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第29話 出直しってとこだな

「てめぇは健康そうだし、最低でも鉱山奴隷あたりで買い手がつくだろうよ。運がよければ男好きの金持ちババアに買ってもらえるかもなぁ」


 船長は下卑た笑みを浮かべてベフィの方を見遣る。


「そっちの女は顔は悪くねぇんだが、デカすぎて普通の市場じゃあなかなか買い手は付かねぇ。だが幸いオレらの顧客リストに物好きな貴族がいてなぁ。変わり種の女ばかりを集めてる奴でよ、そいつならきっと高値で買い取ってくれるだろう。ただし、あれは〝ド〟が付くほどの変態だから覚悟しておけよ、ひゃははははっ!」


 下品な笑い声が響き渡った。

 自分たちも似たような運命を辿ることになると思ったのか、鉄格子の向こうの女子供が蒼い顔をして身を震わせる。


「それにしても、まさかこうも簡単に商品が二つも増えるとは思わなかったぜ。まさに鴨が葡萄酒背負ってきたってやつだぶげぇぇぇっ!?」


 最後まで言い切る前に悲鳴に変わったのは、俺が腹を蹴って吹っ飛ばしてやったからだ。


「ぐべっ」


 壁に叩きつけられ、ほぼ加護が全損する。

 気絶したのか、白目を剥いてしまった。


 もちろん手加減してやったからその程度で済んだだけだ。


「船長!?」

「て、てめぇ、何しやがるっ!?」


 引き連れていた船員たちが怒号を響かせた。


「むしろ蹴り飛ばされても仕方のない状況だったと思うが?」


 本気でやらなかっただけでも感謝してもらいたいくらいだ。

 恐らく胴体が弾け飛んでいただろう。


「くそ餓鬼が!」

「死にたくなけりゃ大人しく檻に入ってやがれ!」


 船員たちが腰に提げていた剣を抜いた。


「ふむ、ただの素人剣術だな」


 俺は無造作に彼らへと近づいていく。


「なっ、こいつ正気かっ?」

「構わねぇ、やっちまえ!」

「無駄だぞ」


 ブンッ――パシッ。


 俺は振り下ろされてきた剣を親指と人差し指で摘まんで受け止めた。


「~~っ!?」

「け、剣を指だけで受け止めやがっただとっ!?」


 この程度の斬撃が相手なら朝飯前の芸当だ。


「こ、この野郎っ!」


 ブンッ――パシッ。


 もう一人の剣も指で掴み取る。

 今度は中指と薬指だ。


「う、う、動かねぇっ!?」

「こいつなんて力してやがるんだっ!?」


 狼狽える彼らへ、逆の手で腹パンを見舞う。


「「ぶぎゃっ!?」」


 壁に激突して彼らも気を失った。


「い、一撃で!?」

「な、な、何なんだこいつはっ?」


 残った船員たちが顔を引き攣らせて後ずさる。

 と、そのとき、


「大人しくしやがれ! この女がどうなってもいいのか!」


 船員の一人がベフィの背後に回り、その喉首へ剣先を突きつけていた。

 人質のつもりだろう。

 しかし船員の方が頭一つくらい背が低いので、少し滑稽な絵面だ。


「ん?」

「死にたくなけりゃ動くんじゃねぇぞ?」

「うざい」

「~~~~っ!?」


 ベフィが船員の頭を鷲掴みにし、そのまま軽々と持ち上げた。

 細腕とは思えない怪力に、愕然と目を向く船員。


「は、放しやがれ! このクソアマがっ!」


 必死にバタつくが、ベフィの腕力を前には成す術がなかったのだろう。

 結局、手にしていた剣を振り下ろした。


 鉄格子の奥から悲鳴が上がる。

 ベフィが斬られたと思ったのだろう。


「……は?」


 だが船員の剣はベフィの身体に当たっただけだった。

 肌には一切の傷もついていない。


 神話級の魔物のベヒモスだからな。

 人化しているとはいえ、素人の剣が効くはずないだろう。


「ん」

「ぬごおっ!?」


 ベフィは何事も無かったかのように船員を放り投げる。

 いったん天井にぶつかったあとに壁に激突し、それから地面に落下した。


 加護が全損するばかりか、手足があらぬ方向に曲がっている。

 ベフィは俺と違って加減なんてできないからな。


「眠い」

「こいつらの掃除は俺がするから休んでいていいぞ」

「そうする」


 ベフィは長い身体でぬらりと鉄格子に近づく。

 そして鉄格子を掴むと、そのまま力任せに引き千切った。


 バギバギンッ!


「「「~~~~~~~~~~~~っ!?」」」


 鉄格子を腕力だけで破壊できるとは思わなかったのか、その場にいた誰もが目を大きく見開いた。

 あれくらい俺でもできるけどな。


「おやすみ」


 唖然としている人たちを余所に、ベフィは檻の中に入ると地面に敷いてあったボロ布の上に長い身体を畳むようにして寝転がった。

 地べたで寝るよりも気持ちいいと思ったのだろう。


「さて、やるか」


 そんなベフィを放置して、俺は船で暴れた。







「なるほど、つまりリヴァイアサンを見たというのも嘘だったわけか」

「はい、そうです。申し訳ありませんでした」


 俺が確認すると、船長は殊勝にもあっさりと認めて謝罪してきた。


 船の甲板。

 操船に必要な人員だけを除き、船員たちを全員集合させている。

 念のため縄で縛っているので身動きを取ることは不可能だ。


「出直しってとこだな」


 いったん港に戻るしかなさそうだ。

 いずれにしても彼らを連れ帰る必要があったし、戻るつもりだったけどな。


「あ、あの……兄ちゃん、助けてくれてありがとう」

「お陰で奴隷にされずに済みました」

「おにーちゃん、すっごく強いんだね!」

「でっかいおねーちゃんも!」


 檻に捕らわれていた子供たちが口々に礼を言ってくる。

 俺がこの船に乗っていなければ異国の地で売られていただろう。


 と、そのときだ。

 船が突然、何の前触れもなく大きく揺れた。

 先ほどからずっと波は穏やかだったのだが。


「何だ?」

「う、うわあああっ!?」


 操船のために拘束せずにおいた船員の一人が悲鳴を上げた。

 見ると、その身体に太い縄のようなものが絡み付いている。


 直後、彼は海の中へと引きづり込まれていった。


「ふむ。海のモンスターが現れたか」


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