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7、私、魔王として演説する


 私は昨日と同じように、一度目の鳴き声で目を覚まし、二度目の鳴き声でアスモデウスと一緒に朝食を取り、四度目の鳴き声で仕事に向かった。

 

「魔王様、本日のスケジュールですが、」

 

 執務室でアスモデウスは秘書のようなことをしてくれる。いや、実際秘書なのだが。

 私は昨日と同じく、アスモデウスに言われた通りの仕事をこなす予定だったのだが、今日は少し違っていた。

 

「大勢の悪魔の前で人間に勝利したことをスピーチしていただきます」

 

 あースピーチね、スピーチ、知ってる知ってる。大勢の人の前で長ったらしく何かを語るやつだよね。いつも選挙の時とかで見てると大変だな~って思ってたんだよね~。

 

 ……え?私がスピーチやるの!?いや、無理無理無理!絶対無理だって!

 

「九度目の鳴き声から始まるので、それまでに考えといてください」

 

 私が拒否する前にアスモデウスは執務室から出ていってしまった。

 どうしよう……これは本当にまずい。人ととの戦争に悪魔が勝ったってだけでも複雑な気分なのに、さらにスピーチを考えないといけないなんて。中身が優秀な魔王様のシャルロッテちゃんではなく私なことがバレてしまう。

 この優秀な頭を使えばスピーチ原稿を覚えるのは容易だろう。問題はそのスピーチ原稿が書けないことだ。

 逃げ出したいけどあのアスモデウスのことだ。逃がしてくれるとは思えない。

 

 ……えっと、八方塞がりとはこの事かな?

 

 私が頭を抱えて半泣きになっているとコンコンと執務室がノックされた。

 

「誰でしょうか?」

 

 アスモデウスは執務室に入るのに基本的にノックなどしない。であれば一体誰なのか。

 その正体は声を聞いただけでわかった。

 

「魔王様、ルシフェ………」

 

 私は途中で聞くのをやめた。普通に耳を塞ぐだけでは声を完全に聞こえないようにすることはできないので、女神の権能を使ってこの部屋の外の音を遮断する。

 

 これだけしてもルシフェルの声が聞こえるような気がするのだから、恐ろしいものだ。

 私はルシフェルの声を忘れるために必死で原稿作りに取り組んだ。

 

 

 

 理由はどうであれ時間を忘れるくらい集中することができたらしい。気が付けはお昼時になっていたらしく六度目の鳴き声がした時、アスモデウスが昼食を運んできてくれた。

 

 外の音を遮断しているはずなのに、グリンカンビの鳴き声は何故かこの部屋にも響いた。女神の権能よりも強力とは不思議な鳥である。

 

「あ、魔王様。私が来るまで、あの馬……ルシフェルさんが扉の前でずっとぶつぶつ言っていたのですが大丈夫でしたか?」

 

 ルシフェルまだいたんだ………と言うより、今馬鹿って言いそうになったよね!?アスモデウスも悪口言うんだなぁと思った今日この頃。

 気持ちはわかるから注意をする気はないけど、私の天使が少し陰った瞬間を目撃したので、気分は少し複雑だ。

 

 ちなみにこの執務室は魔王の許可がある者、もしくは魔王本人とその秘書しか入れないようにできている。だからルシフェルは入れなかったのだ。セ○ムよりも安心の防犯力だ。

 

「はい、大丈夫です」

 

 

 

 

 その後私たちは仕事の話をしながらご飯を食べた。ご飯の時くらい仕事から離れたいけど、戦後処理はかなり忙しいらしくそうも言ってられない。

 

 アスモデウスの愚痴を聞いたりしながら時間は過ぎていった。

 

 

「魔王様、スピーチの方ですが言うことは決まりましたか?」

 

 私は頷いて、作っていた原稿を渡した。

 

「これでどうでしょう?」

 

 私は前回の、勇者が現れる前に征服した時のシャルロッテちゃんのスピーチを元に、勇者を倒した旨を追加した感じだ。他にもゲームに出てくる魔王の台詞を編集したりして作った。

 私的にはなかなか良くできていると思う。

 

「素晴らしい出来ですが、そうですね………この部分をもう少し強調して、ここの表現を工夫したら………」

 

 アスモデウスは私の作った原稿に赤を入れていく。そうしてアスモデウスによって添削された原稿は、私の作った物とは全くの別物と言っていい物になっていた。

 

「今まで魔王様は行き当たりばったりでスピーチを行ってきましたから、こうして事前に確認できるのは凄く便利ですね」

 

 アスモデウスは今までのシャルロッテちゃんのスピーチにも赤を入れたかったようだが、その場でパパっと考えながら言うので出来なかったそうだ。

 私とシャルロッテちゃんのスペックの差を思い知らされる一言だったよ。いや、知ってたけどね。

 

 

「では私はこれを言えばよろしいのですね?」

 

 私はアスモデウスの作った原稿を持って言った。あ、勿論見ながらなんてそんなかっこ悪いことはしないよ!シャルロッテちゃんの頭のスペックならこの原稿を覚えるなんて容易だからね。

 

「はい、お願いします」

 

 その後、八度目の鳴き声がするまで、紅茶のような飲み物とお菓子を食べながら原稿を覚えるのに時間を使った。と言っても、二、三度読み返しただけで覚えれたから、後の時間は原稿を読んでるふりをしながら紅茶とお菓子を食べてるだけなんだけどね。

 だって覚えてることがバレたら仕事をさせられそうだし。

 

 

 

 

 八度目の鳴き声がすると、私は執務室を出て自室に向かった。大勢の悪魔の前に立つので相応の格好をしなくてはならないのだ。

 

「きつくないですか?」

 

「ん、大丈夫」

 

 私はアスモデウスに服を着るのを手伝ってもらっていた。着る服は日本の和服のような物で、最初にそれを見た時は驚きで変な声を上げそうになった。

 

 帯をぎゅっと締めてもらい、着付けが終わると私は鏡の前に立つ。

 

「うわぁぁ~!!」

 

 鏡に写っていたのは人形と言われても全く違和感のない少女だった。感動とあまり声が漏れてしまうが気にしない。

 

「凄く似合っていますよ」

 

「だよね!」

 

 私は何度も自分と鏡を見た。本当に美しい。まるで夢のようだ。アスモデウスにも誉められたので私の機嫌はうなぎ登りで急上昇していた。

 

「では、そろそろ時間ですので行きましょうか」

 

「ええ!」

 

 部屋から出て廊下を歩くと、私は靴というかオシャレな下駄のような履き慣れないものを履いているため躓きそうになった。

 

「魔王様!」

 

 地面につく間一髪でアスモデウスに助けられた。大袈裟かもしれないけど折角の服が汚れるかも知れなかったので間違いではない。

 それにしてもやはりアスモデウスはかっこ可愛いな~と思う私なのでした。

 

 

「魔王様、そろそろです」

 

 アスモデウスに言われて私は気を引き締めた。今から大勢の前でスピーチを行うと思うと凄く緊張するのではないかと思ったけど、実際それほどではなかった。昔の私はノミの心臓だったので、これはシャルロッテちゃんパワーだ。

 シャルロッテちゃんに感謝!

 

 

 九度目の鳴き声がすると同時に私は姿を表した。多くの悪魔は私の姿を直接的見たことはないため、その場に喝采が起こる。魔王様は人気者なのだ。悪魔の中ではだけどね。

 盛り上がるのはいいのだけれど静まる気配が一切ない。これではスピーチを始めることが出来ない。

 

「皆の者、静まれ!」

 

 私は一喝して会場を静めた。

 静かになったのを確認して私は語り始める。

 

「我々は長い間、人や神々に、何もないこの地に押し込められていた。食料は常に不足しており、環境は悪く、一切の娯楽が存在しないこの世界にだ!だが人間………?」

 

 私は回りがざわざわしているので一度スピーチを中断した。理由を探るためにキョロキョロと見回すとアスモデウスが近づいてきた。

 

「魔王様、足元の魔方陣は何ですか?」

 

 と私に耳打ちする。

 私は自分の足元を見る。……何これ?足元には見たことのない魔方陣が白い光を放っていた。

 見たことのないというのはシャルロッテの記憶にもないということだ。

 

 私の表情からこの状況を悟ったのか、アスモデウスは他の者に指示を出す。

 

「この魔方陣に心当たりのある者は今すぐ前へ出ろ!幹部の皆さんは大至急警戒に当たってください!」

 

 アスモデウスが指示を出している間に、魔方陣が徐々に大きくなっていることに気付いた。

 

「アスモデウス!」

 

「はい、わかっております!魔王様はそこから動かないでください。魔王様が動くことによって起動するかもしれませんから」

 

 私はアスモデウスの指示に従いその場から動かなかった。この得体の知れない魔方陣が怖くても、幹部を信じて任せることにした。

 

 だが時が経つにつれて魔方陣は大きく、光は激しくなっていく。そして私は動くことが出来なくなっていた。

 私はその魔方陣から脱出することが出来なくなってしまったのだ。

 

 助けを呼ぼうにも口が開かない。

 

 アスモデウスやルシフェル、ベルフェゴールたち幹部達が力ずくで魔方陣を壊そうとするも、魔方陣はびくともしなかった。

 

 彼女らの声も聞こえなくなり、伸ばされた手を掴もうとしても体が動かない。

 体の感覚がどんどん蝕まれていき、ついには視覚もなくなったとき、私は意識を失った。

あ、今更ですが鳴き声は7時スタートです

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