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サンドイッチと親の影④

「おい! こっちにはタマゴサンド一つとベーコンサンド二つだ」

「ねぇ、まだなの? 早くしてほしいだけど。ハムチーズ三つよ、三つ」

「はい! かしこまりました!」


 私の前には、何人もの人たちが声を上げて手を差し出している。その手には硬貨が乗っており、サンドイッチをくれという催促だった。

 そう。ここは、何を隠そうジルさんのお店なのだ。

 とりあえずお昼のサンドイッチだけ始めたら、すぐにお客さんが増えに増え、今じゃ作るのも追いつかないほどだ。 


「おい、マユ! こっちの魔力込めは終わったぞ! そっちはどうだ!?」

「うん、今、終わる! ジルさんはベーコン焼いてもらっていい!?」

「わかった」



 とりあえずメニューは、タマゴサンドとハムチーズサンドとベーコンサンドの三つ。ベーコンサンドといっても、前の世界で言うBLTのことだけどね。トマトみたいな野菜があって助かった。


 どのサンドイッチもハンスさんに味見をしてもらっていたのだが、高級料理店にもまけないっていうコメントをもらっている。いや、うれしいけどなんていうか大げさというか。でも、私だけではそれこそどこでも食べられるサンドイッチだけど、ジルさんの魔力が加われば、それこそほっぺたが落ちそうなほどに美味しい。

 その美味しさから、値段はかなり高めに設定したんだけど、もの珍しさからかお客さんがひっきりなしだ。

 これぞ、うれしい悲鳴というやつである。



 慣れない最初の数日は、それこそ猫の手も借りたいくらいだったのだが、二週間もたつと慣れてきたのか大分落ち着いてきた。お客さんも、慣れてきたのか忙しいけれど前ほどではない。

 そんな毎日の忙しさにもまれていたおかげか、私はあまり寂しさを感じずに日々を過ごしていた。


 もう、二週間もたつのかぁ。


 ランチタイムが終わって片付けをしているころ、私はそんなことを考えていた。


「ほら」

「あ、ありがと」


 椅子に座って休憩していると、とん、と前にコップが置かれた。ジルさんが水を持ってきてくれたみたいだ。


「今日も完売だな」

「うん。大分慣れてきたし、軌道にも乗ってきたね。そろそろ、昼だけじゃなくて夜もやってもいいかもよ?」

「おいおい。まだ、サンドイッチ作るので俺は精一杯だって。魔力も無尽蔵にあるわけじゃないからな」

「あ、それもそっか」


 もっともな話に、私は目をつぶりながら頷いた。


 最初は、「魔力込めるだけなら楽でいいね」などといったやさぐれたことを思っていた。それも忙しさから心が荒んでいたせいかもしれないけど、それは大きな間違いだったのだ。

 ジルさんが込める魔力はそれなりに体力を使うらしく、永遠に続けられるものではないらしい。

 私は、ジルさんとハンスさんにサンドイッチを作ったとき以来、魔力を込めることは成功していないためその辛さがわからなかった。

 だからこそ、私は調理、ジルさんは魔力と調理補助を担当しながらなんとか店を回してる。

 いつのまにか、私の敬語も取れ、自然なやり取りをしていた。今はここが私の家だからね。気楽なのはいいことだ。


 水をちびちび飲んでいると、ジルさんも疲れたのか同じテーブルに座る。熱いのか、胸元をパタパタとしながら水を飲んでいた。

 私は、その隙間から見える鎖骨とか、腕とかをぼーっと見つめていた。

 その身体は鍛えられていて、あまり料理人っぽくはない。

 二週間前に取り乱した時は、あの胸に抱かれていたんだな……。ちょっぴり恥ずかしくなるようなことを考えていると、ふとこちらも見たジルさんと目があった。


「っ――」

「どうした? 何か用か?」

「い、いえ! なんでもありませんっ!」

「なんだ。変な奴」


 そういって微笑むジルさんは、少し前よりもずっと優しくて穏やかだ。お客さんが来て余裕が出てきたからかな? ふと湧いた疑問を、私はジルさんにぶつけてみた。


「ねぇ……ジルさん」

「ん?」

「なんだか、最近のジルさんは優しいよね。よく笑うし。最初より怖くない」

「なんだ。最初は俺が怖かったのか?」


 ちょっぴりむっとした様子に、少しだけ慌てて言葉をつなげた。


「そういうわけじゃなくてさ――雇ってくれたり、寝床をくれたりって最初から優しかったけど……なんていうんだろ。柔らかくなったっていうのかな? うん、なんだかそんな感じ」


 私の要領を得ない言葉に、考え込むジルさん。しばらくすると、ちょっとだけ視線を逸らしながらとんでもないことを呟いた。


「マユがいるからな」

「ふぇ!?」

「お前がいてくれて……いや、お前が来てくれて本当に良かったと思ってる。店もこれだけ賑わっているのもマユのおかげだ。ありがとな」


 突然の言葉に、私は顔が熱くなっているのが分かった。


 やばいやばい! 絶対、今顔赤いよ!

 そんな確信があったけど、いきなり顔を背けるのも意識しすぎだし!


 そう思った私は、少しだけ顔を背け、頬杖を突くふりをして手で隠した。


「まあ、お店が繁盛するのは、私にとってもいいことだからね」


 そういって、コップを片付けるふりをして立ち去るのが今の私には精一杯だった。

 もう。いきなり、マユがいるからとか言われてびっくりしたよ! っていうか、お店にとってよかったってことだよね!? うん、きっとそうに決まっている!

 私は、火照った顔を冷ますために、おもわず掃除道具を手に取った。


「じゃあ、外掃除してくるね? 片付けよろしく!」

「ああ……」


 そういって、ジルさんの顔を見ずに外に飛び出した。

 こらえきれず顔がにやけたのは、しょうがないことだよね。うん、きっとそうに違いない。


 後ろで、ジルさんが笑っている気がしたけど、それを確かめる度胸は私にはなかった。


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