を閉めた。

 ここは外れだったみたいだな。


 俺はすぐに次の扉へと移った。






 その後、街の扉という扉を開けながら、俺はミラを探し続けた。

 時々、扉の先にいた住民とトラブルになったりもしたが、話し合い(物理)で解決した。


「おいっ、テメェか! さっきからうちのシマを荒らしまわってんのはよ!」

「いい度胸じゃねぇか、コラ!」


 突然、怒鳴り声とともに二十人ほどの集団が俺を取り囲んでくる。


「テメェ、見かけねぇ顔だな? どこの組の新入りだ?」

「どこの組?」

「ちっ、野良か、テメェ」


 どうやらどこの組織にも属していない人間を野良と呼んでいるらしい。


「オレたちはこの階層で最大の組織〝アビスデビル〟。この一帯はオレらの縄張りなんだよ」

「知らなかったじゃ済まさねぇ。勝手に侵入しやがった落とし前はきっちり付けさせてもらうぜ?」


 この階層、とはどういうことだろうか?


 よく分からないが、大きな組織だというのなら情報も多いだろう。

 彼らにミラの行方を訊いてみるとしよう。



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